関大一、スタジアムに応援楽器が鳴り響くまで=<2回戦 羽黒(山形) 1−3 関西大学第一(大阪)>

平野貴也

おとなしかった前半から一転し、後半に波状攻撃

ゴールを決めた関西大学第一のFW井村一貴(右) 【たかすつとむ】

 国立再訪までの第一歩は、静かな勝利から始まった。前回大会ベスト4の関西大学第一(以下、関大一)は、初戦となった2回戦で羽黒高校を3−1で下した。
 関大一はキックオフボールで敵陣に攻め込むと、すぐさま中盤でファウルを受けてFKのチャンスを獲得。J1鹿島アントラーズ入団が内定しているMF梅鉢貴秀がロングパスを送ると、FW井村一貴が頭で合わせてゴールへ流し込んだ。手元の時計で試合開始35秒という早業だ。
 相手との実力差は明白で、羽黒は3−4−3という攻撃的布陣で臨みながら思うように前へ進めず、前半は30分過ぎにミドルシュートを2本放つのが精いっぱいだった。ただし、関大一もシュート数はわずか3。佐野友章監督が「1点目が非常に早く入ったので、相手のサッカー(スタイル)が分からないまま試合に入ってしまった。逆に浮足立ってしまったというか、前半はうちのサッカーができなかった。ハーフタイムには『負けるためにやってきたんか!』と喝を入れた」と振り返ったように、関大一は落ち着いた守備こそ評価できるものの、攻撃面では勢いに乗り切れないまま試合が進んだ。ハッキリ言えば、相手に助けられた感が強かった。

 しかし、後半になると次第に持ち味を発揮するようになった。井村が前線で仕掛けると中盤が連動して押し上げ、分厚い波状攻撃を展開。後半10分にセットプレーから追加点を挙げると、一気に攻撃を加速させ、後半だけで15本ものシュートを浴びせた。
 試合終盤の3点目は右から左へとボールを運びながら全体が押し上げ、足の止まった相手を置き去りにして決めたもので、ようやく本来の姿が垣間見られた。危なげなく勝ったにもかかわらず、監督や選手のコメントに強い喜びが感じられなかったのは、あまりにもおとなしかった前半が課題として残ったからにほかならない。梅鉢は「早い時間に先制点が取れて、気が緩んでいる部分があった。球際の強さ、(プレスの)寄せの早さ、ルーズボールへの対応が甘くなっていた。それなのに、引き締められなかったのは主将として課題」と自ら修正点を指摘した。

「2つ勝って、5日の応援に行けるように頑張ってください」

今大会、NACK5スタジアム大宮のスタンドには、ブラスバンドやチアリーダーの姿はない 【たかすつとむ】

 おとなしかったのはピッチだけではなかったが、こちらは事情が異なる。試合会場となったNACK5スタジアム大宮は、近隣の住民からの申し入れにより、楽器を使用した応援が禁止となった。そのため、例年と比較すれば応援のボリュームが落ちる。それでも関大一の応援団は、メンバーに入れなかったサッカー部が中心となり、メガホンとスティックバルーンを用いて、大きな掛け声で選手を後押しした。
 応援団長を務める井上隼吾君(3年生)は「何もなくても応援はできる。でも、楽器がある方が声はまとまるし、音があると僕たちだけじゃなくて周りの(一般観戦の)人も応援しやすくて一体感が出る。できれば、(準々決勝まで)勝ってそういう応援を楽しみたい」と、大舞台での本領発揮を熱望した。

 応援について「予選と同じような応援をしてくれたし、(スタンドからピッチまでの)距離が近くてよく聞こえていたから、励みになったと思う。ブラスバンドやチアリーディングの生徒からは『2つ勝って、5日の応援に行けるように頑張ってください』と言われているんですけど。でも、今日の前半のような試合では明日どうなるか分からないので、次の試合に集中したい」と話した佐野監督は元日に神田明神で初詣でを行い、初戦突破と昨年以上の成績への力添えをお願いしたという。

 初戦は突破したもののスロースタートとなった関大一。もう一つ勝てば、前回大会に並ぶ4強入りに向け、大応援を受けて戦うことができる。次戦こそ「月まで走れ」のスローガンを体現し、エンジン全開の走力サッカーを披露できるか。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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