ナダルとフェデラー、史上最高の選手はどちらなのか?=全米テニス

内田暁

ナダル、史上7人目の偉業を達成

全米オープン初優勝を果たし、四大大会すべてのタイトルを手にしたナダル。24歳3カ月の若さで、史上7人目となる偉業を達成した 【Getty Images】

 初めてかじった全米オープンのトロフィーは、果たしてどんな味がしたのだろう?
 ラファエル・ナダル(スペイン)が今大会で獲得した、グランドスラム通算9個目となるタイトル。それは同時に、彼の四大大会トロフィーコレクションに空いていたスペースを埋める、最後のピースともなった。

 テニスの4つのメジャー大会全てで優勝を飾る“キャリア・グランドスラム”達成者は、100年を超える四大大会の歴史の中で、今回のナダルを含めわずか7人しかいない。プロにも門戸を開かれた1968年の“オープン化”以降では、アンドレ・アガシ(米国)、ロジャー・フェデラー(スイス)に次ぐ3人目。そして24歳3か月にしての達成は、この3人の中でも最速である。まだまだ世界トップ3の力を維持するフェデラーが「史上最高の選手」と呼ばれて久しいが、ナダルは正に今そのフェデラーを超え、best of the bestへの道を突き進む最中にある。

 ナダルとフェデラーのライバル関係は、「果たして、どちらが史上最高か?」というファンにとっては贅沢(ぜいたく)この上ない議論とともに、常にこの数年間のテニスシーンの中心にあった。7回を数えるグランドスラム決勝の直接対決は、オープン化以降最多の顔合わせ。ナダルが獲得した9のグランドスラムタイトルの内、5つはフェデラーを破って手にしたものである。

“悲恋”のシナリオ

準決勝で敗れたフェデラー。今年もナダルとの全米決勝は実現しなかった 【Getty Images】

 そのグランドスラムでの直接対決が、今年は全豪、全仏、全英を終えた時点で一つも実現しなかった。全豪ではナダルが準々決勝で敗退、それ以外の二大会では、フェデラーがいずれも決勝にたどりつくことができなかった。そのような背景もあり、今年最後の大舞台でのライバル対決に向けファンの期待は高まり、また、ナダルのキャリアグランドスラムが今大会に懸かっていたこともあり、熱は最高潮に達していた。
 だがフェデラーは、準決勝でマッチポイントを2本握りながらフルセットの末にノバック・ジョコビッチ(セルビア)に敗れ、最高の舞台設定は成らなかった。

 やや卑俗なたとえかもしれないが、ここ2年程のナダルとフェデラーのライバル関係を見ていると、どこか悲恋のような雰囲気が漂う。昨年の全仏オープンでフェデラーは同大会初優勝を果たし、キャリアグランドスラムを達成したが、その時には、全仏不敗神話を持つナダルが4回戦でまさかの敗退。優勝を決めた後のフェデラーは、「ラファ(ナダル)を倒して優勝するのが、夢のシナリオだった」と、自身のキャリア最高の瞬間における、ライバルの不在を嘆いたものだった。
 また2年前、フェデラーは全仏、全英と立て続けに決勝でナダルに敗れた。そして全米で先に決勝進出を決めたフェデラーは、準決勝を戦うナダルに向け、「ラファにぜひ、決勝に上がってきてほしい」と熱きエールを送ったのだ。だが、ナダルは、その声に応えられなかった。思えば、フェデラーがナダルのことを公に“ライバル”と認めたのは、この年が最初だったかもしれない。
 そして、今回の全米オープン。ナダルは初の同大会決勝進出を先に決め、フェデラー戦の結果を待った。だが先述した通り、ライバルはジョコビッチの壁に阻まれる。試合後、ナダルとの決戦が成らなかったことに触れフェデラーは、「僕は過去に6年間も、苦難を乗り超え決勝の舞台でラファが来るのを待っていたのに、残念ながら彼は来なかったんだ」と、ライバルの遅すぎる決勝到来を、あるいは今大会の自身の敗退を悔いた。

 天も、二人の決勝が実現しなかったことを悲しみ涙した……訳ではないだろうが、男子決勝が予定されていた12日の日曜日、試合が正に始まろうかという時間になり、ニューヨークの上空を暗雲が覆い、落ちる雫がハードコートを濡らした。
 雨による翌日順延。何と3年連続で、男子決勝は月曜日に行われることになった。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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