U−21代表、逆境を乗り越えた雑草軍団=アジア大会・金メダルの要因
中国に快勝したことで恵まれた組み合わせに
期待されない中、金メダルという結果を出したU−21代表 【Getty Images】
1つ目は対戦相手の組み合わせに恵まれたこと。グループリーグの対戦相手は中国、マレーシア、キルギス。開催国中国との初戦はこの中でもっとも警戒して臨んだ試合だった。大会前の現地報道でも日本が2軍メンバーを送り込むことが知らされており、「中国楽勝」という論調が大多数だった。しかし、ふたを開けてみれば真逆の結果。中国が思いのほか弱かったことで日本は一気に勢いづいた。
日本にとって問題だったのはグループリーグを何位で通過するかということだった。1位で通過すれば極端にラクな試合が続くが、2位通過となると韓国、もしくは北朝鮮というタイトルを本気で狙いにきているチームと決勝トーナメント1回戦で対戦することになってしまう。初戦の中国戦に勝利したことで、マレーシア、キルギスという格下には余裕を持って勝利することができ、決勝トーナメントはインドとの対戦からスタートできたことは大きかった。
キャプテンを務めた山村和也も「決勝トーナメントで強いチームが全部逆の山に入ったことがラッキーだった。決勝までは運も大きかった」と認めている。
準々決勝以降は、タイ、イラン、そして決勝はUAEと相手のレベルも高くなったが、これが段階的に上がったことも良かった。
「イランとやってからUAEだったから、少し中東のサッカーに慣れてから対戦できた」と薗田淳も振り返っている。結局、本当に苦戦したのは決勝のUAE戦くらいだった。
ノープレッシャーの中で伸び伸びとプレーできた
例えば、主力の1人水沼宏太は「僕には失うものがないので」と話していた。U−16代表時代から世代別代表にコンスタントに招集されるいわばこの世代のエリートである水沼だが、今は横浜F・マリノスから栃木SCに期限付き移籍中の身。「かっこつけたり、自分が目立とうというのがなくなった。とにかくチームに貢献しようと思える」と意識が全く変わったのだという。
彼のような挫折からの復活途上の選手にとって2軍といわれるこのチームで臨む国際試合は、プレッシャーのかかるものではなく逆に「見返してやる」という思いを強くするものだった。
加えて、アジア大会という、この世代のメーンイベントである五輪予選とは全く関係のない試合だったことも彼らがノープレッシャーで戦えた理由になるだろう。アジア大会というイベント自体は五輪の2年前に行われる言わば予選の前哨戦でもあり、重要視する競技も少なくないはずだ。だが、サッカーに関しては必ずしもそうではない。「この大会って、昔からサッカーも参加してました? 全然知らなかったけど来てみたら大きな大会でびっくりしました」と話した選手もいるほどだ。
選手たちがプレッシャーを感じたのはなでしこジャパンが金メダルを獲得して以降だという。
「なでしこの選手たちに、朝食会場で金メダルを見せてもらいました。メダルは輝いて見えました」と薗田は話す。
なでしこが決勝を終えた後に行われた準決勝、決勝の2試合は「銀メダルだったら地獄。なでしこが金メダルを取っているわけだし」と、選手たちはそれなりのプレッシャーを感じてはいたようだ。だが、それも金メダルを目指すプラス面での重圧。「負けられない、負けたら終わる」というようなプレッシャーではなかった。こうした、精神的な負担の少なさが勝利の要因となったことは間違いない。