静岡学園が実践する、「頑張りどころを知る」強さ=<1回戦 静岡学園(静岡)2−0米子北(鳥取)>
1回戦屈指の好ゲームもワンサイドゲームに
ワンチャンスを生かし先制点を決めた廣渡。以降は、静岡学園のワンサイドゲームになった 【鷹羽康博】
試合は序盤から「ポゼッションの静岡学園」と「カウンターの米子北」という分かりやすい図式となった。この図式から導き出されるイメージ通り、静岡学園がボールを支配する展開となるも、序盤に決定機を作ったのは米子北。中盤の4人をフラットに並べ自陣で静岡学園の侵入を待ち、素早いカウンターとエース谷尾をターゲットとしたロングボールで得点を狙う。18分にはそのロングボール戦術からFW小笹晃がフリーでシュートを打つも枠を外れる。23分には、昌子がFKから強烈な長距離砲を放つが、ポストにはじかれた。
ここで米子北が先制していれば、どう転ぶか分からない試合になったかもしれないが、27分に静岡学園がワンチャンスから先制点を奪うと、その後は一方的なワンサイドゲームとなった。静岡学園の川口修監督は、「今日は彼がいない分、中盤の組み立て、ボール運びに戸惑った」と川崎入団内定の司令塔・大島僚太の不在(※静岡県予選決勝での退場により出場停止)の影響を口にしていたが、恐らくこの展開で大島がいれば大差のつくゲームになっていただろう。
米子北の城市徳之監督は、ゲームプランを次のように説明してくれた。
「前半は、粘り強くブロックをしっかり作り、少ないチャンスだろうけどしっかり攻撃していこうというのが目標。前半0−0がベストでしたが、0−1は想定していました」
昌子に至っては、「前半は0−1、0−2も覚悟の上で戦っていました」とまで語っていたが、米子北としては「後半勝負で相手は後半の最後に足が止まるかもしれない。ウチはそこが止まらないのが特徴なので最後にラッシュをかけたかった」との監督の狙い通り、後半の粘りとチームとしての運動量に期待していたようだ。
しかし、ボールとエネルギーのロスが少ない静岡学園のポゼッションサッカーを前に先に足が止まったのは米子北だった。谷尾が「しんどかった」と漏らしたように、ボランチや縦パスのコース限定のみの守備タスクに終始したFWでさえ、受動的に走らされることで心身両面の疲労度を深めていった。
米子北の今年のテーマは得点で、谷尾擁する攻撃陣は城市監督の記憶によれば「今季得点ゼロに終わった試合はなかった」という。その米子北に序盤以外、チャンスらしいチャンスを作らせず後半に追加点を決めて、2−0と完封勝利を収めた静岡学園のサッカーは一言でいうと「圧倒」。
守備で踏ん張れるだけの余力を残す静岡学園
静岡学園は守備で米子北を圧倒。パワーの使いどころを心得た効率的なサッカーを見せた 【鷹羽康博】
敵将の城市監督も「個々の技術が高くて仕掛けもある。バランスを見ながら相手をいなすこともできる。非常に選択肢が多いサッカー」と前置きしながら、「静学は去年対戦した時に比べてプレスバックができて、守備の意識が強くなっていました。センターバックのカバーリングもすごく良くなっていて、修正されているなと感じました。攻撃ばかりが強調されますが、今日の静学はDFのカバーリングや(中央を)2バックではなく3バックで対応するなどリスク管理もできていた。勝ち上がる、勝てるチームだと感じました」と舌を巻く。
ボールを奪うまでにかなりのエネルギー、受動的な走力を費やし、奪った後に効果的な攻撃に転じることができなかった米子北とは対照的に、静岡学園はGKを使いながらひょうひょうと最終ラインからゲームを組み立て、アタッキングサードに入ってからの崩しやボールを奪い返す場面にフルパワーを使っていく効率的なサッカーを行っていた。
川口監督は今年のチームの特徴の1つである球際の激しさについて、「それは瞬間、瞬間の選手の判断なんで。危険な選手には自然と厳しくいかなきゃいけないと思っているはず」と説明するが、テクニックをベースにボールと創造性を大切にする静岡学園のサッカーは守備で踏ん張れるだけの余力を常に残している。
どれだけ鍛え抜かれた高校生でも選手権という張り詰めた大舞台で80分間全力疾走し続けることは容易ではない。また、そうしたサッカーを短期集中開催の日程で続けることは不可能に近い。圧倒的な技術をよりどころにボールロスの少ないポゼッションサッカーで効率良く、楽しく勝ちを追求する静岡学園はこれまで日本の高校サッカー界で稀有(けう)な存在に見られていたが、ある意味、世界のサッカー界では当たり前に考えられていることを実践しているだけなのではないか。
静岡学園のサッカーを見ながら、常に頑張ることはある一面で「高校生らしい」のかもしれないが、頑張ることの重要性を認識しながら、「頑張りどころを知ること」の方がより重要でより効果的なのだと確信に近い思いを抱いた。
中等部出身のレギュラーが過半数に近い選手構成から分かるようにアイデア、発想力のあるクリエーターを一貫指導で輩出し始めている静岡学園。この先の結果は、運にも左右されるだろうが、「育成機関」として彼らが表現、発信しているものは日本サッカー界にとって実に興味深い。
<了>
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