若きドイツ代表が見せた2つの顔 イングランド撃破で得た貴重な経験

ミムラユウスケ

ドイツ代表の良い面と悪い面

GKノイアーのゴールキックに走り込んで先制点を決めたクローゼ(中央) 【Getty Images】

 希望と失望の間を行ったり来たりする。体に悪い。それに耐えられるのは若さ故なのか。あるいは、若いからこそ、ジェットコースターのような不安定な戦いをするのかもしれない。

 南アフリカ・ブルームフォンテーンのフリー・ステート・スタジアムに詰め掛けたファンの数では、イングランドの勝ち。スタジアム全体に散らばったイングランドサポーターに対して、メーンスタンドとバックスタンドの一角に陣取るだけのドイツサポーター。ビールを愛する両国サポーターはビール売り場に長い列を作ったが、その場を支配したのはイングランド人の方だ。
「5対1! 5対1!」
 2001年、日韓ワールドカップ(W杯)欧州予選でドイツを5対1で下した試合の再現をイングランド人は願っていたし、信じてもいた。
 しかし、結果は反対。4対1という大差をつけてドイツが準々決勝へ駒を進めることになった。イングランドとの戦いからは、ドイツの良い面と悪い面の両面が垣間見られた。

 ドイツは序盤からペースを握った。先制点を奪ったのも自然な流れだ。今後10年にわたりドイツのゴールマウスを守ると言われるGKマヌエル・ノイアーのゴールキックに、02年のW杯からエースであり続けたミロスラフ・クローゼが反応し、相手DFを振り切ってゴールを決める。ドイツの歴史を作ってきた者と、これから歴史を作ろうとする者。この2人によって先制ゴールはもたらされた。圧巻だったのは32分、2点目のゴールだ。トーマス・ミュラーがパスを出すと同時に、走り始める。メスト・エジル、クローゼ、ミュラーとテンポよくパスをつなぎ、最後はルーカス・ポドルスキがゴールを決めた。強さはあるが、うまさはない。一昔前のドイツ代表からは想像できないような、美しい連係からのゴールだった。以前のコラムでも触れたように、ドイツサッカーが無限の可能性を秘めていることを感じさせてくれた。

 だが、ドイツはその後から試合をコントロールできなくなる。37分にマット・アップソンにゴールを許すと、試合の流れは一気にイングランドへ。若い選手たちは、反撃を仕掛けてくるイングランドの気迫におされてしまったのだ。そこからハーフタイムをはさんで約30分にわたり、ドイツは劣勢の戦いを強いられることになる。ゴールラインを割りながらもノーゴールの判定が下されたフランク・ランパードのシュートや、同じくランパードのクロスバーをたたいたFKなど、いつ同点に追いつかれてもおかしくない展開が続いた。序盤の戦いがうそかと疑いたくなるような戦いぶりだった。

若いドイツ代表が得た経験

ドイツ攻撃陣の中心として存在感を見せつけた21歳のエジル(右) 【ロイター】

 運にも助けられながら、もがき続けていると、再びドイツの時間帯がやってきた。後半22分にカウンターからミュラーが追加点を挙げると、3分後に再びカウンターからミュラーがダメ押しのゴールを決めた。それ以降は、近年のドイツ人が身に着けてきた技術を生かし、悠々とボールを回してタイムアップの笛を聞いた。わずか3分で2ゴールだ。爆発的な攻撃で、サッカーの母国の息の根をとめてみせた。

 この試合を時間帯ごとに3つに分けるなら爆発、停滞、爆発。安定したチームではないが、機能すれば手をつけられない。わずか1試合の間に、チームは2つの顔をのぞかせた。グループリーグの3試合を振り返ってみても、そうだった。

 初戦の豪州に4−0で快勝して、ドイツは世界中から賞賛を浴びた。しかし、第2戦のセルビア戦では良いところなく0−1で敗れてしまった。前半37分にクローゼが2度目の警告を受けて退場させられると、チームは混乱に陥り、戦う気持ちの感じられないプレーに終始した。0−1で終わったのが幸運だと思えるほどひどい試合だった。才能あふれる選手たちによる夢の大会は、あっけなく幕を閉じてしまうのではないか。そんな不安がドイツ人の脳裏によぎっていた。グループリーグ最終戦では慎重な戦いの末にガーナを1−0で下し、どうにかグループ1位の座を手にしたものの、順調な道のりを歩んだわけではなかった。

 今大会に出場したチームのスターティングメンバーの平均年齢を比べてみると、25.21歳のドイツは全体で2番目に若い。対するイングランドの平均年齢は28.32歳。経験豊富な選手がそろっている。さらに、ドイツ代表はすべてブンデスリーガでプレーする選手で構成されているのに対して、イングランド代表はすべてプレミアリーグの選手で構成されている。順当にいけば、経験があり、よりレベルの高いとされるリーグでプレーする選手たちが勝つと思われていた。

 それ故に、ヨアヒム・レーブ監督はイングランドを下した後、興奮を抑え切れなかったのだ。
「経験豊富なイングランドを、若さあふれるドイツが粉砕したんだ。これは偉業だよ!」
 イングランド戦でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたミュラーは、あふれる自信を口にした。
「僕らに不安なんてないよ。優勝するために南アフリカにやって来たんだから」

 若いチームに足りないものは経験だ。経験のあるチームを倒したという経験こそが、若い選手たちを成長させる。この先、爆発力を秘めた若きドイツ代表がファンにもたらすのは、希望か、失望か。伝統の一戦を制した今、希望の芽はさらに膨らんだのかもしれない。

<了>
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著者プロフィール

金子達仁氏のホームページで募集されていた、ドイツW杯の開幕前と大会期間中にヨーロッパをキャンピングカーで周る旅の運転手に応募し、合格。帰国後に金子氏・戸塚啓氏・木崎伸也氏が取り組んだ「敗因と」(光文社刊)の制作の手伝いのかたわら、2006年ライターとして活動をスタートした。そして2009年より再びドイツへ。Twitter ID:yusukeMimura

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