「1年目から最低10勝」――157キロ右腕・澤村の決意と覚悟=ドラフト注目選手

矢島彩

巨人などが1位候補に挙げる実力

 大学最速タイの157キロを誇る、中大・澤村拓一投手(4年=佐野日大高)。10月28日に行われるプロ野球ドラフト会議では、巨人を筆頭に複数球団が1位指名候補に挙げ、獲得に動いている。

 早大の斎藤佑樹投手(4年=早実高)を筆頭に“斎藤世代”は逸材ぞろいと言われていた。ところが故障や伸び悩む選手が多く、大豊作とは言いがたいものがある。例えば、左の目玉・佛教大の大野雄大投手(4年=京都外大西高)は左肩痛で秋季リーグ戦には一度も登板できなかった。澤村と同じ東都大学リーグの東洋大・乾真大投手(4年=東洋大姫路高)は勝ち星がなく(10月21日現在)、立正大の151キロ右腕・南昌輝投手(4年=県和歌山商高)もエースとしては不安定な投球が続いている。

 澤村も7月下旬に左脇腹を痛め、世界大学野球の日本代表を辞退。8月中旬にようやくキャッチボールを始めたばかりで、そのままリーグ戦に突入した。
 しかし、澤村は期待を裏切らなかった。9月21日の亜大戦(10回完封、16三振、1四死球)、10月1日の国士大戦(9回完封、6三振、1四死球)、14日の東洋大戦(9回2失点、6三振、2四死球/負け投手)、19日の国学大戦(14回1失点、6三振、2四死球)。調整不足の不安を一蹴する内容が続いている。なお、春もリーグ最多66回を投げて防御率1.23(2位)の数字を残している。これは豊富なスタミナ、体の強さのたまものだろう。

「野球が一番大事」プロ顔負けの“プロ魂”

 本人いわく「はまったら、とことんやる性格です」。栄養バランスや睡眠時間に細心の注意を払い、アルコールや炭酸飲料は一切口にしない。「野球人である以上、野球が一番大事」というプロ魂が根付いているからだ。プロで完全試合を経験している高橋善正監督も顔負けの徹底力、継続力を持っている。

 入学時から練習量と練習姿勢には際立つものがあった。同期の山崎雄飛投手(4年=芝浦工大高)は、1年時に澤村の自主練習の姿勢に驚かされ「自分もやらなければ」とスイッチが入ったという。澤村自身は2学年先輩の美馬学投手(現・東京ガス)に刺激を受けた。168センチの身長から伸びのある150キロの速球を投げる。「オンとオフの切り替えがうまい。やるときはしっかりやるところがすごい」。美馬もことしのドラフト指名は確実だ。

“157キロ”だけじゃない澤村の魅力

 澤村は、自らのターニングポイントは2年秋だと語る。入学後初めて1部で投げたシーズンだ。
「2部にいたときは、投げれば打たれっぱなし。すぐ降板していました。1部に上がって、人に見てもらえるような状況になって、自分にいいプレッシャーをかけられたと思います。今も(注目されることが)いい緊張感になれるようにしています」

 150キロ台は試合終盤にもたたき出す。フォーク、140キロ台のスライダー、そして今秋はカーブを使う機会も増えた。
「157キロは誰でも出せる数字じゃない。うれしいことですし、誇りを持っている。でも、そのストレートを生かすいろいろな技術は大切だと思う。そういう技術をもっともっと磨いていくべきだと思います。実際、今春から変化球を磨いてきましたし、ピッチングの幅自体は段々と広がってきていると自分では実感しています」
 その言葉通り、「春より変化球が良くなっている」というスカウトの声が軒並み増えている。女房役の鮫島哲新捕手(4年=鹿児島工高)は「澤村のいいところは、勝負どころで必ずいいボールが来ること。今季はそういうボールが増えた」と評している。

「1年目からフル回転」プロにかける熱い思い

 0対2で敗れた東洋大戦の後、澤村は報道陣の前で「何とかしてやろうという気持ちがない」と野手への不満をあらわにした。この発言は今に始まったことではなく、昨年から試合中のベンチでハッパとかけている。ふてぶてしいと思う人もいるかもしれないが、澤村流のチームメートへの愛情と受け取めたい。今秋開幕前には、こんなこともあった。「山崎投手との2枚看板を見たい」と話したら、澤村に注意された。
「違いますよ。澤村、山崎、上松の3枚看板ですよ! 上松もちゃんと書いてくださいよ!」
 2人以外で唯一ベンチに入っている4年生右腕・上松英一朗投手(酒田南高)を気遣ったのだ。

 ドラフト会議は目前。澤村のプロへの思いは明確だ。
「最低10勝ですね。1年目からフル回転するくらいじゃないと、大学を経由してプロへ行く意味がない。行ったらすぐ活躍するくらいの実力をつけていかないと、行く意味のない世界だと思います」
 並々ならぬ決意と覚悟を持って飛び込むつもりだ。

<了>
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著者プロフィール

 1984年、神奈川県出身。『アマチュア野球』、『輝け甲子園の星』『カレッジベースヒーローズ』(以上、日刊スポーツ出版社)や『ホームラン』(廣済堂出版)などで雑誌編集や取材に携わる。また、日刊スポーツコム内でアマチュア野球のブログを配信中

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