アルゼンチン代表監督をめぐる紆余曲折

マラドーナ体制の終えん

退任会見で涙を浮かべたマラドーナ 【Photo:ロイター/アフロ】

 アルゼンチン代表の周辺が騒がしい。南アフリカで行われたワールドカップ(W杯)準々決勝でドイツに0−4と完敗し、大会から姿を消したのは最悪の出来事だった。だが、7月27日にAFA(アルゼンチンサッカー協会)が代表監督のディエゴ・マラドーナと契約を延長しないと発表して以来、さらなる混乱が起こっている。物語の主役である3人――AFA会長のフリオ・グロンドーナ、代表のカルロス・ビラルドGM(ゼネラル・マネジャー)、そしてマラドーナはそれぞれに怒りをぶちまけ、火に油を注いでいる。

 31年8期にわたりAFA会長に君臨し、2011年に任期が切れるグロンドーナは結局、26日にマラドーナと会談を持った。その際、代表監督に契約延長をオファーしたものの、その条件として現コーチ陣のうち7人の交代を求めたという。そのうちの2人はアシスタントコーチで、2人はフィジカルコーチだった。後にマラドーナが非難しているように、グロンドーナはこの条件ではマラドーナが監督を続けることはできないことを知っていたのだ。

 会談に先立ち、マラドーナは地元テレビ局のインタビューに応じ、コーチ陣などの人選を一任されることを条件に、監督を続けるつもりであることを明かしていた。マラドーナの性格上、仕方がなかったことだったとはいえ、駆け引きという意味では、この発言は不用意だったと言わざるを得ない。このタイミングで言うべきことではなかっただろう。なぜなら、コーチ陣の1人であるアシスタントのアレハンドロ・マンクーソは、ビラルドの天敵である78年W杯の優勝監督セサル・ルイス・メノッティに考えが近く、グロンドーナはマンクーソを拒絶すると考えられていたからだ。

 だが、26日のミーティングで、グロンドーナはマンクーソのみならず、ほかの6人のスタッフについても「ノー」を突きつけた。つまりは、マラドーナを否定したということだ。それから数時間後、AFAの理事会メンバー28名は、全会一致で元スターとの関係を終わらせることを決定した。

地獄の始まり

 そこからが地獄の始まりだった。代表監督退任が決まった翌28日、マラドーナはブエノスアイレスで会見を開き、ビラルドを“裏切り者”、グロンドーナを“うそつき”と糾弾する声明を読み上げた。その翌日には今度はビラルドが「もう我慢できない。これ以上の侮辱を許すことはできない」と反論。後日、会見を開く意思を示したが、どうやらグロンドーナに説得され、会見は取りやめたようだ。

 そもそもグロンドーナが2008年11月にマラドーナを代表監督に招へいしたのは、前任のアルフィオ・バシーレが10年W杯の南米予選の真っただ中に辞意を表明したからだった。協会は説得を行ったが、バシーレの決意は固かった。当初、後任にはカルロス・ビアンチが有力だという話もあった。だが、グロンドーナの2人の息子が、マラドーナにチャンスを与えるよう、父親を説得したのだった。

 マラドーナの代表監督としての仕事ぶりは、理想とは程遠いものだった。チームとしての戦術は皆無に等しく、2年足らずの間に招集した選手の数は108人にも上った。また、自らがコーチに希望するオスカル・ルジェリの入閣が協会から拒否されると、「自分には決定権がない」とメディアに不満を漏らすなど、常に話題を振りまいた。
 そして忘れてはならないのは、W杯敗退を受けて協会はマラドーナの続投を支持するコメントを出していたものの、辞意をほのめかしていたのはマラドーナ自身だということだ。グロンドーナも“特別な人物”と続投に前向きだった。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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