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スペイン撃破、それでもアルゼンチンに平穏は訪れない

スペインに4−1で圧勝

アルゼンチンがメッシ(中央)らのゴールで世界王者のスペインを4−1で下した
アルゼンチンがメッシ(中央)らのゴールで世界王者のスペインを4−1で下した【写真:MarcaMedia/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)が近づくと、アルゼンチン代表はその豊富なタレントとポテンシャルゆえ、しばしば優勝候補の一角に挙げられてきた。だが実際は、他国がうらやむほどの人材をうまく活用し切れず、結果を出せずにいたのが現状だ。だが今月7日、親善試合とはいえ、アルゼンチンがブエノスアイレスで世界チャンピオンのスペインに4−1で圧勝した。アルゼンチン国民にとっては夢にまで見た出来事である。だが、2014年のW杯ブラジル大会を見据えた監督人事においては、複雑なことになってきた。


 暫定監督で、スペイン戦でも指揮を執ったセルヒオ・バティスタを昇格させるのは、自然な成り行きに思われる。08年の北京五輪では、リオネル・メッシ、ファン・ロマン・リケルメらを擁して優勝。準決勝ではブラジルに3−0で快勝するなど、完ぺきな勝利だった。アルゼンチン1部のクラブを率いた経験もあるし、U−20代表監督も務めた。そして、W杯・南アフリカ大会後には、暫定ながらA代表の監督に就任。アイルランドに1−0、スペインに4−1と連勝し、4年後の指揮官候補に一気に躍り出た。


 アルゼンチンの代表監督は一筋縄では務まらない。成績に一喜一憂する国民やメディアのプレッシャーにさらされ、エゴの強いスター選手たちをうまくコントロールしなければならないのだ。その点、バティスタはリケルメ、メッシをはじめとする大部分の選手たちと良好な関係を築いている(特に後者は、指揮官に全幅の信頼を寄せている)。またバティスタは、先のW杯で前監督のディエゴ・マラドーナから戦力外扱いを受けていたハビエル・サネッティ、エステバン・カンビアッソ、エセキエル・ラベッシ、フェルナンド・ガゴ、エベル・バネガといったメンバーを代表に呼び戻した。AFA(アルゼンチンサッカー協会)にとっても扱いやすい相手と言える。

新監督をめぐる協会内部のごたごた

 だが、本来であれば10月のAFA理事会で決断を下すはずだった監督人事は、ますます複雑な状況になっているようだ。実際、会長のフリオ・グロンドーナも「新監督決定は12月か来年1月になるだろう」と語っている。そもそも、監督人事に関してはAFA幹部も代表のGM(ゼネラル・マネジャー)を務めるカルロス・ビラルドも、むやみに発言を行わないことが義務付けられている。だが、彼らのコメントがたびたび、ちまたをにぎわせているのが現状だ。


 ビラルドもテレビのインタビューなどに応じ、「まだ何も決まっていない」「わたしが代表監督候補を推薦し、AFA理事会が最終的に決定する」「バティスタについても確かなことは何もない」などと語っている。バティスタが14年まで代表の指揮を執り続けるべきだと考えている会長のグロンドーナにとっては、こうしたビラルドの発言が面白くないのだろう。バティスタの軽率な物言いが契約違反だとも考えているようだ。重要な決断を前にして、内部で情報の統一が図れていないのはマイナスでしかない。既に、マラドーナの続投をめぐるごたごたによって、アルゼンチンはW杯・南アフリカ大会後のスムーズな船出に失敗しているのだ。


 国内に目を向ければ、名門のボカ・ジュニアーズとリバープレート(リーベル)はここ最近、ぱっとしないシーズンが続いている。共にタイトルからは遠ざかり、リーベルに至ってはクラブ創設以来の2部降格の危機にひんしている(さすがに崖っぷちのリーベルは、8月6日に開幕した2010−11アペルトゥーラ=前期リーグ=では健闘しているが)。閉塞感の漂うアルゼンチンにあって、親善試合とはいえ、数カ月前に優勝トロフィーを掲げたばかりの世界王者スペイン相手に、ホームのエスタディオ・モヌメンタルで大勝したことはポジティブに考えていいだろう。

スペインとアルゼンチンの“協定”

 一方のスペインはといえば、今回の敗戦を深刻にとらえてはいないようだが、いくらフレンドリーマッチとはいえ、世界チャンピオンが大敗するのは歓迎すべきことではない。王者のイメージや権威を損ないかねないし、何よりユーロ(欧州選手権)2012予選が始まっているのだ。だが、アルゼンチン遠征はスペインにとって悪いことばかりではなかった。


 親善試合の前夜、両国のサッカー協会関係者が夕食を共にし、ある契約を結ぶことで合意に至った。2018年あるいは22年のW杯でポルトガルとの共催を目指すスペインを、AFAがバックアップするというものだ。その見返りとして、30年のW杯招致では、アルゼンチンとウルグアイの共催を実現するよう、スペインが票集めに協力するという。

 AFA会長のグロンドーナとRFEF(スペインサッカー協会)の会長アンヘル・マリア・ビジャールが良好な関係を保っていることはよく知られている。共にFIFA(国際サッカー連盟)の幹部であり、南米(CONMEBOL=南米サッカー連盟)、ヨーロッパ(UEFA=欧州サッカー連盟)とそれぞれの大陸においても影響力を有している。今回の“協定”のメリットは大きい。


 いずれにしても、アルゼンチン代表監督はもうしばらく決まりそうにない。協会内部の“口げんか”も収まることはないだろう。世界王者を倒してもなお、アルゼンチンサッカーに平穏は訪れないのだ。


<了>

セルヒオ・レビンスキー/Sergio Levinsky
セルヒオ・レビンスキー/Sergio Levinsky

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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