西山、銀メダル獲得の要因は「組み手のうまさ」=現役柔道家・矢嵜雄大氏による世界柔道解説リポート

長谷川亮

男子90キロ級で金メダルを獲得し喜ぶイリアディス(右)と、視線を落とす銀の西山=国立代々木競技場 【写真は共同】

 柔道の世界選手権が10日、東京・国立代々木競技場第一体育館で第2日を迎え、男子90キロ級、81キロ級、女子70キロ級の試合が行われた。
 男子90キロ級では、19歳の西山大希(筑波大)が決勝まで勝ち進み、2004年のアテネ五輪男子81キロ級金メダリストのイリアス・イリアディス(ギリシャ)と激突。延長の末に敗れたが、銀メダルを獲得した。また、今季の同階級世界ランク1位として大会に臨んだ小野卓志(了徳寺学園職)は、3回戦でイリアディスと対戦し、優勢負けを喫している。
 男子81キロ級では、高松正裕(桐蔭学園高職)が準決勝で敗れたが、3位決定戦で勝利し銅メダルを獲得。また女子70キロ級でも、國原頼子(自衛隊体育学校)が銅メダルを獲得している。

 今回は男子選手の戦いぶりについて、現役柔道家・矢嵜雄大氏(了徳寺学園職)に解説していただいた。

 以下、矢嵜氏による解説。

決勝での敗戦も「大きな経験になった」

 西山選手は本命だった小野選手に比べ、組み合わせで恵まれたところはありましたが、それをものにするというのはやはり実力です。若いし着実に実力を伸ばしていると感じました。
 よかったのは外国人に負けないフィジカルと組み手のうまさ。西山選手は組み手のいなしやズラしなど、組み手さばきのうまい選手だと思います。
 準決勝までは左の釣り手をしっかりついて、間合いを取った戦いを徹底し、体の軸を保った上で大外・大内刈り、内股で攻め抜いていました。それが決勝まで勝ち進んだ勝因だと思います。

 決勝はイリアディス選手の組み手のうまさやしつこさもあり、左の釣り手を準決勝までのように保てませんでした。そのため圧力を掛けて間合いをつぶして背中をつかんでくるイリアディス選手の組み手になり、イリアディス選手優位の組み手時間が長かったように見えました。

 イリアディス選手は延長に入ると、釣り手(右手)からではなく左の引き手から取っていく組み手にパターンを変えてきました。西山選手はその変化に対応できず組み負け、最後は払い腰で投げられてしまったと思います。
 試合の時間帯で組み手を変える、イリアディス選手の試合巧者ぶりが光りました。西山選手はまだ若く、経験が浅いことから対応できなかったのだと思いますが、そういう意味ではこの大会は大きな経験になったと思います。

小野はイリアディスの組み手の強さに敗れる

 小野選手はイリアディス選手との対戦が事実上の決勝だったと思います。本人とも話しましたが、イリアディス選手は「右の釣り手、背中・奥襟を持ってくる組み手が強力だった」と言っていました。そのため小野選手本来の組み手になる時間が少なくなり、得意の大内刈り・内股を掛けることができなかったのだと思います。

 イリアディス選手はあまりほかの国際大会に出ず、この世界選手権に照準を合わせてきたように見えました。今後も日本90キロ級のライバルになりそうですが、小野選手は競った試合をしていたし、またこれからロンドン五輪を目指し頑張ってほしいです。

 あと、男子81キロ級は日本人にとって厳しい階級で、メダルは難しいと思われていました。しかし、そういう中で銅メダルを獲得した高松選手の活躍は大きかったと思います。
 今回は調子も仕上がりもよく、得意の背負いも切れていて、思い切って柔道をしているように見えました。高松選手はこれまで世界選手権や五輪でいい成績を残せていなかったので、今回のメダルは日本の81キロ級、そして本人にとってもうれしいものだったと思います。

<了>
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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