広島ユースが体現した「気持ちには引力がある」=高円宮杯準決勝
前半で2点のビハインドも誰一人あきらめない
広島ユースは2点のビハインドをひっくり返して静岡学園を4−2で下し、決勝進出を決めた 【平野貴也】
森山監督は選手の精神面を重んじる指導者だ。
「強い意思、強い意欲、気持ちを持って努力していけば、大きなものも動くんだと選手たちに言っています。気持ちの部分がなかったら、画竜点睛を欠くじゃないけど、龍に目が入っていないようなものだと思うんです。ただうまいだけの選手は、どこかで壁にぶち当たって消えていく。逆にへたくそでも、強い気持ちを持って努力を続ければ、はい上がっていけると思うんです」
高円宮杯全日本ユース準決勝・静岡学園戦。この試合は森山監督が言い続けてきた「気持ち」が試される試合となった。
先手を取ったのは静岡学園だった。背番号10でボランチの大島僚太を中心に鋭い出足でボールを奪うと、雨中でもぶれることのない高い技術でチャンスを作り出す。先制ゴールは11分。静岡学園の利根瑠偉がCKのリバウンドをヘッドで突き刺すと、44分にも利根がヘディングを流し込み追加点を奪う。川口修監督が「学園らしさが出て2点を取った。最高の出来」と振り返ったように、静岡学園が主導権を握った前半だった。
広島ユースは大勝を収めた流通経済大柏戦から、スタメンが3人入れ替わっていた。3バックの一角、越智翔太とボランチの早瀬良平は大学受験によりチームを離れ、1年生ながら攻撃をけん引してきた野津田岳人は39度の発熱で不在という苦しい状況。特に野津田の離脱は響いた。広島ユースの持ち味は「選手が3人、4人と前線へ飛び出していくスタイル」(森山監督)だ。前線を縦横無尽に動き回る野津田がいないことで、パスコースが減少。加えて、静岡学園の人に強い守備の前に、前半はなすすべがなかった。
それでも、広島ユースにあきらめの色は微塵(みじん)もなかった。「僕らは0−2や0−3から逆転した経験が何度もあるので、誰一人としてあきらめている人はいなかったと思います」(井波靖奈)。
「『Jユースはメンタルが弱い』とは言わせたくない」
ハットトリックの活躍を見せた広島ユースの背番号10砂川(右) 【平野貴也】
広島ユースは2点のビハインドを背負いながらも、下を向く選手はいなかった。ハットトリックを達成した砂川は胸を張る。
「このチームの初めのころは、先に点を取られて、そのまま試合が終わることが多かったんですが、シーズンの中ごろからは点を取られてもチームがバラバラにならず、『1点ずつ返していこう!』とポジティブな声が出るようになりました。その意味で、今日は今までの集大成のような試合だったと思います」
試合後、森山監督は笑顔を見せた。
「1点取ってからは根性勝負でした。よく『Jユースはメンタルが弱い』と言われるけど、それだけは言わせたくなくて。今日は高体連の強豪チームが相手ということもあって、戦う部分、走ること、勝負に対するこだわりでは絶対に負けるなと言いました。高円宮杯では、ほかのチームを見ていても、0−2から3点差、4点差をつけられるチームが多かったと思うんです。崩れ始めたら一気に行っちゃうような。大切なのは、0−2になってもあきらめずに返せるメンタリティーじゃないかと思うんです。2点差になった時点で少しでも『厳しいかな』と思ってしまったら、この結果はなかったと思う」
森山監督が言い続け、育んできた強いメンタルがなければ、2点差がついた時点で勝負は決していたかもしれない。チームを包み込む「あきらめない気持ち」。それが逆転勝ちにつながった。チームにそのような雰囲気を根付かせたのは森山監督の手腕であり、哲学でもある。
試合後、「気持ちには引力がある」について、選手たちに聞いてみた。
「ユースに入って、今日のように絶体絶命の状況が何度もあったんですけど、そのたびに逆転したりして、気持ちには引力があることを身をもって体験しているので、本当のことだと思います」(砂川)。
トップ昇格が内定している井波は「論理的には分かりませんけど……」と、はにかみながら、こう続けた。
「最後は気持ちだけで走っていました。交代ボードに自分の背番号が見えた瞬間、足が動かなくなったんです。大事なのは気持ちで、気持ちで体も動くし、ボールも集まってくる。気持ちに引力はあると思います」
気持ちでつかんだファイナルへの切符――。果たして、広島ユースが発する引力に、優勝トロフィーは引き寄せられるのだろうか。
決勝の相手はFC東京U−18。メンタル面では全国トップレベルのチームである。決勝戦は、両チームの高い技術と強いメンタルがぶつかり合う、好勝負になりそうだ。
<了>
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