「日本より上にいくには決定力向上が必須」=フランス名門紙が日本に敬意あるコメント

木村かや子

負けた日本がパラグアイの合計ポイントを上回る

PK戦でパラグアイに屈した日本だが、仏紙『レキップ』は日本の方により高い点をつけた 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 6月29日に行われたワールドカップ(W杯)・ラウンド16のパラグアイ対日本戦を評価したフランス紙『レキップ』の採点は、オランダ戦に続き、負けた日本の選手の採点の合計数が、勝ったパラグアイのそれを上回った。パラグアイの合計点49に対し、日本は54ポイントを獲得した。

 同紙で日本の試合を担当したステファン・コラー記者は「全体的に見て、日本はこのW杯に良い思い出を残した」としながらも、日本が今後、世界の大舞台で“本当の意味での脅威”となるためには、ゴールをもぎ取れる真のFWが必須、と言う。本田圭佑が本来は攻撃的MFで、生粋のアタッカーでないことを指摘しつつ、21分にクロスバーを直撃した松井大輔のシュート、40分にやはり松井のクロスがピッチ中央の本田に渡ったシーンを例外に、「昨日(29日)の日本は、ゴールを決めることができないまま何時間でもプレーできる、という印象を与えた」と評した。

「何人かの選手たちの技術的正確さと躍動感が、グループリーグで非常に興味深いスペクタクルを提供していただけに、これは残念なことである」とするコラー記者は、パラグアイ戦では前方の本田に効果的なパスがあまり届かず、孤立し過ぎていたことを指摘。岡田監督の「わが代表はあまり多くの得点機を作れないチームなので、あったチャンスを得点に変えられない暁には……」というコメントを引用し、指揮官が問題を自覚していたことも言い添えた。

テレビの解説者たちは「やや退屈な試合」

仏テレビ局の解説者たちも駒野(中央)のPK失敗には同情的な声 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 一方、デンマーク戦での「堅固な守備を保ちつつ、果敢に速攻を仕掛ける」日本に魅了されていた仏テレビ局の解説者たちは、パラグアイ戦を「双方のミスのオンパレード。プレー面で見ごたえのない、やや退屈な試合」と評した。
 この試合を現地で解説した1998年フランス代表監督のエメ・ジャケが「デンマーク戦のようなプレーができるチームなのに、なぜもっと持ち味を出して仕掛けないのか」と残念がれば、スタジオで解説した元ボルドー、トゥールーズ監督のエリー・ボープは「両チームともが試合の重要性ゆえに硬直を起こし、リスクを冒せないでいるのでは?」と首をひねった。

 ボープ氏は、前半の日本が頻繁にロングボールを使っていたことに触れ、「日本の持ち味は、しっかりした守備をベースに、俊敏なパス回しから速攻を仕掛けるプレー。ロングボールを使って本来の特質に逆らったプレーをするのは、戦略的誤り」と意見している。また両者の力はイーブンであると見ていたジャケ氏は、試合半ばに日本選手の何人かが走らず”歩いている“とし、これまで相手の二倍動いてきた日本の選手たちに、3試合を戦った疲れが出ているのでは、と推測した。しかし、見る者を楽しませたいテレビの立場から、日本とパラグアイ双方に進取の気性が欠けていると見たようで、「どちらが勝つにせよ、こんな戦い方をしていては、この後より先まで勝ち進むことはできない」という厳しい声も出た。

 反対にPKに関しては「プラティニ、マラドーナ、バッジョら、偉大な選手の多くがPKを外している。PKはコントロールの効かないものであり、外した者の責任ではない」と、涙に暮れる駒野友一と日本をいたわり、「自らの運命をその手に握るには、運にすべてを委ねる前の120分の間に、死に物狂いで勝利をつかみにいかなければ」とした。

 次に、意見を聞かれた一般のフランス人ファンは、「前半にハッとさせる好機を何度か演出した唯一の選手」だった松井の交代に際し、「警告を受けていたせい? 確かに前半から飛ばして疲れているのだろうが、彼を外すと相手への脅威が減る」とやや不満げ。延長戦で、相手ゴールに迫った玉田圭司がシュートを打たずにパスした場面に関しては、「この展開の、この場面で、自分でシュートしないとは信じられない」と、いら立ちも見せた。
 またミラノでテレビ観戦した『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙の一記者は、「日本のほかのFWのことはよく知らないのだが、1点がどうしても必要だった終盤には、若くて怖いもの知らずの森本(カターニア)投入という博打(ばくち)を打っても良かったのでは」と語っている。

最高得点はGK川島、長友、遠藤

日本で最高得点を獲得したGKの川島(右)。パラグアイ戦でも幾度となくピンチを救った 【ロイター】

 最後に、『レキップ』紙の採点の詳細は以下の通りだ。最高得点6を取ったのは、この日のキーマンとされたGKの川島永嗣。「確かにPKは1本も止められなかったが、その前に日本の希望をつなぐ2つの重要なセーブをした」と論評がついた。やはり6だったのは、「左サイドでエネルギッシュなプレーを見せ、50分に良いセーブをした」長友佑都と、「セットプレーでの技術力で目覚しいものを見せた」遠藤保仁だった。

 次席の5点は、「21分の素晴らしいシュートと本田への完ぺきなパスで輝いた」松井、「簡単ではない1トップのポジションで多くのプレッシングを行い、否定できない技術的質を持つ」本田、「バリオスに煩わされたとはいえ、堅固な守備を見せた」中澤佑二、「同様にしっかりとその任務をこなし、空中戦で強靭(きょうじん)さを見せた」田中 マルクス闘莉王、「中盤の底で警戒を怠らず、ときどき支離滅裂だったものの身を粉にして戦った」阿部勇樹。

 4点は、「あまり目立たなかった」長谷部誠、「左サイドでぱっとしなかった大久保嘉人」。最低点の3点は駒野だったが、「彼の低い点数は、(PKを)クロスバーに当てることを防ぐために欠けていた数センチに起因する。そのほかではまずまず良い働きを見せたが、攻撃面では本当の意味での貢献をもたらせなかった」との注意書きがついた。

 ちなみにこの試合の原稿と採点を担当したコラー氏は、松井がいた時期のサンテティエンヌ番だった人で、お世辞は一切抜きのかなり辛口の記者。これに『レキップ』紙の結果重視の採点基準を考え合わせると、今回のW杯に一陣の風を吹き込んだ日本代表選手への、フランス名門紙からの敬意が感じられるコメントだったと言えるだろう。

<了>
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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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