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11の出来事で振り返る南ア大会
宇都宮徹壱の日々是世界杯2010(7月9日@ポートエリザベス)

3位決定戦の舞台、ポートエリザベスへ

3位決定戦の会場、ポートエリザベスにて。車に取り付けた小さなドイツ国旗が海風を受けて揺れている
3位決定戦の会場、ポートエリザベスにて。車に取り付けた小さなドイツ国旗が海風を受けて揺れている【宇都宮徹壱】

 大会29日目。この日はダーバンから3位決定戦の会場であるポートエリザベス(通称PE)へ国内線で移動。「あのヨハネスブルクの寒さは何だったのだろう」と思うくらい、こちらは実に穏やかな気候である。ここPEは昨年11月、南アフリカ代表と親善試合を行うべく、日本代表が初めて降り立った本大会会場のひとつである。もしも日本がベスト4に進出していたなら、おそらくこの地で終戦を迎えていたわけだが、死んだ子の年を数えるようなことは控えることにしよう。


 さてこの日もノーゲームデーなので、今大会について振り返る企画を考えてみた。題して「11の出来事で振り返る南ア大会」。プレーヤーのベスト11ではなく、ピッチの内外で起こった「今大会ならではの出来事」のベスト11を、私なりの視点でピックアップしてみようという試みである。便宜上、番号は付けてあるが、優劣を付ける意図はまったくない。いずれのエントリーも等しく、今大会を象徴する出来事であり、今後のW杯のあり方を考察する上で少なからずの示唆を与えるものである。とはいえ堅苦しく考えることなく、最後までお付き合いいただきたい。

ブブゼラとジャブラニが与えた影響

ブブゼラは地元の人々だけでなく、他国のサポーターにも広がった。スタジアムに響き渡る騒音も当たり前になった
ブブゼラは地元の人々だけでなく、他国のサポーターにも広がった。スタジアムに響き渡る騒音も当たり前になった【ロイター】

(1)ブブゼラでホイッスルが聞こえない!


 もはや説明不要のブブゼラ。当初は地元の人々限定の応援アイテムであったが、大会期間中に他国のサポーターの間にも広まり、過去のW杯では想像できないほどの騒音がスタジアムを包み込むこととなった。記者席にいるとホイッスルが聞こえず、ストップウオッチをスタートさせるタイミングを逸したのも一度や二度ではなかった。ベンチからの指示も、あまり届かなかったはず。その意味で今大会は、攻守におけるオートマティズムが確立していたチームにアドバンテージがあったように思う。


(2)新ボールに苦しむ名手たち。直接FKを決めたのは4人だけ


 ブブゼラと並んで今大会を象徴しているのが、公式試合球の「ジャブラニ」。パネル数を前回大会の14枚から8枚とし、「より球体に近づけた」とされるこのボールは、当初は「ブレ球を蹴りやすい」としてGK受難のボールと思われていたが、実際にはキッカーの側に相当の苦労を強いることとなった。世界中のキックの名手たちが、軒並みこのボールの扱いに苦労する中、今大会で直接FKを決めたのはわずかに4人。すなわち、韓国のパク・チュヨン、日本の本田圭佑と遠藤保仁、そしてウルグアイのフォルランである。意外な形で、日本人選手の技術の高さが世界に証明されることとなった。


(3)前回大会のファイナリストがいずれもグループリーグ敗退


 前回のドイツ大会で優勝トロフィーを争ったイタリアとフランスが、共にグループリーグ敗退。しかも両者ともグループ最下位という悲惨な成績に終わった。経緯は異なるが、イタリアもフランスも4年前と同じ監督で今大会に臨むことで「現状維持」を図ったが、かえってチームのマンネリ化と機能不全を生むことになり、最悪の結果を招くこととなった。日本も他山の石とすべきであろう。


(4)ホスト国・南ア、決勝トーナメントに進出できず


 そのフランスとのグループリーグ最終戦で勝利を収めたものの、ホスト国・南アはW杯史上初となる「グループリーグ敗退」の憂き目に遭ってしまった。アフリカ初の大会ゆえ、南アを含むアフリカ勢の躍進が期待されていたが、蓋を開けてみれば決勝トーナメントに進出したのはガーナのみ。コートジボワールやナイジェリアといった実力国も期待外れに終わった。気温と海抜の高低差が激しい南アでのゲームは、ほかのアフリカ諸国にとって、決してアドバンテージにはならなかったようだ。


(5)アジア、オセアニア勢が健闘


 アフリカ勢が振るわない中、アジア勢は大いに健闘。日本と韓国はいずれもグループリーグ突破を果たした。02年の日韓大会以外で、アジア勢が2チームもベスト16入りを果たしたのはもちろん今大会が初めて。また、82年大会以来の出場となるオセアニア代表のニュージーランドも、3戦無敗と下馬評を覆す健闘を見せて、イタリアを上回るグループリーグ3位で胸を張って帰国の途に就いた。


