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オランダ、未来の黄金世代に大きな夢を託して
中田徹の「南アフリカ通信」

最終ラインの欠点を隠して決勝戦まで来たが……

ハイティンハ(3番)の退場によりファン・ボメルが最終ラインに。結果、オランダの中盤の守備の壁は崩壊した
ハイティンハ(3番)の退場によりファン・ボメルが最終ラインに。結果、オランダの中盤の守備の壁は崩壊した【ロイター】

 強いチームが順当に勝った。スペインがオランダを下した瞬間、そう思った。内容も予想通りだった。サッカー新聞の『エル・ゴラッソ』紙には「スペインの中盤の強さの前に、オランダは中盤の守備の要であるファン・ボメルとデ・ヨングが前半のうちにイエローカードをもらってしまう」と予想記事を書いたが、まったくそのままだった。

 スペインは決定力に課題があり、試合内容の良さを得点差に表すことができない。オランダはどんな相手からも1点を取る自信がある。だから1−1からオランダは苦手なPK戦で敗れる……と予想したのだが、結構いい線をつけたと思う。

 オランダからすればレフェリーの判定にはいろいろ言いたいこともあるだろう。ロッベンが2度のチャンスのうち一度でも決めれていれば、オランダが90分で決着をつけていたかもしれない。それでいてなお、スペインの強さが目立った決勝戦だった。


 15分、ファン・ペルシのタックルがカプデビラの足首に入ってから、試合は荒れた。28分までの13分間にオランダに3枚、スペインに2枚のイエローカードが乱れ飛んだのだ。ギリギリのプレーをしないと相手を止められなかったオランダに対し、スペインは熱くなって応戦してしまい、スペイン優位の試合内容もこう着してしまったが、このままだとオランダは大きな代償を払うことになる流れだった。事実、オランダは無傷のまま120分を終えることができず、ハイティンハをイエローカード2枚で失った。


 このとき、オランダはデ・ヨングがベンチに下がっていたため、セントラルMFはファン・ボメルとファン・デル・ファールトが組んでいた。ハイティンハが抜けた穴はファン・ボメルが埋めることになり、オランダは守備にアクセントを置いたMFが1人もいなくなった。オランダが今大会で築き続けてきた中盤の厚い守備の壁はこうして崩壊したのである。

「守備が欠点」と言われ続けてきたオランダは、ファン・ボメルとデ・ヨングを軸に6人の守備ブロックを形成。さらに前線の選手が労を惜しまず守備に参加し、クラブチームのような守備組織を作り、最終ラインの欠点をうまくカモフラージュしながら決勝戦まで来たが、最後に力尽きた。

未来の代表選手に大きな夢を与えた

スナイデルら選手の活躍は、未来のオランダ代表の選手に大きな夢を与えたはずだ
スナイデルら選手の活躍は、未来のオランダ代表の選手に大きな夢を与えたはずだ【ロイター】

 準優勝に終わったものの、それでもオランダは火曜日(13日)にアムステルダムの運河でパレードをするらしい。今大会でオランダが見せた試合運びにはいろいろ言いたい人が世界中にいるだろうが、国民わずか1600万人の小国がブラジルを破るなどして世界2位になったのだ。オランダ人は大会中、ずっと美しい夢を見ていたのである。

 オランダ国民を熱狂させた今回のワールドカップ(W杯)では、子供たちが相当興奮してオランダを応援していたと聞く。日本と違って、オランダでは代表チームの選手はスーパースターの扱いである。あこがれの選手たちが目の前の苦難を克服し、決勝まで到達した姿に歓喜し、最後は負けて涙したのだろう。


 オランダはスーパースターの勇士にあこがれた世代が、その後の黄金世代を作ってきたことの繰り返しである。大会がまたがる場合は名前を省略するが、1974年W杯準優勝のクライフ、ファン・ハネヘム、クロル、二ースケンスら。88年のユーロ(欧州選手権)優勝のファネンブルク、フリット、ファン・バステン、ライカールト。95年にチャンピオンズリーグ(CL)で優勝したアヤックスのデ・ブール兄弟、オーフェルマウス、ダービッツ、クライファート、セードルフ、ブリント、ファン・デル・サール、リトマネン(フィンランド人だがアヤックスサッカーの完成形として、その影響力は絶大だ)ら。98年W杯のベルカンプ、スタム、コクー、ヨンク、ゼンデンら。2006年W杯のファン・ニステルローイ……と相当ざっくりと並べてみても、オランダの子供たちは過去の世代にあこがれて、大きな影響を受けながら新世代の選手が生まれてきたことが分かるだろう。

 今大会のスナイデル、ロッベン、ファン・ペルシ、カイト、ファン・デル・ファールト、ファン・ブロンクホルスト、ファン・ボメル、ファン・デル・ビールといった選手の活躍や奮闘も、未来のオランダ代表の選手に大きな夢を与えたことは間違いない。これはオランダのサイクルなのだ。

W杯がオランダリーグの刺激になるように

代表チームが国内リーグの刺激となるか。今後は、国際競争力の向上が求められる
代表チームが国内リーグの刺激となるか。今後は、国際競争力の向上が求められる【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 そこで代表チームの活躍を受けて盛り上がってほしいのが国内リーグだ。そこはオランダも日本も事情は同じだ。ベスト16に進んだ日本も、ワイドショーなどで随分と盛り上がったと聞く。今回のW杯は子供たちにもいい影響を与えただろう。地元に根付き、それなりに観客数が安定しているJリーグだが、ライト層の取り込みに苦労しており、テレビ中継の視聴率が非常に低い。W杯での盛り上がりがJリーグの繁栄につながればこれほどうれしいことはない。

 ただし、オランダの場合はサッカー狂いの国民性だから、ライト層の取り込みというより国際競争力の向上の方にアクセントが置かれる。


 最近、オランダリーグのクラブはヨーロッパのカップ戦で元気がない。09−10シーズンで言えば、オランダ王者としてCLに臨んだAZがグループリーグを突破できなかったばかりか、最下位に沈んだ。ヨーロッパリーグではオランダリーグの1位、2位、3位にあたるトゥエンテ、アヤックス、PSVがそろって決勝トーナメントの初戦で敗れてしまった。まだオランダリーグの国際競争力があった2000年代序盤なら、オランダリーグの1位から3位までのチームの舞台はCLだった。さらにその前の90年代半ばは、アヤックスが魅力的なサッカーでヨーロッパ中を魅了していた。しかし、今のオランダリーグにその面影はない。

 結局、代表チームのベースは、普段の国内リーグである。その底上げなくして、海外トップリーグへの移籍はないし、代表チームの強化もない。今回のオランダ代表が、「おれたちオランダ人でも国際舞台で勝つことができる」という刺激をオランダリーグのクラブチームに与えるように。そして子供たちの夢となるように――。


<了>

中田徹
中田徹

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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