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素晴らしき3位決定戦
宇都宮徹壱の日々是世界杯2010(7月10日@ポートエリザベス)

3位決定戦は盛り上がるか?

誇らしげに国旗を広げるドイツサポーター。この日のドイツは主力を欠いた苦しい布陣となった
誇らしげに国旗を広げるドイツサポーター。この日のドイツは主力を欠いた苦しい布陣となった【宇都宮徹壱】

 大会30日目。この日はここポートエリザベス(PE)にて、ウルグアイ対ドイツの3位決定戦が行われる。しかし試合前の街並みからは、ワールドカップ(W杯)の熱気はほとんど感じられなかった。メディア関係者についても同様である。ネルソン・マンデラ・ベイ・スタジアムに向かうシャトルバスの乗客は私ひとり。プレスルームに到着すると、まるでノーゲームデーのようにジャーナリストの数はまばらで、何とも閑散とした印象を受ける。そういえば友人の同業者も「へえ、3決(3位決定戦)行くんだ」と、いかにもモノ好きを相手にしているような反応であった。まことに残念ながら、3決をめぐる一般的な認識は、およそこのようなものである。


 ここ2大会の3決は、ホスト国が出場していたこともあり、それなりに盛り上がっていた記憶がある。06年のドイツにしても、02年の韓国にしても、ホスト国としての責務を果たした彼らが、いかに冒険を終わらせるかという一点において、人々の注目を集めていた。また98年には、クロアチアという初出場のダークホースが登場したことで、それなりの盛り上がりを見せていた(試合自体は凡戦だったが)。しかし今大会はウルグアイとドイツ。地元の人々にとっては、どちらもシンパシーを感じにくく、また戦う方にしてもいずれも優勝経験があるので、果たしてどれほどモチベーションがあるのか、非常に気になるところだ。結論から言えば、両チームとも極めてモチベーションは高かったものの、スタメンの顔ぶれには大きな差があった。


 まずドイツ。準決勝はサスペンションだったミュラーが復帰し、GKには若き守護神ノイアーに代わってベテラン36歳のブットが起用された。ただし、チーム内にインフルエンザがまん延したため、これに感染したラームとポドルスキが欠場。現在4ゴールで得点王争いに絡んでいるクローゼも、準決勝で背中を痛めたためベンチとなった。対するウルグアイは、DFのビクトリーノ、MFのアルバロ・ペレイラが控えに回った以外は、ほぼベストのメンバー。準々決勝のガーナ戦で「勝利のハンド」を犯したスアレスも、出場停止1試合のみで復帰している。大型スクリーンに彼の姿が出現すると、スタンドから大きなブーイングが起こった。アフリカ勢の期待を一身に集めていたガーナを、絶望の淵にたたき込む契機を作ったスアレス。そんな彼を、地元の人々は決して許してはいなかった。この日はスアレスがボールを持つたびに、会場からは猛烈なブーイングが発せられることとなる。

逆転に次ぐ逆転を制したドイツ

試合終了間際、ウルグアイはFKを獲得。しかし、フォルランのシュートは無情にもクロスバーをたたいた
試合終了間際、ウルグアイはFKを獲得。しかし、フォルランのシュートは無情にもクロスバーをたたいた【ロイター】

 試合は予想外に点の取り合いとなった。先制したのはドイツ。前半19分、シュバインシュタイガーがウルグアイDFのクリアボールを直接ミドルで蹴り込む。いったんはGKがはじくが、ミュラーが確実に詰めてネットを揺らす。これでミュラーは、得点ランキングトップに並ぶ、今大会5ゴール目。まだ20歳、しかも今大会が初のW杯となるこの男は、今後どのようなキャリアを積み上げていくのだろうか。何やら歴史的な場面に立ち会っているのではないかと思えるくらい、この日のミュラーは光り輝いていた。

 しかしウルグアイもすぐさま反撃。28分、ハーフウエーラインでペレスがシュバインシュタイガーからボールを奪うと、すぐさまカウンターで3対2の状況を作り、最後はスアレスのパスをカバーニが冷静にゴール右に流し込む。前半は1−1で終了。


