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強さ増した木村沙織と、その負担=世界バレー
1次ラウンド総括

「ここ一番」での強さ

存在感をさらに増すエースの木村。活躍が光る一方、彼女への負担は課題のひとつとなっている
存在感をさらに増すエースの木村。活躍が光る一方、彼女への負担は課題のひとつとなっている【坂本清】

 1次ラウンドを終え、5戦5勝。最高のスタートを飾った日本のエースは、名実ともに木村沙織(東レ)であるのは間違いない。

 これまでは、攻守の要と取り上げられるたび「自分の1人の力ではないし、迷惑を掛けることのほうが多い」と謙遜(けんそん)してきた。だが、近ごろはその木村の言葉が少しずつ変わり始めた。

「よくも悪くも自分次第。自分が決められるかどうかで、試合の結果が変わる。最近はそう思うようになりました」


 世界選手権直前に代表へ初召集された中道瞳も、ともに東レアローズでプレーする木村に全幅の信頼を寄せている。

 1次ラウンド最終戦(3日)のセルビアとの試合もそうだった。

 日本が2−1とリードして迎えた第4セット、22−24でセルビアにセットポイントを握られた。竹下佳江(JT)に代わり、コートでトスを上げるのは中道。前衛には木村、井上香織(デンソー)、栗原恵(パイオニア)がそろい、後衛にもバックアタックを得意とする江畑幸子(日立)がいる。前後衛を合わせた4枚の攻撃が仕掛けられる状況ではあったが、それまでの打数や事前のデータから、セルビアのブロックは木村を止めるべく、ややレフト側に寄っていた。狙い通りに木村が止められれば、25点目を献上してフルセットに突入するだけでなく、日本が受けるダメージは大きい。

 それでも、中道は木村へトスを上げた。

「ここ一番のときはサオリの目の色が違う。代表だから、東レだからというのではなく、どんな場面でも『最後は絶対サオリにトスを上げれば決めてくれる』と確信があるので、迷いはありませんでした」

 2枚ブロックの間をストレートに抜き23点目を挙げると、サーブから相手の攻撃を切り返し、今度は山本愛(JT)からの二段トスを打ち抜き24点目も木村が決めた。これぞエース、と言うべき活躍であり、中道の言う「ここ一番」の勝負強さが光った場面だった。

木村活躍の一方で、露呈する現状

ネット際での巧みなボールさばき、判断力が光る木村
ネット際での巧みなボールさばき、判断力が光る木村【坂本清】

 だが、木村の活躍が光るたび、実はその陰にある脆さが見える。最も分かりやすい形で露呈したのが、やはりセルビア戦だった。

 2セットを連取されると、セルビア選手のほとんどが木村の攻撃数を減らそうと、ネットすれすれのフローターや、スパイクさながらのジャンプサーブを木村に向けて放つ。リベロの佐野優子(イトゥサチ=アゼルバイジャン)やライトの山口舞(岡山)がサーブレシーブのフォローに入るも、高い打点から放たれ、独得の変化をきたすサーブの返球は乱れ、アンダーハンドでの苦しいトスが続く。

 乱れた場面からでも速い攻撃を、とスピードばかりを意識するあまりセッターの竹下だけでなく、リベロの佐野が上げる二段トスも低くなり、限られたポイントで打つことを余儀なくされるスパイクは2、3枚とそろったセルビアのブロックにいとも簡単に阻まれる。ブロックに対峙(たいじ)する形となった江畑は「冷静に相手のブロックを見られず、熱くなってムキになった」と振り返ったが、理由はそれだけではない。

 実は1、2セットにも同様の場面は幾度となくあった。それでも、空中で打球の方向を変えたり、強打を打つと見せかけて軟打を放ったりするなど、木村の巧(うま)さでフォローしていたため、同様の場面が日本の得点シーンへと切り替わり、結果としてセットを得ていたのだ。しかし第3セットでは、木村が徹底してサーブで狙われたために「崩れたところからのコンビを練習しているとはいえ、ここしか使えないという場面も出てくる」と、大会前にセッターの竹下が危惧(きぐ)した状況へと陥った結果、連続失点を招き、セットを失った。

 木村は「自分が決められるかどうかで、試合の結果が変わる」と言うが、これはスパイクに限ったことではない。山口が言う。

「サオリの負担を大きくし過ぎてしまっているのは確かです。このままじゃ、この先が厳しくなるのは目に見えているので、サーブレシーブも、コンビでほかにブロックを引きつけることも含めて、何とかしていかないと……」


 1次ラウンドで露呈した脆さを克服し、木村頼みではなく、頼れるエースがいるチームとしての強さを発揮できるのか。

 木村は言う。

「1つ1つ試合を重ねていく中でチームが、自分たちが成長していきたい。次からが本当の勝負だと思っています」

 中国、トルコ、韓国、ロシアと対する2次ラウンドは、1次ラウンド最終戦から3日後。日本の真価が問われる戦いが始まる。


<了>

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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