岡田ジャパンを結束させた3つの要素=選手の証言でひも解く日本代表総括 第2回
迷いを振り払った“カメルーン戦での結果”
カメルーン戦では、ゴールを決めた本田が中村憲ら控え選手のもとに駆け寄る場面が見られた 【写真:ロイター/アフロ】
期待と不安が渦巻く中、日本代表は朝を迎えた。カメルーン戦の開始時刻は16時。フリーステート・スタジアムに向かう直前のミーティングで、岡田武史監督は選手たちの闘争心を最大限かき立てようと試みた。
「2年半の岡田ジャパンの名場面が編集されたモチベーションビデオを見ました。1人1人がいいプレーをしているのを見ると、自然とやる気が高まってきますよね。その後、岡田さんが話をしたけど、普段とそんなに変わらなかったかな。『攻守の切り替えを速くして、1人1人がいいところをイメージして試合に入れ』と。そして『躍動感のあるサッカーをしよう』と言いましたね」と今野泰幸は当日の様子を振り返る。
岡田監督が指示した通り、ピッチ上の選手からは直前4試合とは比べ物にならない躍動感が感じられた。試合内容は周知の通り、前半からボールを支配され、日本は耐えて忍んで1点を狙うという展開を強いられた。それでも日本の一番の良さである組織力が崩れることはなかった。「闘莉王さんが言った通り『下手くそなりのサッカーでいい』とみんな割り切っていたのが大きかったと思います」と今野は全員の胸中を代弁する。
迎えた前半39分、右サイドに開いた松井大輔の左足から繰り出された精度の高いクロスに大久保嘉人が飛び込んでマークを引きつけた。ファーサイドの本田圭佑がフリーになり左足を振り抜く。このパターンは岡田監督が2年半、トレーニングで毎回のように取り組んできたものだった。敵をつけない練習でも2〜3割しか決まらない得点が大一番で決まるのだから、サッカーとは不思議なものだ。
先制点の後、本田圭佑はべンチに駆け寄り、仲間たちと歓喜の抱擁を交わした。中村憲剛に「点を取ったら来いよ」と声をかけられたことを思い出し、約束を果たしたのだ。
中村憲は語気を強める。
「2006年の時、チームが分裂してしまったって話はいろんな人から聞いていました。僕はそういうのが絶対に嫌だった。4年に1回しかないし、何度も出られるわけじゃないワールドカップ(W杯)という大きな大会にせっかくみんなで来てるんだから、悔いだけは残したくなかった。自分が出られない悔しさはもちろんありましたけど、日本がグループリーグで敗退した方がよっぽど悔しいでしょう。とにかく、みんなでまとまって勝ちたかったんですよね」
そんな思いが本田への一言につながり、チームの結束をより強めた。確かに思い返してみると、ドイツW杯の時は、選手全員がこれほど1点の喜びを分かち合う場面を見た記憶がない。
後半も押し込まれながら、日本は粘りに粘った。出ている選手たちは体を張り続け、ベンチの人間たちも固唾(かたず)をのんで見守った。タイムアップの瞬間、彼らは求め続けてきたカメルーン戦での勝利をとうとう現実のものにする。
「南アでまとまれたのは、やっぱり初戦で勝ったからじゃないかな。結束したから勝ったのか、勝ったから結束したのかはよく分からないけど……。本大会前の試合が悪かったという厳しい意見を何とか黙らせたいという思いは、みんな強かったと思うけどね」と楢崎正剛は勝利の意味を静かに分析した。
2度目のW杯だった玉田圭司も「結果がついてきたことは何よりも大きい。もし負けていたら『なんでいきなり戦い方を変えたんだ』とボロクソに言われていたと思う。日本は南アが4回目のW杯だったけど、強豪国みたいに内容うんぬんで判断できないところがある。勝利経験が少ない分、勝つことが一番大事だった。カメルーン戦の勝利はものすごく大きかったよね」としみじみ語った。