予想と異なる南アフリカ大会=代表チームの存在意義が問われる時代

史上初の開催国の1次リーグ敗退

南アフリカは最終戦でフランスに勝利したものの、開催国初のGL敗退となった 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 かつて、ウルグアイ代表監督の“エル・マエストロ(教授)”ことオスカル・タバレスは、地元紙の取材に対し、「ワールドカップ(W杯)の本番は決勝トーナメントからだ」と語っていた。その言葉通り、ウルグアイは開催国の南アフリカと同居するグループAを2勝1分けの無失点で首位通過。韓国との決勝トーナメント1回戦を2−1で制し、40年ぶりに準々決勝へ駒を進めた。

 南アフリカ、フランス、メキシコと同組のグループAは、絶対的な本命こそなかったものの、だからこそ難しい組とも言えた。というのも、何としてもホスト国を勝ち上がらせたいFIFA(国際サッカー連盟)が、くみしやすい顔ぶれをそろえたと言われるほどだからだ。それは、これまで開催国がグループリーグで敗退したことがないという事実が物語るように、“抽選の妙”は過去の大会でも同じである。

 この組では勝ち抜きの本命と思われたフランスは、ピッチ外のごたごたでチームとしての体をなしておらず、1分け2敗の最下位という無残な結果で南アフリカの地を後にした。だが、前回大会準優勝国のスキャンダルという“幸運”も、ホスト国をグループ突破させるには十分ではなかったようだ。1勝1分け1敗とまずまずの成績を挙げたが、得失点差でメキシコに2位の座を譲り、「史上初となる開催国の1次リーグ敗退」という不名誉な記録を作ってしまった。

 一度は病気の妻を介護するために南アフリカ代表監督を辞任したブラジル人のカルロス・パレイラが、後任のジョエル・サンタナから再び“バファナ・バファナ”(南アフリカの愛称)を引き受けたのは昨年の10月だった。開幕前には「明確なプレースタイルを手にした」と、母国ブラジル流のパスサッカーが浸透したことを語っていたが、やはり7カ月では時間が足りなかったのだろう。

好調な南米勢、苦しんだ欧州、アフリカ勢

マラドーナ率いるアルゼンチンをはじめ、南米勢は全チームが決勝Tへ進出 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 ホームのアドバンテージがあるはずのアフリカ勢も、ほとんどは期待外れに終わった。過去最多の6カ国が本大会に出場したが、決勝トーナメントに勝ち上がったのはガーナただ1カ国。その“ブラックスターズ”(ガーナ代表)はラウンド16で米国との延長戦に勝利し、初の8強入り。辛うじて“開催地”の面目を保っている。だが、ホスト国の南アフリカを筆頭に、コートジボワール、ナイジェリア、アルジェリア、カメルーンはグループリーグで敗退した。
 その理由をひとつに求めるのは難しいが、欧州のビッグクラブで活躍するチームのスター選手にとっては、国を代表して戦うということだけでは、もはやモチベーションにはなり得ないのかもしれない。また、コートジボワールなどは、スベン・ゴラン・エリクソンが就任して間もなかったこと、ブラジル、コートジボワールと同組だったことも影響したと言える。

 対照的に、南米は出場した5カ国すべて(アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、チリ)がグループリーグを突破。しかも、チリ以外はすべて首位通過だった。そのうち、ウルグアイとアルゼンチンは既にベスト8進出を決めており、もう1チームも準々決勝進出が保証されている。というのも、ブラジルとチリは28日に対決するため、どちらか一方は必ず勝ち進むからだ。

 南米5チームが勝ち進んだのは、もちろん偶然ではないだろう。ひとつには、選手たちが世界中の主要リーグでプレーしており、異なる戦術やシステムに対応する能力を身に着けていることが挙げられる。また、南アフリカの開催地は、海抜ゼロの低地から標高1700メートルを超える高地までさまざまだ。W杯南米予選などで、エクアドルやボリビアといった高地での試合に慣れていることもプラスの要素だったかもしれない。

イタリア代表に欧州王者インテルの選手はゼロ

前回王者のイタリアは1勝もできずに大会を去った 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 また、かつてない不振に陥っているのは欧州勢である。今までも自大陸以外の大会で結果を残せなかったのは事実だが、今回は決勝トーナメントに進んだのがドイツ、イングランド、スペイン、ポルトガル、オランダ、スロバキアの6カ国のみ。しかも、前回大会優勝のイタリア、準優勝のフランスがそろって敗退するという前代未聞の事態となった。勝ち進んだ国にしても、オランダを除けば苦戦の末の突破だった。

 イタリア代表のMFジェンナーロ・ガットゥーゾは、格下のスロバキアに敗れて敗退が決まった後、「イタリアは地に堕ちた。われわれは変わらなければならない」と語った。また、今大会後に“アズーリ”(イタリア代表)の監督を退くことをすでに公言していたマルチェッロ・リッピは、「すべてわたしに責任がある。チームに十分な準備をさせることができなかった」とその責任を認めた。

 2009−10シーズンに欧州チャンピオンとなったのはセリエAのインテルだが、今大会のイタリア代表には1人もインテルの選手が入っていない。自国の選手が数えるほどしかおらず、スタメンにイタリア人が1人もいないことは決して珍しくないからだ。外国人選手の流入が著しいイングランドでも、若手が育っていないと言われる。これは、果たしてノーマルな状態だろうか。FIFA会長のジョセフ・ブラッターが提唱し、UEFA(欧州サッカー連盟)のミッシェル・プラティニも支持している「6+5ルール」(外国籍の選手の先発を最大5人までに制限する)を本格的に考える時期に来ていると言えるだろう。

 ビッグクラブが巨大なパワーを持っている昨今、代表チームの存在意義が問われる時代となった。選手たちに参加するモチベーションがなければ、いくらタレントがそろっていようと、有能な監督がいようとも、チームとして結果を出すことは難しい。フランス、カメルーンなどは、アイデンティティーが欠けていたと言わざるを得ない。

<了>
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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