インテル化するW杯=変わりゆく戦術トレンド
南米>欧州はボールのせい? それとも日程?
前回王者イタリアはインパクトを全く残すことなく大会を去った 【Photo:アフロ】
明暗を分けたフットボール2大大陸だが、その要因の1つはボールではないかと考えている。公式球ジャブラニは軽くて、速く飛ぶらしいが、予想以上に扱いにくいようだ。高地での試合という条件も相まって、“飛びすぎる”ボールに欧州勢は苦労しているように見えた。サイドチェンジがタッチラインを越えてしまう、FKが思ったように落ちない、ミドルシュートがふき上がる……。
欧州勢のゲームはロングパスで守備の薄い地域へボールを送り込んだり、長めのクロスボールで空中戦を挑んでいくなど、ロングパスの使用頻度は南米勢よりも多い。長いボールを組み立ての軸にしているので、ボールの影響はより大きかった。ボリビアやエクアドルなどの試合で高地に慣れている南米勢は、ボールが飛びすぎるときの戦い方を知っている。また、テクニックに優れた彼らはショートパスだけでも局面を打開できる。
毎回取り上げられる過密日程の問題もあるかもしれない。欧州のリーグが終了してからワールドカップ(W杯)開幕までは約3週間だが、通常、リーグ開幕までに必要な準備期間は5〜6週間と言われている。長いシーズンの疲労や負傷を引きずりながら参戦しなければならない選手も数多く、ウインターブレークのないイングランド、スペイン、イタリアはその影響が出ていたかもしれない。ただ、今回は南米勢も欧州リーグでプレーしている選手が多いので、その点で条件はそれほど変わらない。
全体のトレンドはディフェンシブ
深く引いて守備ブロックを作ったスイスは強豪スペイン相手に完封勝利を収めた 【ロイター】
グループHではスイスがインテルのようにプレーし、バルセロナのようなスペインを初戦で下している。これには2つの要因が絡まっている。
まず、今大会のほぼすべてのチームがゾーンディフェンスを採用していて、4人×2ラインを基調とし、規則的なポジショニングで組織的に守る。ここまで1つの守備戦術に統一されたW杯は近年にはない。この守備戦術に対して、その規則性ゆえに規則的に穴を空けられることを証明したのが2年前のユーロ(欧州選手権)で優勝したスペインだった。規則的なポジショニングといっても、全員が同時に動けるわけではない。各選手のポジション移動には必ず“時差”が生じる。時差はスペースを生む。そのスペース、人と人の間に規則的にできるすき間にパスをつなぐことで、周辺により大きなスペースを生むことができる。スペインのパスワークがそれを可能にした。
規則的なゾーンによる守備、それを打ち破るスペインの存在。この2つがすでに大会前に分かっていることだった。つまり、すべての参加国にとってスペイン、あるいはスペイン的なパスワークは大きな脅威だった。この構図はCLでの「バルセロナvs.対抗勢力」と同じである。そこで、インテルの方法が参考になった。スペイン的なパスワークを封じ込むには、中盤を放棄して後方に守備ブロックを作り、なるべくコンパクトにして(人と人の距離をあらかじめ近づけて)ポジション移動に生じる時差を少なくする。すき間をゼロにするのは不可能だが最少にする。スイスがスペイン戦で採用したのもこの方法だった。
しかし、スペインと対戦しないチームもインテル式に傾いていたのはなぜか。これは簡単にいえば、すでに記したようにその方が短時間でマネできるからだ。スペインやバルセロナになるのは無理だが、インテルならまだ何とか形になる。スペイン式を成立させられる技量がなければ、パスワークに失敗してカウンターを仕掛けられてしまう。リスクが高い。要は、W杯では誰も負けたくなかったのだ。より簡単で、成果の出やすいほうに飛びついた。その背景には、代表チームに多くの時間を割くことはもはや、どの国にとっても容易ではないという事情も横たわっている。