神村学園、どん底から這い上がったその先に=第89回高校サッカー選手権・注目校紹介 第2回
予想だにしない屈辱の日々
強力攻撃陣の中心を担う小谷。あと一歩でベスト4の切符を逃した前回大会の雪辱を誓う 【安藤隆人】
抜群の反応と安定したキャッチングを誇るGK吉満大介(3年)、攻撃的右サイドバックであり精神的支柱の前鶴祥太(3年)、中盤のテクニシャン・小谷健悟(3年)、決定力抜群のスーパーサブ・福島遼(3年)という核が残った今年、神村学園が九州を席巻するのではないかと目されていた。
確かに、その予兆はあった。2月の九州新人大会(九州、沖縄各県の新人戦上位2チームが参加)。ハイレベルな戦いが毎年繰り広げられるこの大会で、神村学園は持ち味の攻撃サッカーを存分に披露して見事、優勝を飾った。
しかし、幸先のいいスタートを切った彼らを待っていたのは、予想だにしない屈辱の日々だった……。
迎えたプリンスリーグ九州1部では、開幕戦の東海大五戦こそ勝利を収めるが、第2節の日章学園戦で0−5と大敗。この敗戦を機に、チームは一気に崩れていった。
「正直、何が何だか分かりませんでした。新人戦で九州を制して、イケると思ってしまった。それまでの練習試合で調子が良くなかったのに、あれで少し勘違いしてしまったかもしれません。それで日章学園にやられて、一気に崩れてしまった」と、小谷が語ったように、連係ミスやパスミスなどが重なり、組織としてうまく機能しないまま、ズルズルと時が過ぎた。プリンス九州の最終成績は、2勝3分6敗の最下位(12位)。まさかの来季2部降格の憂き目に遭ってしまった。
インターハイ(高校総体)鹿児島県予選でも早々に姿を消した。負傷で入院していた主将の前鶴は「入院中にいきなり『3回戦で負けた』と聞いた時は、本当に信じられませんでした。すぐに親に電話して確認したくらいです」と、その衝撃の大きさを口にした。
「プリンスも負けて、もう僕らには選手権しか残っていなかった。僕も復帰して、全員で選手権で這い上がっていくために、夏を懸命に乗り切ろうと覚悟できました」(前鶴)
このままでは終わらせない。全員が心を1つにして、過酷な夏合宿が始まった。
1、2年生の成長と3年生の責任感
この成果はすぐに出た。抜群の得点力と突破力を誇るスーパールーキーのFW野嶽惇也(1年)、前鶴と右サイドでコンビを組むMF永富弘之(2年)、クレバーな読みが光るセンターバック西星哉(2年)ら1、2年生が成長し、小谷、前鶴、吉満ら3年生の責任感も増した。
「あの合宿が終わっても、必死で練習しました。試合のメンバーも変わって、1、2年生が多くなってきたので、彼らに刺激を受けて、僕ら3年生も必死になりました。もう選手権しかないし、僕らもレギュラーを確約されたわけではないので必死でした」(小谷)
1、2年生と3年生が刺激し合ってチームは活性化し、そして一枚岩となっていく。
選手権県予選ではベスト4まで勝ち上がると、準決勝はプリンス九州で敗れた鹿児島実業に3−0の完勝。決勝は、新人戦と総体予選覇者で、サンフレッチェ広島入団が内定しているMF鮫島晃太を擁する鹿児島城西と雌雄を決した。1−1のまま延長戦までもつれ込んだ接戦は、相手の攻撃を守備陣が耐えしのぐと、終了間際のロスタイムに福島が気迫の決勝弾をたたき込む劇的な幕切れで、2年連続で全国への切符をつかんだ。
「もうあんな思いはしたくない。今は昨年のように1人1人の力はないけど、まとまりには自信がある。勢いに乗ったら止められないと思う」(前鶴)
苦しみを乗り越えた神村学園。しかし、まだ真の意味で「這い上がった」とは言えない。前回は国立を目前にして涙した。ならば、国立のピッチに立ってこそ、この言葉は本当の意味を手にするはずだ。
初戦の相手は前橋育英、そして同ブロックには室蘭大谷、四日市中央工、流通経済大柏と強豪ひしめく大激戦区に入ってしまったが、どん底を味わった彼らに臆するものは何もない。強い気持ちと「這い上がる」精神を持って挑むだけだ。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