前田遼一、変ぼうを遂げつつある磐田の大黒柱

本質を見せないマイペースの変わり者

磐田の攻撃を支える前田。2シーズン連続のJ1得点王も見据える
磐田の攻撃を支える前田。2シーズン連続のJ1得点王も見据える【写真:アフロ】

 ちまたで語られる血液型による性格診断には、どれだけの信憑(しんぴょう)性があるのだろうか。ものの本によると、AB型の男性は「防衛本能が強く、本質が出にくい。そのため、二面性や二重人格を指摘されることがしばしば。しかし冷静で一歩退いたところから物事を観察しながら、大胆な行動をすることも」と説明される。とらえどころのなかった人物がいきなり目を瞠る働きをやってのける、というイメージか。


 それは占いレベルのお話で、科学的根拠は示されていないわけだが、ジュビロ磐田のFW前田遼一(29才)はまさに、AB型の典型のような男である。


「マイペースの変わり者。普段は目立たないのに、熱くなると周りが見えなくなり、暴走する。でも、何かやってのけそうな雰囲気もある」


 先輩の選手たちは、口をそろえて言った。こんな話もおまけで付く。


「遼一は何ひとつおかずがなくても、たくあんだけで炊飯器にある白飯を平らげてしまう」


 人間性とはまるで関係のない逸話ではあるが、なるほど、普通ではない。


 前田がAB型の真価を見せるのは、ピッチに立った時だ。ごつい体のディフェンダーが彼を目掛け、暴力的とも言える苛烈(かれつ)なタックルを仕掛けてくる。183センチ、80キロと立派な体格ながら、やや痩身に見える前田は今にもなぎ倒されそうなのだが、その刹那(せつな)、まるで時を止めたように相手と体を入れ替わり、あとは敵ゴールに向けて一気に疾走する。


<一体何が起こったのか?>


 気の毒なディフェンダーは、呆けたようにその行方を見守るしかない。

日本代表から外れたJ1得点王

 前田は昨シーズンのJ1リーグでその卓越したセンスを十全に発揮し、20ゴールを挙げて得点王に輝いた。頭、両足、どこからでも得点を狙えるストライカー。しかし、日本中が熱狂した南アフリカでのワールドカップ(W杯)の舞台に立つことはなかった。


「遼一は一度キレると誰がなだめても手に負えないから、それで岡田さんと衝突したんじゃないかな?」と憶測を語る関係者もいた。だが、はっきりしていることは国内リーグで得点王になりながら、日本代表のメンバーに入らなかった、と言う事実に尽きる。


 本人はそんな周囲の喧噪(けんそう)をよそに、今シーズンもJ1得点王の座を争っている。ザッケローニ新監督から日本代表メンバーにも選ばれた。“リベンジに燃えて”というよりは、冷淡なまでに目の前のプレーに専念している。激しい戦いが繰り広げられる試合の中での達観した佇まいは不思議ですらある。


「なぜ岡田監督は前田を本大会に連れて行かなかったんだ?」


 旧知のスペイン人記者は、ザッケローニ監督の初陣となった10月8日の日本対アルゼンチン戦のプレーを見て、驚嘆するように言った。前田はこの試合、後半20分から途中出場している。


「FWとしてシュートに持ち込むプレーが非常にうまい。一瞬で、相手と自分の間合いを感じることができる。自身の得点力の高さはもちろん、周りを生かす技にも長けている。しなやかなフォームなど、8月に引退を表明した元スペイン代表FWフェルナンド・モリエンテスとどこか似ている。リーガ・エスパニョーラでも通用する逸材だろう」

小宮良之

1972年、横浜市生まれ。2001年からバルセロナに渡り、スポーツライターとして活躍。トリノ五輪、ドイツW杯などを取材後、06年から日本に拠点を移し、人物ノンフィクション中心の執筆活動を展開する。主な著書に『RUN』(ダイヤモンド社)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)、『名将への挑戦状』(東邦出版)、『ロスタイムに奇跡を』(角川書店)などがある。

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