リーグ最高成績を残したヤンキースの実力は!?=有力チームが集うア・リーグ東地区の戦い

杉浦大介

MLB最高成績の感覚値

MLB最高の成績を残した、好調ヤンキースをけん引するジーター 【Photo:Getty Images】

 今季のオールスターに大量6人の出場が決まった7月4日(現地時間 以下同)、ヤンキースのクラブハウスはいつも以上ににぎやかで、そして華やかだった。
 デレク・ジーター、アレックス・ロドリゲス、マリアノ・リベラ、CC・サバシア、フィル・ヒューズ、ロビンソン・カノの6人が次々に喜びのコメントを残していく。さらにまだ出場の可能性が残っていたアンディ・ペティット(出場選手発表の翌日、故障者リスト入りしたレッドソックスのバックホルツに代わって選出された)、ニック・スウィシャー(ファン投票で決まる「34番目の男」の候補)も記者団に囲まれた。
 あちらこちらで会見が始まるため、取材するこちらの方が追いつかないほど。
 さすがはロースターに約200億円が費やされた「銀河系軍団」。しかも彼らは昨季王者であり、今季も前半81試合終了時点でリーグ最高の成績(50勝31敗)を残しているのだ。最終的に8人が「オールスター」の栄誉を得たとして、どこからも文句など出ないはずである。

 ただそんな華やかなシーンの中で、ジーターに今季前半の総括を尋ねてみると、その言葉は意外に慎重だった。
「もっと良いプレーをしなければいけなかった。もちろんメジャー最高の成績なのだから好スタートを切れたとも言えるのかもしれないけど、もっと悪い方向に行っていてもおかしくはなかったかな」
 実はその直前、ジョー・ジラルディ監督も「私たちが持てる力を発揮できていたとは思っていない」とほぼ同じ趣旨のセリフをはいていた。
 そして、監督とキャプテンの言葉が単なる謙遜(けんそん)だったとは思えない。地元で彼らのプレーを見守って来た筆者にも、今季前半のヤンキースはそれほど素晴らしいとは感じられなかったからだ。
「好成績は先発投手たちのおかげ。ブルペンはもっとできたはずだし、打撃ももっと打ってくれても良いはずだ」
 そんなジラルディの言葉通り、サバシア、ヒューズ、ペティットと20勝ペースの投手が3人もいる先発陣こそ頼もしい。ただブルペンで信頼が置けるのは守護神リベラのみ。ジョバ・チェンバレン(防御率5.24)、デビッド・ロバートソン(同5.93)、パク・チャンホ(同6.41)らはそろって期待を裏切っている。

メジャーベスト3チームが同じ地区に

 そして攻撃陣も、MVP候補のカノ、打撃がうまくなったブレッド・ガードナー、2番起用が当たったスウィシャーを除き、ほとんど全選手がここまで自己の基準を下回る成績だ。先発ほぼ全員がキャリアイヤーで突き進んだ昨年と比べ、迫力が著しく低下した印象がある。
 それでも層の厚さのおかげで、トータルの数字こそ上質なまま。だが「ヤンキースを日々追いかけている者には、彼らが得点でメジャー2位というのは信じられない」という『ニューヨーク・ポスト』のジョエル・シャーマン記者の言葉には思わずうなずいてしまう。
 7月1日のブルージェイズ戦途中まで、得点圏に走者を置いた際に25打数連続安打なしというひどいスパンもあった。漠然とした表現で申し訳ないが、昨季に漂っていた「そのうち誰かが打ってくれる」といった安心感が今季のヤンキース打線には感じられないのだ。

 もちろんそんな状態でも今の位置にいることは、ヤンキースの底力を証明してはいるのだろう。野球は何と言っても投手なのだから、前述通り先発陣さえ好調なら問題はないのかもしれない。だが、油断はできない。
 所属するアリーグ東地区は今季も高レベルを保ち、現時点で2位のレッドソックス、3位のレイズまでが2ゲーム差内にひしめく混戦である。
 異常なほど故障者が続出しているレッドソックスだが、それでも6月を18勝9敗で戦い抜いて底力を示した。レイズはやや波が激しいが、『ESPN』のバスター・オルニー記者が「急降下の可能性がある一方で、明日からの22戦中20勝したとしても驚かない」と記している通り、ポテンシャルへの評価は依然として高い。
 多くの識者が「メジャーベスト3チームが同じ地区に集まった」とさえ指摘している。今は首位のヤンキースも、もし明日から3〜4連敗でも喫すれば、一気にプレーオフ圏外の地区3位に落ちることだってあり得るのである。

ア・リーグ東地区のデッドヒート

 そんなハイレベルの地区内でも、ここから一気に独走するチームがあるとすれば、それはやはり総合力と経験値で勝るヤンキースだろう。現実的にはじりじりと2位以下との差を広げていくシナリオが最も有力か。
 しかし栄冠直後のためか、やや緊張感に欠けた前半戦を観た後で、今後にはスリリングな道のりが待ち受けていそうな予感もある。
 そして勝負の後半戦に向けて、懸念材料がヤンキースの中にもないわけではない。1年通じて働いた経験のないヒューズ、38歳のペティットは前半の快調なペースを保てるか? 謎の低空飛行を続けるマーク・テシェイラは復調するのか? 中継ぎ陣の中に救世主的な存在は現れるのか? リーグ有数の高齢ロースターは主要なケガ人を出さないまま最後まで戦い抜くことができるのか……?

 今季は移籍期限間際の大型補強は考え難く、昨年から通じてのコアメンバーでこのまま戦い抜くことになりそう。そして、2009年は真の意味で追い込まれることがないまま頂点に立った「銀河系軍団」に、本物の試練が訪れたとき、そこで彼らがどんな反応を示すか楽しみにしたい気もする。

 重奏華麗な序曲のような前半戦は今週で終わり、MLBは間もなくオールスターブレイクに突入。その後、ア・リーグ東地区のデッドヒートは再開される。
 ヤンキースが6〜8人を送り込む10年球宴は、昨年から続く「ドリームシーズン」の終章なのか、それとも新たな「ダイナスティ」への中間地点に過ぎないのか。後半戦に彼らを待ち受けるのは、再びの独走か、ついに迎える試練の日々か。すべての答えが出るまで、あと3カ月強――。

<了>
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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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