ただ者ではない報徳学園の1年生右腕・田村=タジケンの甲子園リポート2010
ゴロを打たせる低めの制球力
米大リーグでよく使われるもので、併殺打を含むゴロでのアウト数を、三振を除いた全体のアウト数(ゴロアウト+フライアウト)で割った数字だ(犠打の多い高校野球のため、今回は三振のほかに犠打の数も除いて計算した)。この数字が高い投手はグラウンドボール・ピッチャーとして制球力があるといわれる。ゴロアウトが多いということは、低めに投げて、打たせて取れている証明だからだ。
今大会ベスト4に残った高校の投手の数字は以下の通り。
名前(高校名)=アウト数/三振/犠打/ゴロ/ゴロ率
中川諒(成田高)=108/36/6/27/40.9%
島袋洋奨(興南高)=99/37/2/23/38.3%
一二三慎太(東海大相模高)=80/18/10/36/69.2%
大西一成(報徳学園高)=59/15/3/23/56.1%
田村伊知郎(報徳学園高)=49/14/6/23/79.3%
田村の突出した数字が光る。今大会で最速は144キロをマークしているが、投球のほとんどは130キロ台後半。変化球もスライダーだけと球種も多くない。投法も右オーバーハンドとオーソドックスな投げ方だ。それでも、ここまで防御率2.20と好投できているのは、やはりゴロを打たせる制球力があるから。やはり、ただの1年生ではない。
一二三の数字もかなり高い。だが、一二三の場合は低めへの制球力というより、球威と球筋が大きく影響しているといえる。右のサイドハンドから球威ある140キロ台の球が来るのに加え、右打者にはシュート回転で内角に食い込んでくる。一二三の球速、球威、球筋はいずれも練習しづらいため、高校生では打つのは難しい。3試合で四死球は16(1試合平均5.4個)とストライクを入れる制球力はあるとはいえないため、ボール球を見極め、打つべき球をしっかり選べるかが一二三攻略のポイントになる。
島袋、中川はともにゴロ率が低く、フライボール・ピッチャー。アウトの大半がフライか三振という松坂大輔(現米大リーグ・レッドソックス)タイプだ。このタイプは制球力というより球威、球速によるところが大きい。そのため、連投での疲労の影響が心配される。フライが多いということは、高めの球が多いということ。球威、球速がなくなれば長打を浴びる危険性があるからだ。ここから先は、自分の理想通りの投球をすることは難しい。持ち味を保ちつつ、どこまで丁寧に投げられるかがカギだ。
名前(高校名)=アウト数/三振/犠打/ゴロ/ゴロ率
堂林翔太(中京大中京高)=121/24/8/59/66.3%
伊藤直輝(日本文理高)=132/49/6/43/55.8%
菊池雄星(花巻東高)=97/27/5/49/75.4%
山田智弘(県岐阜商高)=99/20/6/51/69.9%
メジャーを代表するグラウンドボール・ピッチャーのブランドン・ウェブ(米大リーグ・ダイヤモンドバックス)が2008年にナ・リーグ最多の22勝を挙げたときのゴロ率が64パーセント。それと比較しても高い数字が並ぶ。雄星を除き、140キロ台の速球を投げ込む投手ではない。堂林などは130キロ台前半から中盤がほとんどだった。それでも勝てたのは、やはり低めへの制球力があったから。ゴロを打たせれば、それをさばく野手にリズムが生まれ、攻撃にもつながる。新チームの投手たちは、この数字を励みに、球速にこだわらず、しっかり低めへの制球力を磨いてほしい。
高校野球で勝つには、やはり低めへの制球力。あと2試合。果たして、どんな結末が待っているのだろうか――。
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