アルゼンチン対ブラジル、最大の勝者はメッシ

アルゼンチン代表で唯一無二の選手であることを証明

ブラジル戦で終了間際に決勝ゴールを決めたメッシ 【写真:ロイター/アフロ】

 11月17日にカタールのドーハで行われたアルゼンチン対ブラジルの親善試合にもし勝者がいたとしたら、それは間違いなくリオネル・メッシだろう。試合終了間際に唯一のゴールを決めたバルセロナのスーパークラックは、90分間彼をマークしていた選手たちを恐怖に陥れた。

 メッシの資質をいまや疑うものはいないが、ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会でアルゼンチン代表としてプレーしたメッシが、バルセロナでのメッシとは別人だったという批判はよく聞かれる。だがこの日、メッシは宿敵ブラジルとの試合で、唯一無二の選手であることを証明した。試合後には、「僕らは5年間もブラジルに勝っていなかった。だから、どんなことをしても勝つ必要があったんだ」と語っている。そしてマークの中にただ埋没するだけではなく、最後に試合を決めるという決意をもって、彼が日ごろクラブで披露しているパフォーマンスで相手を打ち負かした。

 23歳のメッシは少年というより、すでに成熟した大人だが、サッカーがもはや子どもの遊びではなくなった12歳ごろから、地元アルゼンチンのチームでは頭角を現し始めていた。そして今では、アルゼンチン代表をけん引する存在となり、本人はピッチの外でもリーダとなる決意を固めている。バルセロナのチームメートで友人でもあるハビエル・マスチェラーノからキャプテンマークを譲り受けるのも時間の問題だろう。

メッシに厚い信頼を寄せるバティスタ監督

 ブラジル戦後の記者会見で、アルゼンチン代表のセルヒオ・バティスタ監督はメッシに厚い信頼を示し、これまでと今後のエースについて言及した。
「彼はチームにとって非常に重要な存在だ。フィールドの中でも外でも、選手たちは彼の言葉に耳を傾けている」
 この指揮官の言葉は、以前には聞かれなかったものだ。メッシとアルゼンチン史上最高の選手の座を“競う”前監督のディエゴ・マラドーナは、事あるごとにメディア向けにパフォーマンスを行った。メッシがW杯・南アフリカ大会で窮屈な思いをし、伸び伸びとプレーできなかったのは想像に難くない。

 セントラルMFとして1986年のW杯・メキシコ大会でプレーし、優勝メンバーの一員となったバティスタは、監督の仕事をきちんと理解している。指揮官は選手の上に立つべきではなく、やや後ろから控えめに支える、論争など不必要だと。そして、メッシが今、大スターとして成熟し、さらに大きく羽ばたこうとしていることを。マーケティングの観点からも、このエースストライカーはアルゼンチン代表、そしてAFA(アルゼンチンサッカー協会)に恩恵を与える存在である。

 だからこそバティスタは、アルゼンチン代表はこのベストプレーヤーを中心に構築し、指揮官が定義する4−3−3のシステム――ブラジル戦ではむしろ4−2−3−1になることが多かったが――を採用するべきだと分かっているのだ。4−3−3はメッシがバルセロナでやり慣れている布陣である。ブラジル戦のスタメンはメッシ、ゴンサロ・イグアイン、アンヘル・ディ・マリアの3トップが起用され、メッシとディ・マリアは最前線のイグアインより後方にポジションをとり、1トップ3シャドーのようになっていた。

 実際、バティスタはチームがもっとボールを触るべきだと考えており、長い時間ボールを保持するために、テクニックのあるタレントでチームを構成しようとしている。しかし、ブラジル戦ではそれができなかった。パレルモに所属するニュースター、MFのハビエル・パストーレが試合に入り込めず、攻撃のつなぎ役として機能しなかったからだ。アルゼンチンの時間もあったが、全体的にはブラジルが優位に立つ試合となった。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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