ユース対高校の構図が生み出した新時代のスタイル=高円宮杯決勝 広島ユース 2−1 FC東京U−18
「日本はトレーニングがぬるいんじゃないか」
6年ぶり2回目の優勝を果たした広島ユース。FC東京U−18とのハイレベルな決勝を制した 【平野貴也】
どちらも技術力、戦術力が高く、攻守にわたって積極性を発揮し、見ている者を魅了する。そんな両チームが土壇場に追い込まれるたびに負けん気と底力を見せた。試合終了のホイッスルに6,860人の観衆が惜しみない拍手を送ったのは、ごく自然なことだった。近年、両チームが東西の代表格として成績を残し、(日本クラブユース選手権、Jユースカップを含む)全国大会の決勝で3度も顔を合わせ、そのたびに「ハズレ」のない試合を見せるのは、偶然ではない。両チームには共通点がある。
森山監督は、優勝後の記者会見で日本の育成現場に向けた提言をズバリと言ってのけた。
「日本は、毎日のトレーニングがぬるいんじゃないかと思う」
刺激的な言葉に会場は静まり、熱弁は続いた。
「日本とは違って、外国では削り合っても、何でもなかったかのようにむくっと起き上がって、やり返したりする。そういう中で(フェイントで)相手をおちょくったり、技術を生かしたり、より強く戦えたり、誰にも負けない切り替えの早さや走り(スピード、運動量)を見せる――それが『個性あふれる選手をどう育てるか』というものを考える時の順番だと思う。『個性や特徴を生かそう』という声はよくあるけど、それ(個性の尊重)だけでは、オシムさんたちが言ったように『サーカス』になってしまう。
今大会でもいろいろな良い選手を見たけど、(年をとって走れなくなった)おっさんや、(しんどいことは他人に任せる)王様みたいにボールが集まってくるのを待って、スルーパスを出したら、あとはやってくれという感じの選手がかなりいたんじゃないかと思う。そうじゃなくて、流経大柏の本田(裕一郎)先生も『練習試合より紅白戦の方が厳しいというようにしたい』と仰っていたけど、特に(体が出来上がっていく)高校生は個性のあるやつらがバトル、戦いの中で自分の良さを出すことが大事」
技術・戦術に走力やメンタルを加えて
広島ユースの森山監督は優勝後の会見で、育成現場に向けて大胆に提言した 【平野貴也】
敗れたFC東京も練習から戦う姿勢を強調している。倉又寿雄監督は、決勝トーナメント1回戦で青森山田高校を下した後、「1対1のトレーニングは絶対に多い。そこは、外せない。攻撃も守備も(戦術や局面が行き詰まった時に)最後はとにかく1対1の勝負になる。わたしがグラウンドでわめいている時は、(競り合いで)軽いプレーをした時」と育成方針についてのこだわりを説明した。
思えば、この大会は「技術・戦術力の高いクラブ」と「走力や精神力で勝る高校」が日本一を争って激突するという構図が長らく描かれ、各チームの指導方針が注目される場だった。そんな中、技術・戦術だけでなく、かつては高校勢の専売特許となっていた走力やメンタルを加えた勝負強さを身に付けた2つのJユースが、ハイレベルで緊迫感あふれる試合を見せたことは意義深い。彼らは「戦いの中で生きる技術・戦術」を求め、うまいだけでは勝てない、走れるだけでは勝てないという以前よりも一段高いベースを提示している。
森山監督が「順番」という言い方をしたのは、どちらの要素も求められるということを前提としているからだ。今度は、その中から本当に突出した個のタレントが生まれるのかを証明していく挑戦が続く。もちろん、環境が変われば「正解」は異なるもので、あらゆるチームが広島やFC東京にならうべきだという話にはならないし、彼らがさらなる変化を求められる未来もあるかもしれない。
それでも、ユース年代を引っ張る彼らが示した育成スタイルは、今後のスタンダードとして定着していくだろう。来年度は東西リーグ制への移行が有力視されており、高円宮杯がこの形式で行われるのはおそらく最後。ユース対高校の構図が生み出した新時代のスタイルが体現されたラストゲームは、大会の最後を飾るにふさわしい試合だった。
<了>
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