「新・欧州組」が代表戦で見せた進化=香川、長友、内田、川島が海外で感じたこと

元川悦子

香川は結果を残し大きな自信をつかんだ

ドルトムントでも中心の香川。新しい代表でも主役となる存在にならなければならない 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 一方の香川は、同じリーグでしのぎを削る内田以上の大きな自信を手にしたようだ。ドルトムントというドイツ屈指の名門でトップ下を任され、予想以上の活躍を見せているのだから、それも当然だ。もともとスピードと技術に長け、厳しい局面を打開できる選手だったが、ゴールに直結するプレーが増え、相手に対する怖さも出てきた。
 本田とのパス交換から一気にDFの背後を突き、ゴール前まで侵入したグアテマラ戦の2点目の場面などは、その進化を如実に表している。「香川がよくやってくれたから、自分は真ん中でいいポジションを取るだけだった」と得点した森本も感謝するように、事実上、香川が奪ったゴールだと言っていい。

「ドルトムントは前線からプレスに行って攻守の切り替えの速いサッカーをしている。そういう中で試合に出て結果も残しているんで、すごく自信になりますね。ドリブルとか裏への飛び出しとかも通用している実感が持てています。だけど、自分にはフィニッシュの力が足りない。ドイツで日々実感しているのは、もっとシュートを打たないといけないということ。シュートへの意識を強く持たないと、これからは厳しいと思います」と自分を冷静に分析していた。

 彼らフィールドプレーヤー3人に比べると、川島は間違いなく苦境にいる。リールスは目下、開幕5連敗で1部16チーム中15位。彼自身もベルギーデビュー以来、無失点が一度もない。
「今はDFのケガ人が続出していて、MF3人が最終ラインに入ったりしている状況なんで、本当に厳しい。ベルギーは個人個人の能力が高いし、上位のクラブはチャンピオンズリーグの予備戦に出ていたりする。そういう難しさもありますね。だけど、その分、シュートを受ける機会も多くなる。日本より相手のシュートは確実に強いし、上位のチームになればなるほど決定的な仕事のうまさもある。そんな中で、自分もいろいろチャレンジしていかないといけない。難しい状況になっても冷静に対応ができる力を磨いていくことが、今後の課題だと思っています」と、彼は自分の立場を淡々と受け止めつつも、前向きさを失っていなかった。

「新・欧州組」を筆頭とする世代が代表をひっぱらなければ

 4人それぞれにチーム事情も環境も異なるが、異国での貴重な経験を日本代表にフィードバックしようという考えは一緒。パラグアイ、グアテマラ戦ではそれが随所に出ていた。
 攻撃面でのスピードアップは「新・欧州組」がもたらした1つの成果だろう。香川を中心に「前へ前へ」という意識が非常に強くなった。岡田ジャパン時代は中盤でボールポゼッションができても、肝心のアタッキングサード、ピッチの相手ゴール側3分の1のエリアに入ると詰め切れないという問題点を露呈してきた。が、この2戦ではシンプルにゴールへ突き進む形が多くなり、実際に流れの中から3つの得点が生まれた。
「前の森本や真司なんかはゴールへ向かう意識が高い。ああいうスピーディーなサッカーをされたら、相手もすごく怖い。ボールを回すところは回して、仕掛けるところは仕掛けて、メリハリをつけていけば、面白いサッカーになると思います」と長友は手応えを口にする。素早いフィードから何本かのチャンスを演出した川島も「攻守の切り替えは重要だし、相手のスキを突いて攻撃の起点になることは常に考えている」と意欲的に話した。

 内田は速くなった日本代表の攻めに対し、こんな注文をつけている。
「全体をスピーディーにすることは大事だけど、サイドチェンジを入れたり、球を散らしたり、ピッチを広く揺さぶることも必要。今はまだみんな『自分が自分が』ってなりすぎている。個人で行くこともいいけど、チームとしてのリズムももっと考えないと。自分なんかサイドバックだから、中盤でのボール回しがあってはじめて上がれる。速すぎると攻撃参加はきつい。そういうことも、これからみんなで話して、良くしていければいいですね」

 30代選手が7人もいたW杯・南ア大会の時は、長友や内田はあくまで若手だった。自分の考えを積極的に言う機会も少なく、年長者に従う傾向が強かった。しかし、楢崎正剛、中村俊輔が代表引退を表明した今、「新・欧州組」が軸となって日本のサッカーを構築していくべき時が来たのだ。
 そういう自覚は本人たちにもあるようだ。
「南アとイタリアを経験して、メンタル的に余裕が出てきたと思うんです。内田が言うように視野も広くなった。おれらもいつまでも下っ端じゃないし、リーダーシップを持ってやらないと代表も良くならない。個人としての成長はもちろん、精神面でもプレーでもチームを支えられるようになっていきたいですね」と長友は語気を強めた。
 10月から本格的に指揮を執るアルベルト・ザッケローニ監督もこうした積極的な姿勢は大歓迎だろう。
 今月、内田はチャンピオンズリーグ、香川は欧州リーグに参戦する。長友もACミランなど強豪との対戦や森本のいるカターニャとの対決も控えている。川島は国内リーグだけだが、チームの低迷脱出という大仕事が待っている。彼らが1カ月間でさらにどんな変ぼうを遂げるのか。次の代表合流が非常に楽しみだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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