ニセのトーゴ代表
バーレーンは世界のサッカーでメジャーな国ではない。アジアでもそうなのだが、多くの石油産出国がそうであるように大会に備えて万全の準備をする。間もなくヨルダンで開催される西アジア選手権、イエメンでのガルフカップ、そしてカタールでのアジアカップに備え、9月7日にトーゴ代表を迎えての親善試合が行われた。トーゴは強化試合の相手としてはちょうどいい。強すぎることもなく、弱すぎもしない。
トーゴは次回とその次の2大会、アフリカ・ネーションズカップに出場できないはずだった。アンゴラで開催された大会で乗っていたバスが分離独立主義者に銃撃され、チーム関係者が死亡する事件があった。トーゴはこの大会を棄権したためにCAF(アフリカサッカー連盟)からペナルティーを受けたのだ。しかし、最終的に処分は軽減され、トーゴは2012年のネーションズカップ予選に出場できることになった。
しかし、トーゴは予選で最悪のスタートを切った。7月にグループKの2弱と見られていたチャドとマラウィに引き分けている。9月4日にはボツワナと対戦し、この試合は1−2で敗れた。グループ最強のチュニジアとの試合は残っているが、早くもトーゴの予選突破は絶望と言っていい状況だ。その数日後、トーゴはマナマに現れた。バーレーン代表と試合を行い、0−3で負けている。しかし、バーレーン側はあまりの楽勝に疑いを持ち始め、バーレーン協会はトーゴ代表について調査することになった。
トーゴのスポーツ大臣、クリストフ・チャオは、このニュースを知って驚愕(きょうがく)したという。「わたしはこの試合についてまったく知らされていない。われわれはこの件について調査する」と語った。バーレーン協会も独自に調査を開始、まず試合をセットしたエージェントを調べた。バーレーン協会によると、そのエージェントは極めてプロフェッショナルであり、過去5年間にさまざまな試合を手掛けているが、練習場やレフェリーの手配などまったく問題がなかったという。エージェントへの信頼から、協会は対戦したチームがトーゴ代表のトップチームでなくても、何らかのトーゴ代表だろうという望みを持っていた。また、試合に先立って入手した各種の手紙や選手のパスポートを含めた証明書は、すべてトーゴ協会からの公式文書だったという。
イタリアの新聞『ガゼッタ・デロ・スポルト』によれば、バーレーン協会がだまされたのは初めてではないそうだ。06年にはパナマ代表と対戦しているが、実はただのパナマ人のチームであって代表ではなく、ユニホームのエンブレムを外してプレーをしていたという。今回の事件は、50年代にフランスで最も人気のあったプロレスラー、“ホワイト・エンジェル”の逸話を思い出させる。ホワイト・エンジェルはフードを被っているレスラーだった。そこで、3つや4つの違う都市で、ホワイト・エンジェルが同時に試合をすることができた。インターネットのある現在ではすぐにバレるに違いないが、当時は大丈夫だったのだ。
トーゴ協会のコゾ・サルマン代表は、今回の試合に関する文書にサインしているのだが、日付は8月だった。しかし、彼はその前の5月には協会を退職している。調査の結果、トーゴのチャオ大臣はマフィアの関与を示唆した。“エイディド&アデッド”というグループが文書を偽造し、ニセのトーゴ代表をバーレーンに派遣したようだ。
このニュースを知ったフランス人は、今年のワールドカップに出場したフランス代表も「実はニセモノだった」と言い出している。確かに、ピッチの内外であまりにもお粗末なフランス代表ではあった。われわれフランス人も結果が出るまで分からなかったのだから、ニセのトーゴ代表にだまされたバーレーン人のうかつさも笑えない、というオチになっている。
<了>
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