「日本スタイル」構築への第一歩=バレー女子・ワールドGP
新たな「日本スタイル」の構築を目指す日本。ここまでの成果は―― 【坂本清】
日本が取り組む課題
「今までと同じじゃ、変わらない。今、新しいことに取り組まないとダメなんです」
ブラジル、岡山で戦ったこれまでの6戦を5勝1敗で終え、20日の東京ラウンド初戦でドミニカ共和国に勝利した時点で、決勝ラウンド進出は決まっていた。だが、そこからイタリア、オランダに敗れ9戦を終えての予選最終成績は6勝3敗。最終日のオランダ戦以外はほぼ固定したメンバーで臨んだことを考えれば、予選とはいえ決して満足すべき結果ではない。
世界で勝てるチームになるために、新たな「日本スタイル」を構築する。真鍋政義監督が掲げたディフェンス力向上という課題に加え、5月のナショナルトレーニングセンターでの合宿から努めてきた、新しいコンビパターンがあった。
コンビを形成する上で、軸になるのはセッターだ。しかし、相手のスパイクをセッターがレシーブした場合や、セッターが取りに行けないほどにサーブレシーブが崩れてしまう場合など、トスを上げるのはセッターだけとは限らない。そこで単調なトスを上げるだけでは、相手ブロックの思うツボ。目の前に2枚、3枚と並ぶ高いブロックに対して得点するには、スパイカーの技術に頼るのも限度がある。
だが、ここで相手が予測しない攻撃を仕掛ければ、ピンチはチャンスに転じ、勝機を呼び込む武器にもなる。5月合宿からの3カ月間、日本が強化してきたのはまさにこの場面から新たな展開を生み出すことだった。
イタリア戦でこんなシーンがあった。
2セットを連取された第3セット、3−8と5点をリードしたイタリアは強弱をつけたサーブで日本を崩しにかかった。サーブレシーブが乱れ、トスを上げるのはセッターではなくスパイカーの木村沙織(東レ)。するとイタリアのブロックは、この試合で当たっていた江畑幸子(日立)をマークした。しかしここで木村は、センターからライトへ走り込んだ井上香織(デンソー)へトスを上げた。アンテナ近くまでコートの横幅をいっぱいに使った井上のブロード攻撃が鮮やかに決まり、ようやく日本が追い上げに転じるきっかけを得た。
「たとえ1本目(のレシーブ)が崩れても、常に速く入る。高さに対抗するにはスピードしかないと思ってやってきた練習の成果が、試合の中でかなり出るようになってきた。手応えを感じています」
井上の対角に入る山本も同様で、「トスの質よりも、とにかくスピード。(二段トスを)上げる人には、多少乱れてもいいから速いトスがほしいと要求しています」。
より速く、なおかつ正確な二段トスを上げるために、木村はジャンプトスを多用し、これまではアンダーハンドでトスを上げることの多かったリベロの佐野優子も「今までは苦手だったから、ほとんど上げることがなかった」と言うオーバーハンドでのトスを積極的に取り入れるようになった。試合を重ねるごとにコンビ発生の回数も増え、新たなパターンは東京大会で少しずつ定着し始めた。
結果として敗れはしたが、イタリア戦でも二段トスからのブロード攻撃や、井上の速攻に山口舞(岡山)が絡むトリッキーなコンビが何本も決まった。
山本が言う。
「チャンスボールからの速い攻撃、崩れたところからの新しいコンビがもっと確実に決まるようになれば、世界で勝つことは十分できる。自信になりました」
キャプテンの荒木「誰が出ても勝てるチームにならないと」
決勝ラウンド進出は決めたものの、最後に2連敗を喫した日本。主将の荒木(手前)は、厳しい表情で試合を終えた 【坂本清】
前日、前々日とはメンバーが変わったことからコミュニケーション不足による連携ミスが続き、立ち上がりからオランダに主導権を与えた。リベロも佐野から濱口華菜里(東レ)に代わり、「合宿から取り組んできた」という二段トスからのスピードあるコンビは影を潜め、フルセットの末に3敗目を喫した。
多くの選手が肩を落としながら足早にミックスゾーンを後にする中、キャプテンの荒木絵里香(東レ)が語気を荒げた。
「誰が出ても同じプレーがしっかりできる勝てるチーム、強いチームにならないと苦しい試合は乗り切れません」
現在の日本チームは、まだ、発展途上のチームではある。だが、オランダは今年5月に代表へ初召集されたセッターが今大会はトスを上げ続け、波はありながらも、最後にアウエーでの日本戦に勝利したことを考えると、発展途上は言い訳にしかならない。
イタリア、ブラジル、中国など強豪国がそろう決勝ラウンドでどれだけの収穫を得られるか。「日本スタイル」構築に向け、決勝ラウンドでは「課題」ではなく「自信」が一つでも多くなることを願うばかりだ。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