日本が目指すサッカーは「オランダではなくスペイン」=柏木陽介(浦和)の日本代表分析・W杯観戦記

了戒美子

浦和のMF柏木陽介が選手の目から日本代表、W杯について語った 【Photo:松岡健三郎/アフロ】

 現役Jリーガーはワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会をどう見るのか? この問いに答えてくれるのは、未来の日本代表を担う逸材と期待される、浦和レッズのMF柏木陽介。若きファンタジスタが注目する選手、プレー、戦術など、選手ならではの視点で分析してもらおう。W杯期間中に行った短期集中連載はいよいよ最終回。11日の決勝、オランダvs.スペインを振り返るとともに、2014年ブラジル大会に向けての決意を語ってくれた。

オランダは「強かった時代の浦和みたいだった」

 ワールドカップ(W杯)が、終わりましたね。スペインの優勝は、とても良かったなと思います。見ていて楽しいサッカーをするチームがきちんと勝つということは、励みになるとでも言えばいいのかな。自分たちがどんな方向を目指せばいいかと考えたときに、指針、支えになるような気がします。
 決勝のオランダ対スペインは本当に意外な組み合わせでした。どちらもここまで来るとは思っていなかったので。試合は、延長までもつれましたが、面白かったです。はっきりと両チームのカラーが出ていましたね。オランダは個人の能力で、スペインは組織で戦った。もちろん、スペインはその組織を構成する個の能力がものすごく高いわけですが、組織で戦ったチームが勝つということはチームスポーツとしても良かったなと思います。

 オランダの戦い方は、(アリエン)ロッベンのドリブル、(ウェスレイ)スナイデルの個人技、(ディルク)カイトの頑張りがあって、残りの7人は徹底して守っていましたよね。昔の強かった時代の(浦和)レッズを思い出させるものがありました。時期で言うと2005年、06年くらいですかね。ワシントン(ステカネラ・セルケイラ=現サンパウロ)の圧倒的な得点力があって、(ロブソン)ポンテの個人技があって、田中達也さんが走ってというような時期のサッカーを思い出しました。
 オランダは、勝利のために基本的には守ってカウンターを徹底していた。今大会で何回か言っていますが、やっぱりチーム戦術は徹底できていてこそだと思います。オランダは本当に徹底していましたね。ただ、ファウルが多かった。勝ちたい気持ちの表れだとしても、審判に対する異議が多すぎた。あれでは最終的に審判は味方になってくれません。

今大会のナンバーワンはシャビ・アロンソ

柏木が今大会のナンバーワンプレーヤーに挙げたのは中盤の底からスペインを支えたシャビ・アロンソ 【Photo:アフロ】

 対するスペインは、そのカウンターをしのぐだけのパスサッカーを見せてくれた。全体的には、調子が上がらなかった面はあると思います。ユーロ(欧州選手権、08年優勝)をはじめとしてこれまでの実績もあるわけだし、サッカーは相手がいますから、(警戒されて)力を出させてもらえなかったという側面はあると思う。それでもやっぱりすごいの一言です。特に僕は中盤の前めの選手として、パッサーとして、こういうサッカーできたら楽しいだろうなと何度も思いました。
 何がすごいかといえば、チーム全体のバランスですね。メンバー構成もそうだし、ピッチに並んだときのバランスがとてもいい。得点にしたって、決して流れの中からの得点だけではない。セットプレーもとても強いし、最少失点で終わったことで分かるように全体的に守備もものすごく強かった。もちろん、シャビ、(アンドレス)イニエスタの能力は魅力的でした。どんな状況でも何でもできるというんですかね。

 あと、今大会で僕にとって一番印象に残ったのは、シャビ・アロンソでした。もちろんこれまでも存在は知っていましたが、ここまで能力の高い選手だとは思っていませんでしたし、印象的なプレーヤーでもなかったです。でも今回は、中盤の底に入って効果的な縦パスを勇気を持って通すところや、あのポジションからの展開力でスペインを支えていましたよね。守備においても、くさびを通さない動きや、読みの鋭さなどセンスを感じました。ダブルボランチを守備的な(セルヒオ)ブスケツと組んでいたことで、思い切った攻撃参加が可能だったとは思います。僕としては今大会のナンバーワンです。

 そして日本として目指すのは、やっぱりオランダではなくてスペインのサッカーですよね。オランダのような、ピッチを広く使ってダイナミックに個の力でというのは現実的に難しい。だけど、スペインみたいにコンパクトにして、ショートパスを全体で繰り返す形だったら近づけるんじゃないかなと思う。もちろん高い技術は必要ですけどね。個人的には大会中ずっと影響され、刺激されていました。

W杯は「背負っているものが違う」

 大会全体を通して思ったことは、やっぱりこの大会の重さ、懸けるものの大きさということでしょうか。スペインが「ユーロ2008のころのチームに比べて面白くない」と言われていると聞きますが、大会が違いますからね。全体的に守備的なチームが多かったのもこのような大きな大会で勝ちたいという気持ちの表れだと思います。サッカー界がそのような方向に進むことは望ましいことではないし、各チーム状態が良ければまた違ったとは思いますが、「勝ちたい」「結果を出したい」という気持ちの結果だと思うと一概に否定はできないですね。

 帰国したホンディ(本田圭佑)と話す機会があったのですが、「何よりも勝ちたかった」と言っていました。本大会に入る前の(親善試合で)4連敗という流れがあるからなのでしょうが、周囲に何を言われても、不本意な守備的なサッカーをしても何でもいい、とにかく、勝ちたかったと。もう、何て言うんだろう。そういう舞台なんですよね。すべてをかなぐり捨てて、ではないですけど。

 ブラジル大会に向けて、僕自身は何があっても何としても、W杯に出なくてはいけない。このままやっていては普通の選手で終わってしまう。どういう形でも、レベルアップして、絶対に代表に入りたいと思います。僕がやるべきことはまず、試合にきちんと出ることですね。今季、(サンフレッチェ)広島から浦和に移籍してきて、ここできっちり結果を出すこと。そして海外に出て、若いうちにもまれること。それが次回大会につながると思います。自分を奮い立たせてくれる、そんなW杯でした。

<了>
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著者プロフィール

2004年、ライターとして本格的に活動開始。Jリーグだけでなく、育成年代から日本代表まで幅広く取材。09年はU−20ワールドカップに日本代表が出場できないため、連続取材記録が3大会で途絶えそうなのが気がかり。

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