南アの空に輝いた若き星たち=W杯で生まれた6人の新スター

木崎伸也

ドイツからはミュラーら注目のタレントが続々登場

孤立しがちなワントップで奮闘し、各国メディアから高評価を得た本田 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】

 それに対してドイツからは、注目のタレントが次々に出てきた。まず日本のサッカーファンの目に留ったのは、トップ下のメスト・エジル(ブレーメン)だろう。この21歳のレフティーは、ドイツ待望のゲームメーカータイプで、スルーパスやワンツーで攻撃のリズムを変えることができる。今大会の「ナンバーワン新人レシーバー」がペドロだとしたら、「ナンバーワン新人パサー」はエジルだ。

 ただし、真の「ナンバーワン新人」に選ばれたのは、エジルのすぐ右横でプレーしていた選手である。20歳のトーマス・ミュラー(バイエルン)は、6試合に出場し5得点を挙げ、ベストヤングプレーヤー賞に輝き、ゴールデンブーツ賞(得点王)も手にした。
 ミュラーは手でキャッチするかのようにトラップし、飛び跳ねるようなドリブルでペナルティーエリアに侵入する。何と言っても最大の魅力は、ペナルティーエリア内のクレバーさだ。トゥーキックでシュートしてGKの意表を突いたり、わざと競り合わずにこぼれ球を狙うこともある。セカンドストライカーのお手本のような選手だ。将来、ロナウドのW杯個人最多得点記録(15点)を塗り替えることも夢ではない。

 今回の「新スター6人」には入れなかったが、23歳のサミ・ケディラ(シュツットガルト)も大きな注目を集めた。フィジカルの強さを生かして相手の攻撃をつぶすだけでなく、頻繁にゴール前に顔を出して、負傷離脱したミヒャエル・バラックの穴を見事に埋めた。レアル・マドリーのジョゼ・モリーニョ新監督がほれ込み、2人はマドリーの空港で緊急会談。モリーニョはエジルとマリオ・ゴメスの獲得も希望していると報じられており、一気にドイツ代表から3人がレアル・マドリーに加入する可能性も出てきた。

各国から驚くほどの高い評価を得た本田

 もちろん、上位3チーム以外にも、輝いた新人はいた。ウルグアイのルイス・スアレス(23歳、アヤックス)は、09−10シーズンのオランダリーグの得点王が運だけではなかったと証明した。ディエゴ・フォルランとのコンビは間違いなく今大会で最強の2トップだった。
 2部リーグの選手でありながら活躍したという意味で、ガーナのアンドレ・アイェウ(20歳、ACアルル)も注目に値する。昨年のU−20W杯では、キャプテンを務めてガーナの優勝に貢献。09−10シーズンに所属していたのはフランスの2部のクラブだったが、今大会では左MFのレギュラーに定着して、ベスト8進出の原動力になった。スピードを生かして前線ならどこでもプレーできる。次回のW杯までに間違いなくヨーロッパで成功を収めているだろう。

「新スター」の締めくくりとして挙げたいのが、日本代表の本田圭佑(24歳、CSKAモスクワ)だ。今回、筆者は『世界は日本サッカーをどう報じたか』という新書を執筆するために、スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、ブラジルなど、世界中から報道をかき集めた。すると本田が驚くほど高い評価を得ていることに気が付いた。日本がパラグアイに敗れたことを伝える記事の中で、スペインの『マルカ』紙はこうつづった。
「試合の見せ場は少なかったが、そのほとんどをあまり知られていなかった本田が作った。彼は今大会のサプライズだ。技術のレベルが高く、シュート力がある。こんな形で大会を去り、これ以上見られないのが残念だ」
 また、イタリアの『ガゼッタ・デロ・スポルト』紙は「本田は甘美な足と、鋭敏な脳を持っている」と褒めたたえた。
 日本は悪い流れを変えるために、大会直前に方針転換したことで、コンビネーションという意味では最低限のものしか備わってないチームになった。ワントップで孤立することが多く、メッシやルーニーと同じように、何もできずに終わってもおかしくなかった。にもかかわらず、これだけ世界から高い評価を得たのだ。もっと連係が深まったチームだったら、さらに本田は世界を驚かせたに違いない。組織のための組織ではなく、個を生かすための組織。今大会のベスト3から見えたトレンドを、日本代表も意識していくべきだろう。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント