意外な4強の顔ぶれ=ひっくり返った南米「高」・欧州「低」の流れ

王国ブラジル敗退の衝撃

大本命のブラジルはオランダに屈し準々決勝敗退。ミスからの失点をきっかけに自滅した 【ロイター】

 南アフリカで行われているワールドカップ(W杯)の4強の顔ぶれを、大会前に予想していた人がいるならば、間違いなく「クレイジー」の烙印(らくいん)を押されていただろう。もちろん、ヨーロッパの3チーム(スペイン、ドイツ、オランダ)は実力のあるチームであり、本命に挙げた人も少なからずいたに違いない。だが、アルゼンチンとブラジルがどちらも準決勝に進めないなどという事態を、いったい誰が想像しただろうか。

 ラウンド16を終えた時点では、南米勢の好調ぶりが際立っていた。出場した5カ国(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ)のうち、チリ以外の4カ国が8強入り。一方の欧州勢は、3試合すべてが同大陸同士の対決だったとはいえ、3カ国(オランダ、ドイツ、スペイン)の準々決勝進出にとどまった。だが、ふたを開けてみれば、その欧州3カ国と対戦した南米勢すべてが敗退した。南米「高」・欧州「低」の流れは、一気にひっくり返ったのだ。残ったのは、ガーナと対戦し、PK戦の末に勝ち抜きを決めたウルグアイだけだった。今や、南米の未来は“セレステ”(ウルグアイ代表の愛称)を率いるオスカル・タバレスの手の中にある。

 一番の衝撃は、大本命と言われていた王国ブラジルがオランダに屈したことだろう。しかも先制点を挙げながら後半に追いつかれ、その後は自滅の一途をたどった。ドゥンガのチームは経験のある選手をそろえていたはずだが、最後はプレッシャーに打ち勝つことができなかったのだ。
 最も決定的なミスは、才能あるMFフェリペ・メロがオランダに献上した同点弾である(後日、オウンゴールでなく、ウェスレイ・スナイデルのゴールに訂正)。この時点で、ブラジルの選手たちはかなりナーバスになっているように見えた。まだ、1−1の同点に追いつかれただけであるにもかかわらず。その後は、前半に見せた素晴らしいプレーは影を潜め、らしくない戦いぶりに終始した。そこへ、フェリペ・メロの退場が追い討ちをかけ、王国に試合をひっくり返す力は残っていなかった。

ドイツに完敗したアルゼンチン

アルゼンチンは組織的に戦ったドイツに完敗。頼みのメッシ(右)も徹底マークに遭い輝けず 【ロイター】

 永遠のライバルであるブラジルが敗退し、アルゼンチンにとっては24年ぶりの優勝に向けてチャンスとなるはずだった。準々決勝の相手はドイツ。3月にミュンヘンで行われた親善試合では、1−0で下した相手である。だが、結果はご存知の通り、0−4と完敗した。
 ヨアヒム・レーブがこの日ピッチに送り出したドイツのスターティングメンバーは、4カ月前と3人しか変わっていない。そのうち2人は、負傷で登録メンバーに入っていないミヒャエル・バラックとGKのレネ・アドラーに代わり、今大会の不動のメンバー、サミ・ケディラとマヌエル・ノイアーが入った。もう1人は、センターバックのアルネ・フリードリッヒで、3月はザーダール・タスキが先発だった。だが、顔ぶれに大きな変化がなくとも、そのプレーは全く違っていた。バラックが抜けたことでチームの攻撃はよりスピーディーになり、効果的なカウンターが繰り出せるようになっていた。オーストラリア、イングランド、アルゼンチン相手に4ゴールをたたき出したのは、決して偶然ではない。

 前半3分のセットプレーからのトーマス・ミュラーのゴールが、マラドーナのチームの戦い方を難しくしてしまったのは確かだ。だが、ラウンド16までで今大会最多のゴール(10得点)を挙げていたアルゼンチンがドイツと当たるまで、いわゆる強豪国と戦ってこなかったのも事実である。真価が問われるのは準々決勝からだったが、アルゼンチンは大会前に懸念されたように――というより、ずっと問題視されていたように、選手個々の能力が高く、組織立ったプレーをするドイツを前に手も足も出なかった。攻撃陣にスター選手をそろえるアルゼンチンには、最後まで戦術というものがなかったのだ。

 頼みの綱だったリオネル・メッシは結局、1ゴールも決めることなくW杯の舞台から去った。この日もドイツの選手たちの徹底マークに遭い、ほとんど仕事をさせてもらえなかった。試合後の記者会見で、レーブ監督は語っている。「アルゼンチンの攻撃陣は、戻って守備をするのが好きではない。そこで中盤に大きなギャップを作り、われわれはそれを利用した」。アルゼンチンの弱点を突き、最後まで集中を切らさずに組織的に戦ったドイツ、個々の能力に任せきりでチームとしての戦いができなかったアルゼンチン。まさに、完敗だった。

決勝へ駒を進めるのは?

南米勢で唯一4強入りを果たしたウルグアイ。ファイナルに駒を進めることができるか 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 準々決勝でスペインに敗れたパラグアイは、称賛に値する戦いを見せた。ヨーロッパ王者に対し、80分すぎまで0−0で耐えたのだ。オスカル・カルドーソのPKが決まっていたら、スペインに勝利していた可能性すらあった。優勝候補の一角に対し、大健闘だったと言えるだろう。惜しむらくは、エースストライカーのサルバドール・カバニャスが頭部に銃弾を受けて重傷を負い、今大会に出場できなかったことだ。

 南米勢で唯一、準決勝に駒を進めたウルグアイは、組み合わせに恵まれていたとも言える。今大会で一番苦しんだ準々決勝では、ガーナ相手にPK勝ち。しかも、延長後半ロスタイムにルイス・スアレスがハンドでPKを与えるも、これをアサモア・ギャンが外してしまうというツキもあった。ハンドでの退場と引き換えに、スアレスは母国の英雄になった。
 だからといって、ウルグアイが対戦相手やPKのおかげだけでベスト4まで勝ち進んだわけではない。タバレスの知的な仕事ぶり、前線のスアレス、ディエゴ・フォルラン、エディンソン・カバーニの攻撃力も見逃せない。準決勝のオランダ戦では、ガーナ戦で退場となったアヤックス所属のストライカーを欠くことになるため、前線の入れ替えが必要になる。

 ファイナリストを決める決戦は刻一刻と近づいている。準決勝は面白い試合が見られるだろう。ドイツ対スペインは、ユーロ(欧州選手権)2008決勝のカードだ。2年前はフェルナンド・トーレスのゴールでスペインが優勝したが、今大会は欧州王者が苦しみながら勝ち上がってきた。決勝点を挙げたエースは故障明けで調子が上がらずにいる。
 もう1試合はウルグアイ対オランダだ。ブラジルを破ったオランダは、今回は優位な立場で試合に臨むことになるだろう。

 予期しなかった準決勝のカード。だが、面白くないはずがない。

<了>
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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