真夏の戦いを決めた“開き直り”=2010年サッカーインターハイ総括

安藤隆人

市立船橋、つかみ取った自信を全国大会で証明

決勝で勝ち越しゴールを決めるなど、市立船橋の優勝の原動力になった藤橋 【写真は共同】

 市立船橋(千葉第2代表)の優勝で幕を閉じた「美ら島インターハイ」。真夏の沖縄は想像以上に暑く、選手たちから体力と集中力を奪い取っていた。熱中症を起こす選手も複数出る中、決勝の舞台に駒を進めたのは、滝川第二(兵庫)と市立船橋。両チームに共通しているのは、共にインターハイに入るまでに一度チームが大きく低迷していることだ。プリンスリーグで思うような結果を残せず、チームが不協和音に陥ることもあったが、共にこの大会をきっかけに急浮上。ある意味開き直ってこの大会に臨み、大会を通じて成長していったからこそ、真夏のファイナリストとなれた。

 優勝した市立船橋は、プリンスリーグ関東で苦しい戦いを強いられた。第7節の浦和レッズユース戦で0−4と大敗し、続く第8節は同じ県内のライバル・流通経済大柏に0−3の完敗を喫した。「流通経済大柏が強いのは分かっていた。だけど、あそこまでやられたのは正直ショックだった」。けがで出場していなかった大黒柱のMF藤橋優樹が唇をかんだように、チームは崩壊しかけた。翌9節の桐光学園戦も0−1で敗れ、1点も取れずに3連敗と、低迷した。

 しかし、ここからチームに光が差し込む。今年の1月に第5中側骨骨折が判明し、手術とリハビリで戦列から離れていた大黒柱の藤橋が復帰。抜群のキープ力と展開力で中盤でタメを作り、攻撃の起点になる藤橋の復帰はとてつもなく大きかった。今年の市立船橋は決して個の能力が低いわけではなかった。しかし、その個をつなぐものが足りなかった。なかなか結果が出なかったこともあり、よりチームは不安定さを露呈していた。
 だが、大黒柱が復帰し、そのタイミングがインターハイ予選からだったこともあり、チームはいい意味で「リセット」することができた。
「インターハイ予選から仕切り直しの気持ちでできた。もう、はい上がっていくしかないと思った」(藤橋)。
「それまで失点が多くて、勝ち切れなかった。なのでもう一度前線からの守備を徹底した。ギャップを閉めて、しっかりと守備を作ろうと立て直すことにした」(石渡靖之監督)。

相手の力関係を冷静に理解する強さ

 彼らにとってインターハイは、つかみ取った自信を全国に証明する場となった。初戦はいきなり高校選手権準優勝校の青森山田(青森)とぶつかったが、立ち上がりにいきなり2ゴールを決め、あとは粘り強い守備で2−1と逃げ切ると、3回戦の選手権優勝校・山梨学院大附属(山梨)戦では石渡監督が期待する2年生ストライカーの和泉竜司が爆発し、2ゴールをたたき出して4−1の大勝。ここに来て、ようやく攻守がかみ合った。そして、準々決勝の立正大淞南(島根)、準決勝の桐光学園(神奈川)戦で成長したチームの足跡を証明する試合を演じた。

 立正大淞南戦は開始わずか22分で和泉が3得点。スーパーゴールでハットトリックを達成すると、残りの時間はほぼハーフコートゲームとなるほど押し込まれながらも、2失点に抑え、逃げ切った。桐光学園戦は累積警告で藤橋が出場停止。中盤のタメがなくなり、うまく攻撃が構築できない状況であったが、全員が粘って相手の攻撃に耐え、終了間際のセットプレーからのワンチャンスをものにし、1−0で勝利した。
「相手ペースの試合になるのは想定していた。押された中で、全員が集中してやってくれた。勝負は押している方が焦って、押されている方が逆に集中して伸び伸びとプレーできる」と石渡監督が語ったように、堅守と鋭い攻撃力で全国を席巻してきたこれまでのチームと違い、全員が自分たちと相手の力関係を冷静に理解した上で戦えることこそが、今年のチームの強さであった。

 決勝でもその姿勢が結果につながった。相手の2トップを軸にした攻撃に劣勢に立たされ、先制を許すが、すぐさま追いついて勝負は延長戦に。延長戦になると、前半から飛ばしていた滝川第二の足が止まり、我慢を続けていた市立船橋の攻撃が爆発した。
「前後半は前に行くことを控えていた。でも、延長戦で元気があるうちに、点を取るために前に行こうと思っていた。1点取ったら何とかなると思った」と語った藤橋が、何度も前線に飛び出して、相手のマークのひずみを作り出すと、延長前半6分に決勝弾をたたき込む。2分後に藤橋の突破からMF石原幸治が追加点、さらに10分にMF今瀬淳也がPKを決めて、言葉通り一気に試合を決定付けた。

「試合は圧倒的にウチの試合だった。でも、あそこでスーパーゴールが3発生まれて、最終的に勝ってしまうのが、市立船橋やな。さすがとしか言えない」
 準々決勝で敗れた立正大淞南の南健司監督の言葉が、今大会の市立船橋の強さを如実に表している。試合内容ではどれも相手を凌駕(りょうが)したわけではない。しかし、最終的には結果を残すからこそ、真夏の頂点に輝いた。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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