パラグアイの強さの秘密に迫る=日本に立ちはだかる南米の雄
勢いづくパラグアイ代表
いまだ得点のないサンタクルス(写真)だが実績は十分。日本が注意すべき選手の1人である 【ロイター】
「ポンハたち、もうここまでだ! さもないと日本車なんて二度と買ってやらねえぞ!」
ワールドカップ(W杯)のグループリーグを終えた翌日、パラグアイ地元紙のウェブサイトには、決勝トーナメント1回戦で当たる日本戦に向けて息巻くサポーターたちのコメントが書き込まれていた。ちなみに「ポンハ」とはスペイン語の「ハポン(日本)」という言葉をひっくり返したもので、少しからかいが含まれた表現だ。こうしたビッグマウスぶりは何も今日に始まったことではないが、最近のパラグアイ代表の勢いを見ると、サポーターたちの言葉がただのハッタリではないようにも思えてくる。この勢いは、パラグアイ代表の指揮官であるヘラルド・マルティーノ監督が生み出したものだ。
マルティーノ監督は、隣国アルゼンチン出身の指導者である。もともとパラグアイとアルゼンチンのサッカーには深いつながりがあって、パラグアイ人選手がアルゼンチンリーグでプレーしたり、アルゼンチン人監督がパラグアイのクラブチームで指揮を執ったりと、両国間を人材が頻繁に行き来している。2007年2月から代表を率いるマルティーノ監督も、以前はパラグアイ1部リーグのリベルタというチームの監督を務めており、そこで成し遂げた06年リベルタドーレス杯ベスト4進出という快挙が、現在のポストに抜てきされるきっかけとなった。
マルティーノ監督のチーム改革
W杯で初の8強入りを目指すパラグアイ。指揮官のマルティーノ(写真)は歴史に名を刻めるか 【Photo:ロイター/アフロ】
そして、W杯南米予選がスタートしてからは、強豪ブラジルやアルゼンチン相手に勝利を収めるなど、新生パラグアイの強さを見せつけ、10勝3分け5敗という堂々たる成績とともに、予選3位で本大会への出場権を勝ち取ったのである。
約2年間にわたる南米予選で、チームの前線はサルバドル・カバーニャスとネルソン・バルデスという2トップに託されていた。メキシコリーグでゴールを量産するカバーニャスと、18歳からドイツ・ブンデスリーガでプレーする運動量豊富なバルデスの相性は抜群で、パラグアイが予選で決めた全24ゴールのうち、半分近くは彼らによるものだった(カバーニャス6点、バルデス5点)。
だが今年1月、メキシコのバーで、カバーニャスが銃で頭部を撃たれるという衝撃的な事件が起きた。麻薬の密売組織関係者に「アメリカ(カバーニャスの所属クラブ)でのゴールが少ない」と言いがかりをつけられて銃撃されたと言われている。奇跡的に一命を取りとめたものの、銃弾は頭に残ったままの状態で、カバーニャスは予選における一番の立役者だったにもかかわらず、本大会に出場できなくなってしまった。
パラグアイ国民が深い悲しみに暮れる中、パラグアイ代表はカバーニャスの代役となるFWを探さざるを得なくなった。そこで白羽の矢が立ったのが、バルデスと同じドイツ1部のドルトムントで活躍するルーカス・バリオスだった。決定力とキープ力を併せ持つ彼はアルゼンチン出身だが、パラグアイ人の母親を持つことから短期間で帰化手続きを完了させ、5月には代表へ加わることができた。
ちなみに、W杯を目指してパラグアイ国籍を取得したアルゼンチン出身の選手はこれが5人目で、そのうちの3名(バリオス、ホナタン・サンタナ、ネストル・オルティゴサ)が実際に本大会へ招集されている。つまりパラグアイ代表は、指導者や選手といったさまざまな「アルゼンチン要素」を持ったチームなのだ。国民からは「このままでは代表がアルゼンチンBチーム化してしまうのではないか」と心配する声も上がったが、予選や本大会における献身的なプレーによって、強烈なアルゼンチン訛りのスペイン語を話す「パラグアイ人選手たち」の存在は、今や歓迎されていることだろう。
日本代表を警戒
日本戦後、パラグアイサポーターは笑顔を見せるのか、涙を流すのか 【ロイター】
日本でパラグアイ代表があまり知られていないのと同じで、パラグアイの人々も日本代表のことはほとんど知らない。ただ地元紙のアンケートでは半数以上のサポーターが、決勝トーナメントの相手が日本で良かったと答えており、オランダに比べると、日本は勝てる可能性の高い相手だととらえられているようだ。だが、冒頭で紹介したような強気なコメントの一方で、デンマークに快勝した日本代表を警戒する意見も出ている。
サポーターだけでなくマルティーノ監督も「日本代表はスピードのある攻撃展開を得意とするチーム。彼らに勝つためにはポゼッションと、パスの正確さが必要となるだろう」と気を引き締めている様子だ。
今回が4大会連続8度目のW杯出場となるパラグアイ代表は、日本同様、まずはベスト8進出という悲願を達成することが目標となる。だが、「今回のW杯は拮抗(きっこう)した大会で、強豪国の信じられないような敗退が続いている。だったらパラグアイが最後まで進むっていう夢を見るのもありでしょ?」とベテランDFデニス・カニサが話すように、現在の代表は、さらに先を目指せる力を秘めているのかもしれない。
<了>
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