 前半途中から降り始めた雨の中、後半はさらに目まぐるしい展開が待っていた。ウルグアイは、フォルラン、スアレス、そしてカバーニの3人が、変幻自在の動きを見せながら巧みにマーカーをかわし、さらに追加点を狙う。そして後半開始早々の6分、スアレスとのワンツーからアレバロが右からクロスを入れ、これをフォルランがたたきつけるような右足ボレーで逆転ゴールを決める。これでフォルランも今大会5ゴール目。こちらは31歳のベテランだが、今大会は何度もファンタスティックなゴールを決めて観客を大いに魅了した。個人的には、大会MVP候補の筆頭である。

 とはいえ、もちろんここであきらめるドイツではない。逆転されてからわずか5分後、右サイドのボアテングからピンポイントのアーリークロスが放たれ、相手GKとDFが重なったところに、ファーサイドでジャンプしたヤンセンが頭で合わせ、これが待望の同点弾となる。この日のヤンセンは、ポドルスキの穴を埋めて余りある仕事を見せた。


 その後は再び激しくなった雨と、根付きの悪い芝がめくれる最悪のピッチコンディションの中、こう着した展開が続く。世界3位の座を勝ち取るべく、どちらも死力を尽くした、まさに好ゲーム。それも近年の3決の中でも、間違いなく1、2を争う好ゲームと言えよう。そして後半37分、試合を決定づけるゴールが生まれる。コーナーキックのチャンスを得たドイツは、エジルのキックがゴール前でこぼれたところを、ケディラが強引に頭で押し込み、ついにドイツが再逆転に成功する。残り時間は8分。そしてロスタイムは2分。ここからさらに息詰まる攻防が展開される。何とか同点に追いつこうとするウルグアイは、ペナルティーエリア付近の絶好の位置でFKを獲得。名手フォルランのキックは、しかし無情にもバーをたたく。直後に終了のホイッスル。ファイナルスコア3−2で、ドイツがウルグアイを辛うじて振り切った。

大健闘のウルグアイと将来が楽しみなドイツ

ドイツは2大会連続の3位。若いチームは今大会、「新しいドイツ」を強く印象付けた
ドイツは2大会連続の3位。若いチームは今大会、「新しいドイツ」を強く印象付けた【ロイター】

 かくして、ドイツが3位、ウルグアイが4位となった。明暗を分けた両チームであったが、それぞれに今大会を象徴する、魅力に溢れたチームであったと思う。


 ウルグアイについては、フォルランというとび抜けたタレントを擁していたものの、全体的にはコレクティブなチームであり、とりわけ守備における個々の球際の強さとカバーリングの的確さは目を見張るものがあった。また攻撃に際しては、フォルランやスアレスだけに頼らず、彼らを含む3〜4人の選手が一気に攻撃参加して、その動きも実に流動的かつスリリングに満ちていた(もしかしたら、岡田武史監督の理想に近い形だったのかもしれない)。いずれにせよ、ブラジルとアルゼンチンがベスト8で沈んだ今大会において、南米代表として大健闘したウルグアイには、心からの拍手を送りたいと思う。


 そしてドイツ。前回大会の経験者が7人しかいない、この若々しいチームは、今大会において「新しいドイツ」を内外に強く印象付けて、2大会連続の3位に輝いた。もちろん2大会連続とはいえ、ベテランたちの大団円というイメージが強かった4年前の3位とは、今回は大きく意味が異なる。何より、このチームには未来への希望が満ち溢れており、2年後のユーロ(欧州選手権)、そして4年後のW杯では間違いなく優勝候補に数えられる存在となっているはずだ。ミュラー、エジル、ケディラ、ボアテング、クロースといったニューエイジが台頭するドイツ代表の未来は、他国がうらやむほど希望に満ちている。今大会、かように将来性溢れるチームが、ほかにあっただろうか。


 いずれにせよ今大会の3位決定戦は、ウルグアイとドイツという、それぞれ違った驚きや新鮮さを感じさせる両チームのおかげで、素晴らしいゲームを堪能することができた。その意味で、本当にPEまでやってきてよかったと思う。そして11日は、いよいよオランダとスペインによるファイナルである。ヨハネスブルクのサッカーシティでは、どんなドラマが待っているのだろうか。本稿を無事に送信し終えたら、すぐに現地へ飛ぶことにしたい。


<この項、了>

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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