代表選手たちは今後に向けて何を思う?=選手の証言でひも解く日本代表総括 第3回

元川悦子

ミドルシュートの質の向上が不可欠

協会は新監督を決めるにあたって、選手にヒアリングをした上で方針をしっかりと決めるべきだろう 【写真:アフロ】

 とはいえ、ボールを支配できない状況下でも、フィニッシュまで持っていく方法を持っていなければ、勝ち進めないのも事実。「そのためにもミドルシュートの意識と精度を高めるべき」と指摘する選手は少なくない。
「ワールドカップ(W杯)に出てくる選手はシュートレンジが広かった。やっぱりミドルシュートの精度を高めていかないと、世界で点を取るのは難しい」と駒野はピッチ上で実感したという。

 今野も「ほかのチームの試合を見ていても、ミドルシュートがきちんと枠に飛ぶ。それもGKがはじかざるを得ないような際どいボールを蹴ってくる。それをフォルランみたいな選手は高い確率で決めてくるから、どうしてもDFは寄せなくちゃいけなくなる。そこで意表を突いたスルーパスを出されると、守備陣は間違いなく困る。ミドルの精度が高ければ、相手DFの組織も崩れやすくなるということだと思う。南アの後、Jリーグで戦っていると、やっぱりミドルシュートが少ないと感じる。もっと増やさないとダメですね」としみじみ語っている。

 パラグアイ戦を振り返ってみても、日本の得点機といえるのは、松井大輔と本田圭佑のペナルティーエリア外からのミドルシュート2本と、後半のセットプレーからの闘莉王のヘッドだけだった。ミドルシュートの質を上げることは、決定力不足を解決する大きな糸口になるかもしれない。
 今後の日本代表が、南アで採った守備ブロックを生かした戦い方を踏襲するのか、イビチャ・オシム前監督のように人もボールも動いて敵を凌駕(りょうが)するスタイルを狙うのか、それともまた別のオプションを採るのかは、今のところ定かではない。闘莉王のように「守り中心にやっていかないと、この先は難しい」と強調する者がいる一方、「今のままでは点を取るのは難しい。個の力をつけないと」と言う駒野や岡崎のような者もいて、代表選手の間でも意見が微妙に異なる。ここからどう舵を切るのかは真剣に考えないといけない問題だ。

協会は選手たちの声に耳を傾ける必要がある

 日本サッカー協会が攻撃サッカーを標榜(ひょうぼう)するビクトル・フェルナンデス氏を次期代表監督候補の筆頭に挙げたのを見ると、攻撃面、特にフィニッシュのてこ入れを図ろうとしているのはよく分かる。ただ、本当に彼になるのかは不透明だし、実際に指揮を執っても日本人の能力を引き出せるという確証はない。
 監督人事がどう転んでもいいように、岡田ジャパンの2年7カ月と南ア大会の戦いをあらためて分析し、方向性を明確にしておくことがまず肝要だろう。監督が代わるたびに目指すものがブレたら選手も混乱するし、日本サッカー界としての発展もあり得ない。

「南アでやった守備ブロックを作る戦い方は十分生かせる。試合によって、時間帯によってもやれると思うから。日本人の良さである組織力、ボールのないところでも走れる勤勉さも南アの収穫として得られたんだから、それはぜひ続けていくべきですね。
 日本は監督が変わるたびに志向が右へ行ったり左へ行ったりすることが多いけど、やっぱり継続性はすごく大事。スペインでさえ、バルサとかクラブで積み重ねてきたことが代表にも根付いて、やっと国としてのスタイルが確立されてきた。日本も早くそうならないといけない」と中村憲は主張する。

 一方、過去4度のW杯を知る楢崎は「日本人の特徴を考えたら、世界でももう少し攻撃的にやれるはず」と指摘した。
「南アでは運動量が多いといっても、相手を追いかける運動量だけに終始した気がする。日本人はもっとポゼッションをして、攻撃を組み立てた方が特徴を生かせると思う。まあ、先のことは協会や新監督が考える話だけど、ここまでの経験は確実に生かしてほしいですね」

 このように実際にW杯を戦った選手たちは、代表の活動や方向性に少なからず意見を持っている。サッカーの方向性だけに限らず、代表を取り巻く環境についても思うところがあるようだ。
 南ア大会後も、彼らは短い休養を経て、すぐ公式戦に戻らざるを得なかった。ここへきて阿部勇樹が「下半身に力が入らない」と訴えたり、大久保嘉人が体調不良とヒザの痛みで離脱したりするのも、十分な調整時間を取れていないことも影響しているはずだ。
「この3年くらい、1月に代表が始まって12月末まで公式戦をこなす日程が続いて、まともに休んでいない。そして今は夏場の連戦でしょ。ここまで代表の誇りで頑張ってきたけど、さすがにきつい。代表選手側から見れば、秋春制の方がやりやすいと思います」と中村憲はキッパリ話す。

 協会は98年フランス、02年日韓、06年ドイツと過去3度のW杯の後、選手たちの声を拾わず、技術委員会の分析だけで大会総括を終わらせている。ドイツ大会のキャプテンだった宮本恒靖も「僕らにもきちんと話を聞いてほしかった」と残念そうに語ったことがある。
 選手と協会サイドの見解は必ずしも一致するとは限らないし、選手にしか分からないこともある。しかも今回は、選手の叫びが岡田監督に戦い方を変える決断をさせたという経緯もある。その生き証人たちの経験、意見をフィードバックしない手はない。
「次のブラジルでどうなるか。それで南アの本当の意味が分かると思う」と岡崎は言う。日本が14年ブラジル大会でベスト16の壁を破ろうと考えるならば、今までと同じアプローチでの総括だけでは難しいのではないか。サッカーの方向性を定めること、そして選手が最高の状態で戦える環境を作ることなど、やるべきことはたくさんある。今後の日本サッカーの強化を考える上で、協会も関係者も、もっと選手たちの声に耳を傾けてもらいたい。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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