清水の決断、長谷川監督退任が意味するもの=現状維持ではなく次のステップへ

飯竹友彦

外国人監督を招へいする方向

変革期を迎えた清水を、これからは岡崎(右)、藤本(10番)らが中心となって引っ張っていく 【写真は共同】

 次期監督候補には、現イラン代表監督のアフシン・クォトビ氏や元サウジアラビア代表監督のヘラルト・ファンデレム氏などの名前がすでに新聞各紙に挙がっている。

 望月強化部長は、「今、名前は出せない」とこうした報道に関しては否定も肯定もしていないが、「アジアや世界を見られる人、グローバルな経験を持っている人。サッカー的には自分たちでアクションができる。そういうスタイルの人を考えている」(同望月強化部長)と、すでに条件に合う指導者を何名かリストアップしていることを認めている。報道にあったように、日本人監督ではなく外国から監督を招へいするという方向は間違いないだろう。

 また、監督人事と同様に主力選手の契約に関しても、クラブのこれからのビジョンが大きく反映されていることが分かる。すでに報じられているように、ヨンセン、伊東輝悦、市川大祐、西部洋平とは来季の契約が結ばれないことが決まっている。単純に高額年俸の選手が順番に切られている印象を受けるが、「決してそうではない」と望月強化部長は言う。

 言葉の真意はこうだ。単純に今季1年のパフォーマンス、成績だけを見て決めたのではなく、過去数年の内容を踏まえて決断を下した。その結果、契約をしないという。確かに、けがや若手の台頭によって、先に名前が挙がった選手たちは絶対的なレギュラーではなかったかもしれない。例えば、昨年の終盤は正GKを山本海人が務めていた時期があるし、今年は右サイドバックのレギュラーを辻尾真二が奪ったこともある。また、ボランチに関しては本田の台頭によって今年は、伊東の出番が減ってきている。ヨンセンにしても、期待された2ケタ得点は2年連続で達成できていない。そこに「ノンタイトル」という重りがついてくる。

 そう考えると、緩やかではあるが、在籍メンバーを入れ替える時期、変化の時期に来ているのかもしれない。放出リストに挙がっている選手の名前だけを聞けば、生え抜きのベテラン選手も居てかなりショッキングな出来事だが、シビアな言い方をすればクラブは名よりも実を取ったと判断したということになる。

 また下世話な話かもしれないが、ヨンセン、伊東、市川、西部、青山(ゼロ円提示ではないが、すでに移籍が報道されている)を含めた5選手の年俸や、そのほかにかかわる経費を計算すると軽く見積もっても総額では億単位での経費が圧縮できるのも事実だ。同じ力があるなら、安くて若い将来性のある選手を使う。それが結果的にドラスティックに見えることもある。その理論は、ある側面からすれば間違っていないし、プロの門をたたくとき、「この世界は決して甘くないぞ」と誰しもが言われて飛び込んできたのだ。それだけに、結果(記録、契約)がプロの世界ではすべてだということくらい、選手たち本人が一番理解しているはずだろう。

近い将来、有望な即戦力候補の加入も

 では、これから先、清水はどこへ向かって行くのだろうか。
 先の記述にもあるように、クラブは世界、アジアを見据えた監督人事を進めており、チームとしては日本だけに収まらず、次のステップアップのために踏み出そうと考えていることは間違いない。AFCチャンピオンズリーグ出場はもちろん、タイトルの取れるチーム作りを目指す。

 選手の人事に関しても、在籍する若い選手の成長や、選手の発掘に自信を持っているからこそ、こうした血の入れ替えに踏み切れたものと考えられる。昨年から今年にかけ、清水の練習に参加している大学生には、河井陽介、藤田息吹(共に慶應大学)、六平光成(中央大学)、八反田康平、瀬沼優司(共に筑波大学)といった、他クラブがうらやむほどの即戦力候補となるメンバーがそろっている。すでに彼らの大半はアンダー世代で日本代表を験者しており、実力も十分。順調にいけば、近年中にこうした有望な新人選手たちも入団してくるはずだ。となれば、数年後から先の大まかなメンバー構成、チームの戦力バランスやビジョンも描きやすい。

 こうした状況は、例えるなら数年前に、兵働昭弘、藤本、本田といった大学生の即戦力クラスの連続して獲得し、主力に育て上げてきたころと似ている。以前と比べれば、チームの実力がついたこともあり、「エスパルスでプレーしたい」という選手も増えてきている。最近はアマチュア選手の獲得市場でも有利な立場にいると言ってもいいのではないだろうか。また、ベテラン選手と契約更新しないことで浮いた余剰金もあり、足りないポジションでは外国人選手を含めた補強も視野に入れているはずだ。
 このような背景もあって、今回ドラスティックな監督人事、選手の契約更改が推し進められたのだろう。すでにチームは新たなプランに向かって、大きな一歩を踏み出した。

 もっとも、2010年シーズンはまだ終わったわけではない。リーグ戦は5試合あり、念願のタイトル獲得に関しても天皇杯でその可能性を残している。退団の決まっている市川も「1試合でも長く、みんなと同じオレンジのユニホームを着てプレーしたい。タイトルを取って終わることができればうれしい」と、すでに気持ちを切り替え、試合に集中している。長谷川監督も「最後まで全力を出して戦う」と宣言した。

 これは何も去っていく選手たち、退任する監督だけの気持ちではない。残留する選手たちも、「勝ち続けることが恩返し」(兵働)と、このチームで最後までしっかりやり遂げたいという思いは皆変わらない。残された時間は少ないかもしれない。しかし、彼らは悔いのないよう、今シーズンを全力で走り抜けようと、それぞれ心に誓っている。長谷川監督の下で一緒に戦ってきた6年間の証しを残すために。

<了>

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著者プロフィール

1973年生まれ。平塚市出身。出版社勤務を経てフリーの編集者・ライターに。同時に牛木素吉郎氏の下でサッカーライターとしての勉強を始め、地元平塚でオラが街のクラブチームの取材を始める。以後、神奈川県サッカー協会の広報誌制作にかかわったのをきっかけに取材の幅を広げ、カテゴリーを超えた取材を行っている。「EL GOLAZO」で、湘南ベルマーレと清水エスパルスの担当ライターとして活動した。現在はフリーランスの仕事のほか、2014年10月より、FMしみずマリンパルで毎週日曜日の18時から「Go Go S-PULSE」という清水エスパルスの応援番組のパーソナリティーを務めている。2時間まるごとエスパルスの話題でお伝えしている番組はツイキャス(http://twitcasting.tv/gogospulse763)もやっています。

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