大味なイメージを残した今夏の甲子園=総括

松倉雄太

選手も印象的な試合に挙げた仙台育英vs.開星

 6月19日の初戦から約2カ月が立った8月21日、12の勝利を積み上げ、甲子園のマウンドで歓喜の輪をつかんだ興南高。見事に1998年の横浜高以来12年ぶり春夏連覇を達成した。48試合の熱戦が行われた今夏の甲子園を総括してみたい。
 エース・島袋洋奨(3年)が「最も厳しい試合」と振り返ったのが、6対5と逆転勝ちした準決勝の報徳学園高(兵庫)戦。序盤の1、2回で5点を奪った報徳学園高の攻撃は見事につきる。さらに逆転されても、自慢の走力をふんだんに使った攻撃で島袋にプレッシャーをかけ続けた。「興南に勝つにはこの形しかなかった」と永田裕治監督が振り返った報徳学園高の戦いぶり。まさしく王者・興南高を最も苦しめたチームだった。
 興南高と同様に『連覇』を目指していたチームがある。昨夏の覇者・中京大中京高(愛知)。初戦で好投手・岩本輝(3年)擁する南陽工高(山口)に2対1と競り勝ったが、、早稲田実高(西東京)との2回戦では初回に7点を失って、試合の流れをつかむことができず、6対21と大敗した。堂林翔太(現広島)、河合完治(現法大)らを擁した昨年ほどの打力がなく、粘り強さを身上にしてきたチームにとって、初回の大量失点は致命傷だった。
 今大会に出場した選手の多くが印象的な試合として話していたのが、1回戦の仙台育英高(宮城)が開星高(島根)を6対5と下した一戦。仙台育英高が2点ビハインドの9回2死走者なしからひとつのエラーをきっかけに逆転、その裏も2死一、二塁のピンチをしのいだ攻防には痺れるものがあった。しかし、それ以上に野球の怖さ、取り組み方を再認識させられる試合だった。9回表に勝利を先走り、ガッツポーズを見せてしまった白根尚貴投手(2年)には、この教訓を次のチームに生かすことを忘れないでほしい。
 1点差が12試合、零封が10試合あった今夏の甲子園だが、それ以上にインパクトを与えたのが序盤でゲームが壊れる、1イニングでの大量得点といった大差試合の多さだった。5点差以上ついた試合が19試合。例年にない酷暑が選手の集中力と緊張感を奪ったのは否めない。

大きく成長した中川とプロの評価上げた山田

 そんな大味なイメージを残した今大会だが、甲子園の舞台で大きく成長した選手もいたことを触れておきたい。その代表格が成田高(千葉)の中川諒投手(3年)。ややひじを下げたスリークオーターから繰り出される直球のキレは抜群。勝負どころではその直球がホップするようなうねりを見せた。準決勝で敗れたが甲子園で投じたのは5試合670球。チームのマウンドを守り抜いた堂々たる姿は紛れもない夏のエースの一人だ。
 一方、二人で切磋琢磨してマウンドに立ったのが報徳学園高の大西一成(3年)と田村伊知郎(1年)の両投手。大西は兵庫でも屈指の左腕だったが、春先までは他校の選手の陰に隠れるような形で目立ってはいなかった。それが今春、田村が入学し、公式戦で躍動。その姿に悔しさを覚えつつも、大きな刺激を受けた。甲子園での5試合すべてで継投。先輩の大西は、かなわなかった日本一の夢を後輩・田村に託す。

 島袋、有原航平(広陵高)などのプロ注目選手が大学進学を示唆。一二三慎太(東海大相模高)も進路は流動的で、今大会出場選手から秋のドラフト会議に指名される選手は少ないと見られる。その中で、プロ志望を表明し、今大会で期待通りの活躍を見せたのが履正社高のショート・山田哲人(3年)。初戦の天理高(奈良)戦ではピッチャー強襲の内野安打にタイムリー三塁打、3回戦の聖光学院高(福島)戦では一時は同点となるレフトスタンドへの一発を放った。敗れはしたが、大舞台で走攻守に魅せた山田に対するプロ側の評価が上がったのは間違いない。

下級生で目立った聖光・歳内と東海大相模・渡辺

 今大会は下級生の活躍も目立った。聖光学院高の歳内宏明投手(2年)はスプリットを武器に2回戦・広陵高(広島)で完封すると、3回戦では履正社高から2ケタ奪三振。興南高との準々決勝で敗れたが、この甲子園で得た教訓を糧にできれば、来年が非常に楽しみな投手だ。トップバッターとして役割を存分に果たしたのが東海大相模高の渡辺勝外野手(2年)だ。決勝までの5試合中、4試合で初回の第1打席に出塁。準々決勝では九州学院高の渡辺政孝(3年)、準決勝では成田の中川と好投手を崩す起爆剤になった。決勝戦でもホームには返ってこれなかったが、島袋からも初回に直球をたたいてヒットで出塁。興南バッテリーにも強烈なインパクトを残した。
 このほかに印象に残った来年度期待の下級生選手を挙げてみる。
横山雄哉(山形中央高・投手)
高橋究(成田高・外野手)
重信慎之介(早稲田実高・三塁手)
安田権守(早稲田実高・外野手)
田中俊太(東海大相模高・二塁手)
谷口一平(遊学館高・遊撃手・1年)
岡本拓也(北大津高・投手)
村井昇汰(北大津高・遊撃手)
飯塚孝史(履正社高・投手)
越井勇樹(報徳学園高・一塁手)
森達也(西日本短大付高・投手)
中村惣平(長崎日大高・投手)
萩原英之(九州学院高・一塁手・1年)
溝脇隼人(九州学院高・遊撃手・1年)
浜田晃成(延岡学園高・三塁手)

 全国の先陣を切って6月19日に開幕した沖縄大会で敗れた7校は新チーム結成から2カ月が立った。深紅と紫紺、興南高に渡った2本の優勝旗を争奪すべく、次の世代はもう動き出している。冬場とは違い、試合をしながらチームの基礎をつくる夏の鍛錬が、高校生を大きく成長させると言われる。そして夏休みが終われば、秋の戦いが一気に本格化する。
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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