(6)南米勢、5チームすべてがベスト16に


 ベスト16に南米勢5チームすべてが名を連ねたのも、今大会の驚きであった。加えて5チームが、いずれも独自の方向性を鮮明にしていたのも興味深い。あくまで規律を重んじたブラジル。「戦術はメッシ」のアルゼンチン。美しい攻撃サッカーを追求したチリ。相も変わらず守備重視のパラグアイ。そして、ファンタジスタのフォルランをリアリストの10人が支えるウルグアイ。結果として、ブラジルとアルゼンチンという南米の両雄を差し置いてウルグアイがベスト4に進出したことも、これまた興味深い出来事だった。

残念な出来事も少なくなかったが……

「予言タコ」として世界中から注目を集めるパウルくん。3位決定戦はドイツ、決勝はスペインの勝利を予想した
「予言タコ」として世界中から注目を集めるパウルくん。3位決定戦はドイツ、決勝はスペインの勝利を予想した【ロイター】

(7)ハンド、ハンド、またハンド


 ルールについて目を向けると「ハンドを厳しく取る」ことが明確となったのが今大会の特徴。実際、故意ではない(つまり手に当たってしまった)ケースに対してもカードが出されるシーンが多く見られた。そんな中、ハンドにまつわる話題も事欠かなかった。セルビアはガーナ戦でクズマノビッチが、ドイツ戦でビディッチが、いずれもペナルティーエリア内で信じ難いハンドを犯してPKを献上(後者はGKのファインセーブで阻止)。ブラジルのルイス・ファビアーノは、コートジボワール戦で2度もボールが手に触れる確信犯的なゴールを決めたが、こちらは何らおとがめはなかった。またウルグアイ対ガーナの準々決勝では、延長終了間際にウルグアイのスアレスが、相手ゴールを阻止するハンドを犯して一発退場(これも確信犯的であった)。結局、ここで得たPKをガーナが外してしまい、PK戦の末にウルグアイが勝利するという「やり得」ハンドとなってしまった。


(8)誤審、誤審、また誤審


 ゴール判定に関する誤審が多かったのも今大会のトピックスのひとつ。決勝トーナメント1回戦、ドイツ対イングランドでは、イングランドのランパードが放ったシュートがバーに当たってバウンド。その際、明らかにゴールラインを割っていたにもかかわらず、審判団は「ノーゴール」の判定を下した。また、同日行われたアルゼンチン対メキシコでは、逆にオフサイドポジションにいたテベス(アルゼンチン)のヘディングシュートが「ゴールイン」と認められる誤審が発生。さらにウルグアイ対オランダの準決勝でも、オフサイドラインに引っかかっていたオランダのファン・ペルシが、スナイデルのゴールに関与(触ってはいない)していたのに副審はオフサイドを認めず、ゲームの流れを大きく変えることとなった。さすがのFIFA(国際サッカー連盟)も、こうした状況を無視できなくなったのだろう。最新のニュースによれば、バルケ事務局長が「人間の目に頼らないシステム」導入の可能性を示唆したとされる。


(9)相次ぐ強盗、盗難。選手も被害に


 ピッチ外での残念な出来事としては、今大会現地を訪れた旅行者やジャーナリストが強盗や盗難に遭った事件が相次いだことである。日本人カメラマンも、ブルームフォンテーンで「身ぐるみはがされる」事件に遭遇してしまった。高額な機材を持ち歩いているジャーナリストやカメラマンは、まさに格好のターゲットとなっていたため、取材するわれわれはプレスルームの中でも常に緊張を強いられる日々が続いた。被害は選手にも及び、イングランドやスペインの宿舎でも盗難事件が発生している。もちろんこうした不届き者は、南ア国民のごくごく一部であるだけに、現地のネガティブなニュースばかりが流布されたことは残念でならない。


(10)ファイナルはどちらが勝っても初優勝


 そんなこんなで残念な出来事も少なくなかった今大会だが、決勝のカードは実に魅力的な顔合わせが実現した。32年ぶり3度目の決勝進出となるオランダと、史上初のファイナリストとなったスペイン。何と、両者のW杯での顔合わせはこれが初めて。どちらが勝っても初優勝となる。共に攻撃力が自慢のチームなだけに、世界中が熱い視線を送ることは間違いない。果たして今大会はどのようなフィナーレを迎えるのだろうか。


(11)勝敗の行方を知る(?)タコの「パウルくん」


 世界中から注目を集めているといえば、やはりこのタコ、ドイツの水族館で飼われている「パウルくん」であろう。今大会のドイツの6試合の勝敗をすべて的中させた「予言タコ」として、各国メディアに取り上げられ、今では「世界で最も有名なタコ」となってしまった。そのパウルくん、3位決定戦はドイツが、そして決勝はスペインが、それぞれ勝利すると予言したらしい。果たして、結果やいかに。10日から始まる残り2試合を、楽しみに待つことにしたい。


<この項、了>

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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