「新・欧州組」が代表戦で見せた進化=香川、長友、内田、川島が海外で感じたこと

元川悦子

球際の部分で特に成長した長友

短い期間で成長した姿を披露した長友 【写真:澤田仁典/アフロ】

 新生・日本代表の第一歩となった4日のパラグアイ戦(1−0で勝利)、7日のグアテマラ戦(2−1で勝利)は、今夏、欧州挑戦を果たした4人の初の凱旋(がいせん)試合でもあった。
 その筆頭が香川真司だ。先月の欧州リーグプレーオフのカラバグ戦(4−0で勝利)で2ゴールを奪い、名門クラブのトップ下のレギュラーを確保。ブンデスリーガでも目覚しい活躍ぶりで、周囲からの評価もうなぎ上りだ。同じドイツにいる内田篤人も開幕スタメンを飾り、積極的な攻撃参加を見せている。一方、長友佑都もセリエAで堂々たるプレーを披露。ワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会で得た自信を一段と深めたようだ。ベルギーに渡った守護神・川島永嗣だけは、開幕5連敗という苦境を味わっているが、本人は飽くなき向上心を持ち続けている。

 新・欧州組と久しぶりに代表でプレーした同世代の槙野智章は、短期間での彼らの変ぼうぶりに驚かされたという。
「初日(2日)の三ツ沢での練習で、真司、佑都君、ウッチーが1つ1つの球際のところで戦っていたのを見てすごく驚いた。自分も今のままじゃダメだと思いましたね」
 ベテランの中村憲剛も「一緒にプレーしてみて彼らの急激な伸びを強く感じた。自信もつけてるし、負けていられないね」と率直な思いを口にしていた。

 槙野の言う「球際の部分」を特に向上させたのが長友だ。もともと当たりの強さ、局面局面の厳しさには定評があったが、イタリアというタフな環境が大きな意識改革を促したに違いない。
「『球際は厳しく行け』と向こうの監督(マッシモ・フィッカデンディ氏)に言われる。実際にみんなガツガツ来るし、弱かったら使ってもらえない。まずはメンタル面で絶対に目の前の敵に負けない意識でやることから始まりますね。自分は南アでエトーとかカイトといった世界的な選手と戦って抑えたことで、誰とやっても物おじしなくなった。やっぱりW杯の経験がすごく生きてるなと思います」と長友は言う。

 加えて、スピード、運動量、クロスの精度といった長所にも磨きがかかった。グアテマラ戦で森本貴幸の1点目をお膳立てした場面に象徴されるように、速く強いクロスは「世界基準」を強く意識したものだ。
「いいクロスを上げることは、1試合ならまぐれでもできる。大事なのは、毎回続けていくこと。ゴールに直結する仕事をしないと、サイドバックは生き残っていけないですから。コンスタントに結果を出すために、スピードも運動量も上げないといけない。イタリアの練習ではダッシュの回数が半端じゃない。時間も長いし、フィジカル面は黙っていても自然と伸びますね」と、長友は新たな環境に戸惑うどころか、むしろ心からエンジョイしているようにさえ見受けられた。

マガト監督の激しい練習で余裕が生まれた内田

 練習の厳しさを実感するのは、内田も同じ。彼が所属するシャルケの指揮官はフェリックス・マガト。ご存知の通り、2008−09シーズンにボルフスブルクをブンデスリーガ制覇に導いた名将だ。過去に指導を受けたことがある大久保嘉人も「練習量がものすごい。合宿中は1日3部練が当たり前」と話したことがあったが、内田も過去のサッカー人生にはないほど自分自身を追い込んでいると話す。
「試合があっても2部練は当然。今やっているダッシュがいつ終わるのか、次の練習が何時から始まるのか全く分かんない。周りのことなんか気にしている余裕なんて全然なくなった。サッカーのことだけを考える毎日です」

 鹿島アントラーズのオリヴェイラ監督はシーズン中、選手に大きな負荷をかけない指導者だ。06年の鹿島入り以降、内田はコンディション調整が中心の日々を過ごしてきたが、ドイツでは全く違った。短期間で体を鍛え抜いたことで太ももが急激に太くなり、日本から持参したジーンズが履けなくなったという。運動量も増え、最近のゲームではダイナミックなアップダウンを繰り返すようになった。
「プレーに関しては『自由にやれ』と言われているんで、今はちょっと大げさなくらい前へ出て行くようにしています。バランスを考えたら本当はそこまでやらなくていいけど、『内田は攻撃的な選手なんだ』って分かってもらうためにね。開幕から2試合は使ってもらっているけど、いつベンチ外になるか分かんない。そういう危機感の中でやっていて余裕を持てたのか、今回、代表に戻ってきて、ピッチ全体が広く見える気がしましたね」

 原因不明の嘔吐(おうと)を患っていた時期は口数が少なく、覇気もなかった内田。そんな悪循環がW杯での出場機会なしにつながった。けれども、今は別人のように毅然(きぜん)と自分の考えをハッキリと言うようになった。顔つきも精悍(せいかん)になり、貪欲(どんよく)さや野性味も出てきた。こうした外面の変化からも、心身の充実ぶりがよくうかがえた。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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