広島ユースが実践する「日本サッカー界への提言」=高円宮杯ラウンド16 広島ユース 7−1 C大阪U-18

小澤一郎

プリンス関西1部の覇者C大阪U−18を相手に7得点

広島ユースはプリンス関西1部の覇者C大阪U−18から7ゴールを奪って大勝した 【平野貴也】

 西が丘サッカー場で20日に行われた高円宮杯ラウンド16の第1試合は、サンフレッチェ広島ユースがセレッソ大阪U−18に7−1と大勝した。試合後、広島ユースの森山佳郎監督さえも「こんなことになるとは全く思ってなかった」と驚いた様子だった。

 試合は、ノックアウト方式の決勝トーナメントということもあってか、両チーム共に慎重な入り方で、序盤はプレッシャーの厳しい中盤を回避するロングボール主体の展開。その中で、どちらかというとペースを握っていたのはハイプレスを武器とするC大阪U−18だった。中盤の陣形をひし形にした4−4−2の布陣で、トップ下の南野拓実にボールを預け、2トップが3バックの広島ユースDFの両サイドを使う狙い。しかし、C大阪U−18の主将・MF夛田凌輔が「自分たちの武器である切り替えが遅く、広島に技術があったので、中盤でプレスを外されて前を向かれるシーンやマークが浮く状況が多くなった」と語った通り、10分を過ぎたあたりから広島ユースは1タッチ、2タッチの軽快なパス回しでC大阪U−18のプレスを難なくかわし、ボールと試合のイニシアチブを握るようになる。

 前半18分に右サイドのMF砂川優太郎の素晴らしい突破・クロスからMF岡本洵が頭で決めて広島ユースが先制すると、25分には自陣からワンタッチパスによる電光石火のカウンターで再び岡本が決め、2−0と突き放した。ワンタッチでパスを回すこと自体が難易度の高いことなのだが、この2点目のシーンを見ても、広島ユースのパス回しには正確性とスピードに加え、複数の選手のダイナミックな追い越しの動きがあった。よって、C大阪U−18の持ち味であるプレスは無力化されるどころか、逆手に取られていた印象だ。前半終了間際にC大阪U−18は2枚目の警告で退場者を1人出したのだが、前半に広島ユースが見せたサッカーと優勢な展開からすれば、後半を同数で戦っていたとしても広島ユースの勝利は堅かったと予想する。

 2点のリード、1人多い状況で後半を迎えても、森山監督に「相手に関係なく、1点を取られてもいいから、どんどん点を取りにいこう」と背中を押された広島ユースの選手たちは、前半以上にテンポの良いパス回しから数的優位と決定機を作り出し、点差を広げていく。55分、61分、68分、73分と立て続けに4点を奪い、76分にはDFのフィードミスから1点を許すも、ロスタイムに7点目を奪って試合終了。今年のプリンスリーグ関西1部の覇者C大阪U−18を相手に7得点、1次ラウンドから4試合通算18得点という広島ユースの攻撃力が目立つ試合となった。

「ミスを恐れずリスクを冒せ」

 広島ユースの一番の特長は前述のパス回しにあるのだが、森山監督は「うちはそんなにポゼッションが得意なチームではない」と語る。「パス回しがうまいチーム」と聞くと、ポゼッション型のチームをイメージしがちだが、広島ユースの優先順位は「ボール保持」よりも貪欲(どんよく)に「縦、ゴールを目指す」ことにあり、それが大量得点を呼ぶ鋭いサッカーを生み出している。プレーを見ても優先順位がはっきりしていて、特に中盤の選手はC大阪U−18のプレスやアプローチが速くとも、2、3メートルのスペースが自身の前にあれば、何の躊躇(ちゅうちょ)もなく前方向へのプレーを選択していた。

 また、そうした習慣とともに好印象を持ったのが、前述したダイナミックな追い越しの動きだ。トップチームと同じ3−4−2−1のシステムを用いるため、ポジションバランス上、後方サイドには大きなスペースが生まれるのだが、後ろを気にすることなくボランチもサイドハーフもボールホルダーを追い越してスペースでボールを受けようと走る。だから、広島ユースの攻撃は特定の選手に依存しない。この試合でも、2ゴールを決めた岡本、早瀬良平を除き、あとの3得点は違う選手によるものだ。しかも、1トップの川森有真はゴールしていない。こうしたリスクチャレンジについての森山監督のコンセプト、コメントがまた面白い。

「うちのトップの監督(=ペトロヴィッチ監督)は、日ごろから『ミスを恐れずリスクを冒せ』と言っています。そうであれば、ユースの子も(リスクを)冒さないと。それはうちの監督が、日本サッカー界に提言していること。選手がやろうとしていること、例えば後ろから組み立てて、ビルドアップして失敗することはあるけれど、そこで指導者が『なんだよ。蹴っておけよ』となったら、多分ダメだと思います。トップの監督でさえ、『ミスを恐れずリスクを冒せ』と言っているのだから、ユースでは『1点取られてもええよ。そのかわり2点取り返せよ』というのがあってもいい。実際、うちはそんなのばかりですから」

 森山監督はこう言うが、選手たちはリスクを冒して良い時間・場面と、そうではないときをしっかりと認識している。例えば、序盤にC大阪U−18のプレスが広島ユースのパスの出どころを封じていると判断すると、特に最終ラインの選手たちは無理せず長めのボールで局地戦を避ける選択を行っていた。逆にアタッキングサード(※ピッチを3分割したときの攻撃エリア)までボールを運び、ボールが収まった瞬間にはスイッチがオンの状態となり、中盤から2人、3人が全速力でエリアに入っていく。この判断基準や駆け引きのうまさを見ると、「ミスしてもええよ」という姿勢でどっしり構える森山監督が、意外にも緻密にチームを作っているのが分かる。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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