流経大柏を成長させるAB戦、逆転の発想による産物=高円宮杯 浦和ユース 1−1 流通経済大柏

平野貴也

Bチームで後の総体王者を破る

浦和ユース戦で先制点を決めたのは、高校総体で出番がなかった高橋(中央)だった 【平野貴也】

 流通経済大学付属柏高校(以下、流経大柏)が、新たな挑戦に踏み出した。その試みが密かに注目され始めたのは、初夏のことだった。
 高校総体(インターハイ)の千葉県大会で決勝戦へ進出し全国大会の切符をつかむと(千葉県代表は2チーム)、市立船橋高校との頂上決戦をBチームのメンバー主体で戦い、勝利した。破った相手は、その後の全国大会で優勝。流経大柏の分厚い選手層が証明された。この選手層を生かし、今年の春先から対外試合ではなく「Aチーム対Bチーム」の身内対決を中心としたチーム作りに取り組んでいるというのだ。

 本田裕一郎監督は「選手が多いから、ぜいたくができる。Aチームには少し自由を与えて、Bチームには『身内同士だから、多少のファウルはしてもいい。だから絶対に負けるな』とたきつけてやらせている。このABマッチでは、ファウルについては、される方が悪いという感覚。Aチームは、相手がボールを奪いに来ているのを早く察知してかわさなくてはいけない。Bチームを底上げしたいし、自前でプライドを身につけさせたい」と、思惑を語った。

 3年前の全国2冠(高円宮杯、高校選手権)以降に目指し始めた「常勝軍団」という新たな目標への一歩と見ていいだろう。主将の増田繁人によれば、今年は短期集中開催の招待大会を除けば、高校勢との練習試合はほとんど記憶にないという。その代わりに15分ハーフのAB戦が週に2〜3回、「みんな、負けん気が強いし、時間が短いのでプレスも早い。前からガツガツと来る」という状況下で行われるという。

 12日に行われた高円宮杯1次ラウンド第2戦・浦和レッズユース戦では、高校総体では出番を与えられなかったMF高橋翔也が苦しい展開から先制点をもぎ取った(結果は1−1の引き分け)。指揮官も不満を示したように、試合内容は褒められたものではなくチームとして課題は残ったが、勝負強さは示した。高橋は「紅白戦はガツガツやる。アピールしないと試合に出られない」と話し、Bチームを経験することで刺激されたハングリー精神を垣間見せた。

素材の平均値の高さを生かした強化方法

本田監督は、選手層の厚さを生かし、身内によるハイレベルな競争でチームの強化を狙う 【平野貴也】

 このAB戦による強化方法は、実は逆転の発想による産物でもある。
 流経大柏は、3年前に田口泰士、久場光(共に名古屋グランパス)らを擁して全国大会2冠に輝き、タッチ数の少ないショートパス主体のポゼッションから繰り出すテンポのいい攻撃と、ハイライン・ハイプレスの守備というアグレッシブなスタイルを強烈に印象付けた。以降も成績は好調で「Jユースに対抗できる数少ない高校チーム」として存在感を示している。

 そうした背景から近年は、現在の主力となっているFW吉田真紀人(横浜F・マリノスジュニアユース出身)、FW宮本拓弥(柏レイソルU−15→ウイングス出身)のように「自分に足りないものを身につけたい」と、ジュニアユースからJユース昇格という選択肢がありながら流経大柏を選んだ例も生まれた。
 それでもチーム全体を見ればJユースに比べて技術力では劣る。指揮官は、心の内には少数精鋭でAチーム強化にあたるという理想を持っているが、学校の部活で実現するのは、あまりにも困難であるという現実を知っている。

 そもそも私立校がサッカー部の強化を認められるのは、その効果による入学者数の増加を期待する経営的な一面がある。また、スポーツ推薦ではなく一般入試で入学した入部希望者を受け入れないわけにもいかない。結局のところ、スポーツ推薦の枠自体は変えていないようだが、部員は150名超という大所帯になっている。その中でトップレベルの人材がJユースに比べて劣る点はあまり変わらないのだが、入部希望者が多いことから想像できるように、素材の平均値は高くなっている。この点を生かそうというわけだ。

 ただし、新たな挑戦は、まだ発展途上だ。本田監督は「他チームに勝つよりBチームに勝つ方が難しい、という状況にしたいんだけど、やっぱり、まだAはBと違う。厳しい試合を経験している部分も出る。BがAと変わらないぐらい層が厚いと言われることもあるけど、まだそういう感じじゃない」と、もどかしい手応えを明かした。
 判断力を磨き、15歳までに身につけた技術を最大限に生かす。そして、「頼れるものは技術だけではない」(本田監督)と、走力や精神力をも鍛え上げる。さらに、言い訳無用の身内戦で競争心をたきつけ、成長を加速させる。流経大柏は、全国を制してなお、日本一ハングリーなチームなのかもしれない。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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