夏の刺激を秋に生かす道産子たちの成長曲線=高円宮杯 準々決勝 FC東京U-18 2−0 札幌U-18

安藤隆人

クラブユース選手権は刺激を受ける場

 北海道は言うまでもなく、日本最北の地域である。前回、青森山田のコラムで移動距離について書いたが、コンサドーレ札幌ユースU−18も同様のハンディを背負いながら戦っている。

 札幌は青森山田と違ってバス移動というより、飛行機移動がメーンである。それならば、飛行機の方が移動時間が短いから快適なのでは、と思う人が多いだろう。だが、考えてみてほしい。毎週末や各休みごとに選手20〜30人を引き連れて飛行機移動を繰り返していたら、一体いくらかかるだろうか。しかもユース年代では、試合会場も一筋縄ではいかないところが多く、空港からさらに移動となると、バスの手配もしなくてはならない。
「移動がやっかいですよね。飛行機で1回遠征に行くだけで100万円近くかかってしまう。とはいえ、選手たちにとって道外の試合は重要な経験になる。何度も遠征に行けない分、日本クラブユース選手権や高円宮杯に出て、全国のチームとやることは、とても重要なことなんです」
 四方田修平監督がそう語るように、育成の観点からすれば、対戦相手のバリエーションが増え、レベルが高くなれば、選手たちにいい影響を与えることができる。指導者としては、そういう経験を積ませてあげたいと思うのは当然だろう。

 しかし、関東や関西のように容易に遠征やチームを呼んで試合をすることは難しい。北海道内の移動であっても、バスを使えばかなりの移動時間はかかるし、青森に行こうにも、相当な時間を費やす。そして、ここにプリンスリーグやクラブユース選手権予選も入ってくる。春休みを利用して、関東や広島に遠征した以外は、札幌でコツコツと育成、強化に努める状況であった。
「選手たちは小学校のころからあまり攻め込まれる経験や、パスを回される経験が少ないんです。なので、常に基準を全国に置いて練習できる環境を整えないといけない。ただ、意識だけでは解決できない部分があって、クラブユース選手権では分かっていても、戸惑ってしまうことが多い。やっぱりイメージはしょせんイメージでしかないんです」(四方田監督)

 札幌はトップチームとの連係が密で、練習や練習試合にユースの選手が頻繁に参加する。時にはユースとトップで試合をすることもある。プロの選手と普段からプレーすることで、選手たちに刺激を与えているが、やはり同年代と戦う全国の舞台は勝手が違う。1年で最初の全国大会となるクラブユース選手権は、いい意味でも悪い意味でも、大きな刺激を受ける場となる。

夏の貴重な経験から明確な基準が生まれる

 ただ、この刺激は選手たちを大きく変えると四方田監督は言う。
「刺激が大きい分、クラブユース選手権の後は選手たちの目の色が変わりますね。できたことに対しては自信になるし、できなかったことに対する課題意識が強くなる。こうなることで、高円宮杯までにまたグッと伸びるんです」

 現に札幌は例年クラブユース選手権よりも、高円宮杯での成績の方がいい。これはジュニアユース(U−15)にも当てはまる。夏に積んだ貴重な経験を北海道に持ち帰り、イメージの練習から明確な基準が生まれ、日々のトレーニングに生かされる。それが秋の高円宮杯に成果として現れているのだ。

 今年のチームはどうか。1、2年生主体の若いチームは、クラブユース選手権で関東王者の浦和ユースと同組になったが、ひるむことなく戦い0−0のドローに持ち込んだ。「関東チャンピオンと対等に試合をすることができた。そこで選手たちが『自分たちもやれる』と自信をつかんでくれたことは大きかった」(四方田監督)。最終的には、愛媛ユースに1−2で敗れたことが響き、グループリーグ敗退となったが、結果以上に大きなものを手にして、北海道に戻ることができた。

 そして今大会、札幌は愛媛、セレッソ大阪U−18、東京ヴェルディユースと、まさに各地域のトップチームが集う厳しい組に入った。その初戦、愛媛に1−0で勝利し、夏のリベンジを果たすと、関西王者のC大阪には1−1のドロー。そしてクラブユース選手権覇者の東京Vに対しては、何と5点を奪って大勝し、堂々のグループリーグ1位通過を決めた。決勝トーナメントのラウンド16では、浦和を下してベスト8に進出。準々決勝でFC東京U−18に0−2に敗れたものの、彼らが残した右肩上がりの成長曲線は結果から見て明らかであった。

「これから北海道に帰りますが、まだまだ甘さがある。FC東京を乗り越えられなかったのは、まだまだたくましくない証拠です」
 四方田監督は手厳しいが、それも今後より成長していける、という手応えの表れだろう。選手たちが成長を目に見る結果で残してくれたからこそ、これで満足することなく、「打倒、FC東京」という新たな目標ができた。こうした明確な基準を北海道に持ち帰り、Jユースカップに向けて自己研さんの日々が始まる。

<了>
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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