フランスの失われた名誉

 ついにフランス代表は南アフリカ戦を終えてパリに帰国することになった。ヨーロッパのトップクラブでプレーする選手たちを集めて、どうやったらあれだけひどい試合ができるのか、ぶざまな態度をさらすことになったのか、いよいよ検証すべき時である。

 責任は誰にあるのか。テレビ局カナル・プリュスが行ったアンケート調査では、選手と監督と協会できれいに3等分されている。この結果が示すように、三者にはそれぞれ責任があり、どれも相当な重さである。2年前のユーロ(欧州選手権)2008で、フランスはすでに敗者だった。1勝もできないまま、わずか1ゴールだけでグループリーグ敗退となり、予約した一番早い飛行機で帰国している。フローラン・マルーダが言った通り、アイデンティティーを喪失した状態に陥った。ところが、普通ならどんな国でも監督を解任している状況で、フランス協会ははっきりした理由もないまま(いまだにはっきり知らされていない)レイモン・ドメネク監督の継続を決定した。各方面から批判が出ているにもかかわらず。

 唯一、ドメネク監督が非難されなかったのはニコラ・アネルカの1トップでの起用である。アネルカはかつてリバプールでエミール・ヘスキーのパートナーとしてセカンドトップに起用されて以来、そのキャリアでセンターFWとして使われていなかった。アネルカがサイドで起用されていたのは長年の間違った選択だったが、そうなっていたのはティエリ・アンリがいたからだ。ジネディーヌ・ジダンの引退後、フランスのボスになったのはアンリである。するとアンリは、これまで誰もやったことのない行動を始めた。自身の立場を固めるプロモーション活動だ。

 通算得点でアンリを脅かす唯一の存在だったダビド・トレゼゲは、ゆっくりと代表から切り離されるようになっていく。トレゼゲの後、直接的にアンリと競合するカリム・ベンゼマは不調に陥り、彼もメンバーには選ばれなかった。実質的に、アンリは唯一のフロントプレーヤーだった(ジブリル・シセはベンチにいても問題を起こすタイプではなく、彼は除外されなかった)。しかし、バルセロナでの不振からドメネク監督はアンリを先発から外す決断をする。

 ドメネク監督はフランス代表の最長監督になっていた。A代表でもU−21代表でも、1つのトロフィーも獲得していない監督が、監督在位の最長記録を更新したわけだ。ドメネク監督について最も印象的だったのは、ユーロ08敗退時にテレビカメラの前で付き合っていた女性にプロポーズしたことぐらいだろう。南アフリカでもドメネク監督のさい配はさえず、対戦相手のカルロス・アルベルト・パレイラ監督(南アフリカ)との試合後の握手も拒否したまま最後の試合を終えた。しかし、ドメネク監督はそれでも幸運だったのだ。人々の怒りは彼だけに集中せず、選手たちにも及んだからである。
 南アフリカでは最初から最後まで不名誉だったチームに対して、南アフリカ戦のキックオフ前にはすでに大型スクリーンを取り外してしまった地方都市もあった。パリの空港では南アフリカの先制点に歓声が上がる始末、インターネットのフォーラムは選手のプレーぶりに怒りがぶちまけられていた。

 フランク・リベリー、ウィリアム・ギャラス、パトリス・エブラ、エリック・アビダルはドメネク監督と激しい口論があったと認めている(口論の中身はアネルカのことだけではなかった)。リベリーに関するうわさはショッキングなものだ。バイエルンの左サイドで抜群の働きをしていたリベリーは、素晴らしいサイドプレーヤーである。しかし、メキシコ戦では中央でのプレーメーカーとしての役割を与えられた。ジダンの信任にもかかわらず、リベリーはいいプレーができなかった。

 リベリーのポジションチェンジは、アンリとは別に、リベリー、ギャラス、エブラ、アビダルがチームを仕切っていたことをうかがわせる。ヨアン・グルクフがポジションを失ったのは、おそらくそのせいなのだ。そこにはフットボールとは別の問題が内在している。簡単に言えば、フランス代表の中核を占めるのが今やゲットー(貧困層の密集居住地域)で育った選手たちだという事実に関係する。ラジオ局が行った哲学者アラン・フィンカークラウトへのインタビューで、彼はフランス代表選手をゲットーで騒ぎを起こす若者に例えて話している。
「フランス代表が実はチームになっていなかったことは、もはや誰の目にも明らかだ。彼らは、マフィアのモラルだけを信じるフーリガンの集団と変わらない」

 なぜ、そんなことになってしまったのか。1998年の栄光、ワールドカップを獲得した黒と白と青(黒人、白人、アラブ人)の“レ・ブルー”(フランス代表の愛称)は、どうして百万マイルも離れた場所に行ってしまったのか。現在のフランス代表選手の大半がゲットーの出身だからと言われている。グルクフのようなハンサムで古い学校で学んだようなプレーメーカーが現れ、違う調子のフランス語を話し、違う習慣と振る舞いをした時、大半の選手には宇宙人のように思えただろう。そして、彼がより多くの商業広告との契約を得ると、チームを仕切っているギャングたちが、それは多すぎるだろうと……。

 新監督のローラン・ブランにとって課題は山積みだ。まず、彼は監督の権威を回復させなければならない。監督に盾突くようなやからは即刻チームから追放するなど、厳しさを見せなければならない。最初の仕事は、全選手に国歌を歌わせることになりそうだ。フランスは、大半の選手が国歌を尊重していない唯一の国だからだ。ラグビーの代表チームとは全く対照的とすら言える。しかし、南アフリカに敗れたことは、ブランの仕事をやりやすくするはずだ。もはや十分に信頼される選手はおらず、誰も監督に盾突く者はいないからだ。

<了>
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著者プロフィール

1965年10月20日生まれ。1992年よりスポーツジャーナリズムの世界に入り、主に記者としてフランスの雑誌やインターネットサイトに寄稿している。フランスのサイト『www.sporever.fr』と『www.football365.fr』の編集長も務める。98年フランスワールドカップ中には、イスラエルのラジオ番組『ラジオ99』に携わった。イタリア・セリエA専門誌『Il Guerin Sportivo』をはじめ、海外の雑誌にも数多く寄稿。97年より『ストライカー』、『サッカーダイジェスト』、『サッカー批評』、『Number』といった日本の雑誌にも執筆している。ボクシングへの造詣も深い。携帯版スポーツナビでも連載中

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