静岡学園が実践する、「頑張りどころを知る」強さ=<1回戦 静岡学園(静岡)2−0米子北(鳥取)>

小澤一郎

1回戦屈指の好ゲームもワンサイドゲームに

ワンチャンスを生かし先制点を決めた廣渡。以降は、静岡学園のワンサイドゲームになった 【鷹羽康博】

 秋の高円宮杯全日本ユースで高校勢として唯一4強に入った今大会の本命の1つ、静岡学園。鹿島アントラーズ入団内定のDF昌子源と川崎フロンターレ入団内定のFW谷尾昂也という二枚看板を擁する米子北。1回戦屈指の好カードと言っても過言ではない注目の試合だけに等々力陸上競技場には9000人もの観客が集まった。

 試合は序盤から「ポゼッションの静岡学園」と「カウンターの米子北」という分かりやすい図式となった。この図式から導き出されるイメージ通り、静岡学園がボールを支配する展開となるも、序盤に決定機を作ったのは米子北。中盤の4人をフラットに並べ自陣で静岡学園の侵入を待ち、素早いカウンターとエース谷尾をターゲットとしたロングボールで得点を狙う。18分にはそのロングボール戦術からFW小笹晃がフリーでシュートを打つも枠を外れる。23分には、昌子がFKから強烈な長距離砲を放つが、ポストにはじかれた。

 ここで米子北が先制していれば、どう転ぶか分からない試合になったかもしれないが、27分に静岡学園がワンチャンスから先制点を奪うと、その後は一方的なワンサイドゲームとなった。静岡学園の川口修監督は、「今日は彼がいない分、中盤の組み立て、ボール運びに戸惑った」と川崎入団内定の司令塔・大島僚太の不在(※静岡県予選決勝での退場により出場停止)の影響を口にしていたが、恐らくこの展開で大島がいれば大差のつくゲームになっていただろう。

 米子北の城市徳之監督は、ゲームプランを次のように説明してくれた。
「前半は、粘り強くブロックをしっかり作り、少ないチャンスだろうけどしっかり攻撃していこうというのが目標。前半0−0がベストでしたが、0−1は想定していました」
 昌子に至っては、「前半は0−1、0−2も覚悟の上で戦っていました」とまで語っていたが、米子北としては「後半勝負で相手は後半の最後に足が止まるかもしれない。ウチはそこが止まらないのが特徴なので最後にラッシュをかけたかった」との監督の狙い通り、後半の粘りとチームとしての運動量に期待していたようだ。

 しかし、ボールとエネルギーのロスが少ない静岡学園のポゼッションサッカーを前に先に足が止まったのは米子北だった。谷尾が「しんどかった」と漏らしたように、ボランチや縦パスのコース限定のみの守備タスクに終始したFWでさえ、受動的に走らされることで心身両面の疲労度を深めていった。
 米子北の今年のテーマは得点で、谷尾擁する攻撃陣は城市監督の記憶によれば「今季得点ゼロに終わった試合はなかった」という。その米子北に序盤以外、チャンスらしいチャンスを作らせず後半に追加点を決めて、2−0と完封勝利を収めた静岡学園のサッカーは一言でいうと「圧倒」。

守備で踏ん張れるだけの余力を残す静岡学園

静岡学園は守備で米子北を圧倒。パワーの使いどころを心得た効率的なサッカーを見せた 【鷹羽康博】

 技術で圧倒する。ポゼッションで圧倒する。優勝候補の一角にも挙げられた米子北を圧倒したこの日の静岡学園を表現するなら、こうした言葉になるのだろうが、実はこの日の静岡学園の圧倒で目立っていたのは守備だ。ボールロスした瞬間の反応、アプローチスピード、プレスの連動性が素晴らしい。

 敵将の城市監督も「個々の技術が高くて仕掛けもある。バランスを見ながら相手をいなすこともできる。非常に選択肢が多いサッカー」と前置きしながら、「静学は去年対戦した時に比べてプレスバックができて、守備の意識が強くなっていました。センターバックのカバーリングもすごく良くなっていて、修正されているなと感じました。攻撃ばかりが強調されますが、今日の静学はDFのカバーリングや(中央を)2バックではなく3バックで対応するなどリスク管理もできていた。勝ち上がる、勝てるチームだと感じました」と舌を巻く。

 ボールを奪うまでにかなりのエネルギー、受動的な走力を費やし、奪った後に効果的な攻撃に転じることができなかった米子北とは対照的に、静岡学園はGKを使いながらひょうひょうと最終ラインからゲームを組み立て、アタッキングサードに入ってからの崩しやボールを奪い返す場面にフルパワーを使っていく効率的なサッカーを行っていた。
 川口監督は今年のチームの特徴の1つである球際の激しさについて、「それは瞬間、瞬間の選手の判断なんで。危険な選手には自然と厳しくいかなきゃいけないと思っているはず」と説明するが、テクニックをベースにボールと創造性を大切にする静岡学園のサッカーは守備で踏ん張れるだけの余力を常に残している。

 どれだけ鍛え抜かれた高校生でも選手権という張り詰めた大舞台で80分間全力疾走し続けることは容易ではない。また、そうしたサッカーを短期集中開催の日程で続けることは不可能に近い。圧倒的な技術をよりどころにボールロスの少ないポゼッションサッカーで効率良く、楽しく勝ちを追求する静岡学園はこれまで日本の高校サッカー界で稀有(けう)な存在に見られていたが、ある意味、世界のサッカー界では当たり前に考えられていることを実践しているだけなのではないか。

 静岡学園のサッカーを見ながら、常に頑張ることはある一面で「高校生らしい」のかもしれないが、頑張ることの重要性を認識しながら、「頑張りどころを知ること」の方がより重要でより効果的なのだと確信に近い思いを抱いた。
 中等部出身のレギュラーが過半数に近い選手構成から分かるようにアイデア、発想力のあるクリエーターを一貫指導で輩出し始めている静岡学園。この先の結果は、運にも左右されるだろうが、「育成機関」として彼らが表現、発信しているものは日本サッカー界にとって実に興味深い。

<了>
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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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