南アの空に輝いた若き星たち=W杯で生まれた6人の新スター
ドイツからはミュラーら注目のタレントが続々登場
孤立しがちなワントップで奮闘し、各国メディアから高評価を得た本田 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】
ただし、真の「ナンバーワン新人」に選ばれたのは、エジルのすぐ右横でプレーしていた選手である。20歳のトーマス・ミュラー(バイエルン)は、6試合に出場し5得点を挙げ、ベストヤングプレーヤー賞に輝き、ゴールデンブーツ賞(得点王)も手にした。
ミュラーは手でキャッチするかのようにトラップし、飛び跳ねるようなドリブルでペナルティーエリアに侵入する。何と言っても最大の魅力は、ペナルティーエリア内のクレバーさだ。トゥーキックでシュートしてGKの意表を突いたり、わざと競り合わずにこぼれ球を狙うこともある。セカンドストライカーのお手本のような選手だ。将来、ロナウドのW杯個人最多得点記録(15点)を塗り替えることも夢ではない。
今回の「新スター6人」には入れなかったが、23歳のサミ・ケディラ(シュツットガルト)も大きな注目を集めた。フィジカルの強さを生かして相手の攻撃をつぶすだけでなく、頻繁にゴール前に顔を出して、負傷離脱したミヒャエル・バラックの穴を見事に埋めた。レアル・マドリーのジョゼ・モリーニョ新監督がほれ込み、2人はマドリーの空港で緊急会談。モリーニョはエジルとマリオ・ゴメスの獲得も希望していると報じられており、一気にドイツ代表から3人がレアル・マドリーに加入する可能性も出てきた。
各国から驚くほどの高い評価を得た本田
2部リーグの選手でありながら活躍したという意味で、ガーナのアンドレ・アイェウ(20歳、ACアルル)も注目に値する。昨年のU−20W杯では、キャプテンを務めてガーナの優勝に貢献。09−10シーズンに所属していたのはフランスの2部のクラブだったが、今大会では左MFのレギュラーに定着して、ベスト8進出の原動力になった。スピードを生かして前線ならどこでもプレーできる。次回のW杯までに間違いなくヨーロッパで成功を収めているだろう。
「新スター」の締めくくりとして挙げたいのが、日本代表の本田圭佑(24歳、CSKAモスクワ)だ。今回、筆者は『世界は日本サッカーをどう報じたか』という新書を執筆するために、スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、ブラジルなど、世界中から報道をかき集めた。すると本田が驚くほど高い評価を得ていることに気が付いた。日本がパラグアイに敗れたことを伝える記事の中で、スペインの『マルカ』紙はこうつづった。
「試合の見せ場は少なかったが、そのほとんどをあまり知られていなかった本田が作った。彼は今大会のサプライズだ。技術のレベルが高く、シュート力がある。こんな形で大会を去り、これ以上見られないのが残念だ」
また、イタリアの『ガゼッタ・デロ・スポルト』紙は「本田は甘美な足と、鋭敏な脳を持っている」と褒めたたえた。
日本は悪い流れを変えるために、大会直前に方針転換したことで、コンビネーションという意味では最低限のものしか備わってないチームになった。ワントップで孤立することが多く、メッシやルーニーと同じように、何もできずに終わってもおかしくなかった。にもかかわらず、これだけ世界から高い評価を得たのだ。もっと連係が深まったチームだったら、さらに本田は世界を驚かせたに違いない。組織のための組織ではなく、個を生かすための組織。今大会のベスト3から見えたトレンドを、日本代表も意識していくべきだろう。
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