流通経済大柏、“高体連最強”の称号を証明へ=第89回高校サッカー選手権・注目校紹介 第4回

鈴木潤

ハイプレスを生み出すフィジカルトレーニング

“高体連最強”との呼び声高い流通経済大柏。評判通りの強さを見せ付け、全国を制することはできるか 【平野貴也】

 流通経済大柏へは何度も取材に訪れているが、その中でも鮮明に記憶していることがある。
 練習前、本田裕一郎監督から「今日はフィジカル中心なので、戦術的なトレーニングはしない」と言われていたため、おそらくランニングや筋力トレーニングが中心なのだろうと思い、グラウンドへ向かった。

 ところが練習風景を目にして驚がくした。選手たちは4対2や5対3のボール回しを行っていたのだが、オフェンス側は足ではなく手でボールを扱っていたのだ。サッカーというよりは、それはまるでラグビーだった。
「足だとどうしても技術の差が出てしまうから、手を使うことで体力に負荷をかける」

 どっしりとベンチに腰を下ろした本田監督は、練習の意図をそう解説してくれた。つまり手でボールを扱うため、オフェンス側にはトラップミスやパスミスといった要素が一切なくなる。したがって、ディフェンス側は通常の足で行うボール回し以上に素早く寄せなければならず、オフェンス側もディフェンス側も体力的な負荷は相当かかる。当然、判断の早さも求められ、しかも複数人の場合はその判断を連動させなければならない。本田監督はそのメニューを「週に一度のフィジカル練習」と淡々と言うだけであったが、その濃密な内容には流通経済大柏が試合で繰り出すあのハイプレスの生命線ともなるフィジカル、判断力、連動性が凝縮されており、彼らの強さを垣間見た気がした。

 今年のチームも、おそらくそうやって鍛え上げられたのだろう。キャプテンであり守備の要を担う増田繁人は「局面では個人でもチームでも負けない自信があります」と胸を張って答える。

インターハイ王者の市立船橋に4戦全勝

 今年の高校選手権千葉県大会決勝にて、流通経済大柏は、そのハイプレスで市立船橋を圧倒し、パスを3本とつながせず、前線に意図のないロングボールを蹴り込むだけの戦い方に終始させた。最終スコアは1−0だったが、両者の実力の差は歴然としていた。

 市立船橋とは今年1年を通じて4度対戦し、流通経済大柏はいずれも勝利を収めている。しかもそのうち2度は完勝であり、インターハイ千葉県予選決勝では、主力の大半を温存した“1軍半”で県下のライバルを撃破。インターハイ王者が4度対戦してすべて敗れたというこの事実は、今年の流通経済大柏に与えられた“高体連最強”とのフレーズが、決して大げさな表現ではないことを物語っている。

 すでに春先の時点で、メディア及び高校サッカー関係者から「今年の流通経済大柏はタイトルを取れるチーム」と伝えられていた。4月に開幕したプリンスリーグでも、彼らはその高い実力をいかんなく発揮し、東京ヴェルディユース、FC東京U−18とは引き分け、横浜F・マリノスユースには5−0の大勝を収めるなど、Jリーグのクラブユース相手に一歩も引かず、強豪ひしめくプリンスリーグ関東1部で見事2位に食い込んだ。
「今年のチームはクラブユースと対等にやれる力を持っている」
 試合後に本田監督から話を聞いた時、笑みを浮かべてそう語った穏やかな表情が、実に印象的だった。

3年前のチームと同等の力を持っているのか

189センチの長身を生かした高さに定評がある増田(右)。キャプテンとしてチームをまとめる 【平野貴也】

 好選手もめじろ押しである。攻撃の核・吉田真紀人はレフティー独特のテクニックと感性を持ち、なおかつ屈強なフィジカルとメンタルを兼ね備えている。さらにチームを選手権出場へ導くゴールを決めたように勝負強さがあり、柴崎岳(青森山田)、宮市亮(中京大中京)、小島秀仁(前橋育英)といったこの世代を代表する選手たちと比較しても遜色(そんしょく)ないタレントだ。そのほかにも、スピードと抜群の決定力を誇るFW田宮諒、大型ストライカー宮本拓弥らが形成する攻撃陣は高い破壊力を有し、テクニック、身体能力、運動量の3拍子そろったボランチの富田湧也や、189センチの長身DF増田など、各ポジションにハイレベルの選手を配置しており、控えの層も充実している。

 だが、「タイトルを取れる」と言われながらも、ここまで今年の流通経済大柏は無冠。故に、いくらメディアから“高体連最強”とうたわれようが、インターハイ王者に完勝しようが、本田監督は時折われわれに見せる自信に満ちた発言とは対照的に、「去年のチームの方が強かった」という評価を今年の選手とチームには下し、時にはエースの吉田に対しても「全然ダメだ」と叱責(しっせき)して、選手の反骨心をあおるような采配(さいはい)を見せる。決して手綱を緩める気配を漂わせてない。

 今年1年間、流通経済大柏を取材した結論から言わせてもらえば、本田監督はおそらく3年前と同等の手応えをつかんでいると思われる。大前元紀(現、清水エスパルス)を擁し、高円宮杯と選手権の2冠に輝いたあの時のチームも、思い起こせばインターハイ王者の市立船橋を県大会決勝で1−0と下し、本大会では圧倒的な勝ち上がりを見せた。
 果たして今年のチームに与えられた“高体連最強”の称号は本物か。そして、3年前のあのチームと同等の力を本当に持っているのか。今、試される。

<了>
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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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