南アの空に輝いた若き星たち=W杯で生まれた6人の新スター

木崎伸也

孤立し輝きを放てなかった大物たち

6試合で5得点を挙げるなどドイツの3位に貢献し、ベストヤングプレーヤーに選出されたミュラー 【Photo:ロイター/アフロ】

 ただのスターから、「語り継がれる伝説の選手」へ――。
 4年に1度のワールドカップ(W杯)は、そんなチャンスが眠る大舞台だ。20年、30年先にも語り継がれる存在になるためには、結果と内容、すべてを手にしなければいけない。
 そういう意味で、南アフリカ・W杯は、「スターが期待を裏切った大会」になったと言えるだろう。アルゼンチン代表のリオネル・メッシも、ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドも、イングランド代表のウェイン・ルーニーも、クラブにいるときとは別人のようなプレーしかできなかった。
 オランダの名将フース・ヒディンクは、『キッカー』誌のコラムでこう指摘した。
「今回のW杯では、新たなビッグスターは生まれなかった」
 ヒディンクは「この3人が力を出せなかったのは、周りからサポートを受けられなかったことが原因」と考えている。

 例えば、ルーニーはマンチェスター・ユナイテッドであれば、マークを外す動きをすれば、味方からドンピシャのパスが出てくる。だが、イングランド代表のチームメートとは、そこまでの連動性を築けていなかった。メッシにしても、ボールを持てば切れ味鋭いドリブルができたが、あくまで単独の試みで終わり、周りから孤立している印象が強かった。
 チャンピオンズリーグ(CL)に出てくるようなクラブでは、もはやチームとしての組織が完成されているのは当たり前で、いかにずば抜けた選手の能力を生かすかという段階に突入している。だが代表では、練習時間が限られてしまっている。ルーニーは決勝トーナメント1回戦のドイツ戦で、周りとイメージが合わず、終始イライラしていた。クラブと代表のギャップを、最後まで克服することができなかった。

レシーバーとしてパスの潤滑油になったペドロ

 それに対し、今大会でベスト3に入ったのは、ここ数年プレースタイルを変えていない国ばかりだった。スペインはバルセロナを模範とし、ユーロ(欧州選手権)2008と同じショートパスをつなぐサッカーで優勝を果たした。準優勝のオランダは、彼らにとっておなじみの4−3−3を採用している。これに違和感を覚えるオランダ人選手などいるわけがない。3位のドイツは、04年から一貫して素早く効率的にパスを回す「テンポフットボール」を目指してきた。クラブチームに近い完成度が、彼らにはある。
 だから、個人の力をきちんと生かすこともできる。「今大会で生まれ新たなスター」を探すとなれば、当然、この3カ国の選手たちが候補になるだろう。

 スペインでは、22歳のペドロ(バルセロナ)がW杯の壁を越えてみせた。開幕時にはレギュラーではなかったが、準々決勝のパラグアイ戦で途中出場すると、ダビド・ビジャの決勝点をアシスト。続く準決勝のドイツ戦で初先発して何度もチャンスを作り、決勝戦でもスタメン入りして優勝に貢献した。
 今大会、ペドロはドリブル突破だけでなく、パスを引き出す「レシーバー」としての才能を存分に発揮する。スペインは、ビジャを頂点に、左にアンドレス・イニエスタ、右にペドロ、トップ下にシャビというのが基本布陣だ。だが、ペドロはイニエスタとともに、中央の密集地帯にどんどん飛び込んでパスを受けようとした。よほどのトラップ技術がなければ、できない芸当である。スペインが準決勝から一気に調子を上げたのは、ペドロがパスの潤滑油になったことが大きかった。
 オランダからは、残念ながら新たなスターは生まれなかった。23歳のエリエロ・エリア(ハンブルガーSV)はスーパーサブとしてブレークしそうだったが、デンマーク戦でゴールにつながるシュートを放っただけで、あとは平凡な出来。千載一遇のチャンスを生かせなかった。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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