イングランド、グループ最終戦でほどけた疑問=東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

グループ通過は薄氷を踏むような経緯をたどったが……

イングランドはスロヴェニア戦に勝利し、グループリーグ通過を決めた 【ロイター】

 1勝2分け、得点2、失点1――戦績とその数字から見る限り、イングランドのグループリーグ通過は薄氷を踏むような経緯をたどったが、そこに示唆されている事実には実に意義深いものがある。
 何よりも、各国代表間の実力差、あるいは実戦的能力の差が、一般的認識よりもはるかに縮まっていることだ。そのことには、ドイツがセルビアに、スペインがスイスに力負けし、イタリアがニュージーランドに大苦戦した結果(「結果」はすべてだ。一部主力の不調や不在などは言い訳にならない)からしても、さして異論はないだろう。

 また、アルゼンチンとブラジルがそれぞれ、初戦を苦戦の末に勝ち取り、第2戦の快勝に結びつけたことにも、サインが読み取れないか。つまり、最初の試合で何らかの“厳しい”教訓を肌で思い知ったチームに底力の利が働き、運も味方するという図式……。
 イングランドの場合は、グループ最大の難敵と見られていた米国との初戦開始わずか4分に先制ゴールが巡ってきたことが、むしろその後の精神的ネックになったような気がしなくもない。おそらくカペッロ監督以下プレーヤーたちも、スタンドやテレビの前で見守っていたファンの多くも、意地悪なメディアでさえ、「幸先良し」「この調子で3−0、4−1くらいで勝って後は悠々……」などと楽観気分に傾いていたのではないか。

 ところが、そうは問屋が卸さなかった。機敏で小回りが利き、何よりも底抜けにしぶとい米国の抵抗に遭い、徐々に気おされたように、あたふたしてボールタッチが甘くなるシーンが増えたあげく、“象徴的”なGKロバート・グリーンのチョンボを呼び込んでしまう。
 そうなのだ。グリーンは相手のシュートを後逸するという確かにぶざまな独り芝居を演じてしまったが、それだけを切り取っては米国戦のドローは語れない。その“敵役”となったプレミアリーガーのクリント・デンプシーは試合後に述べている。
「イングランドは明らかに重圧の中でプレーしていたように感じた。先制ゴールが早すぎたことが、かえってその重圧をじわじわと増幅させ、ロバート(グリーン)に僕の当たり損ねシュートの処理を誤らせたのかもしれない」

米国戦でにじみ出た「疑問」

初戦の米国戦はGKグリーンのミスもあり、引き分けに終わった 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

 心理的には負けに等しい引き分けだったと言っていいだろう。というのも、第2戦のアルジェリア戦後の記者会見で、ジョン・テリーがあわや監督批判につながる発言を漏らしたほどに、特に起用に関する「疑問」が早くもここで次から次へとにじみ出てきたからだ。

●開幕直前の練習中に故障リタイアしたリオ・ファーディナンドの代役、レドリー・キングが米国戦の前半に故障交代(結局、事実上の戦線離脱)、代わって登場したジェイミー・カラガーは快速ジョジー・アルティドールとロビー・フィンドリーに振り回されることも多々。そもそも、予選期間中にファーディナンドの穴を埋めてきたのはマシュー・アップソンだったはずなのに。キングとカラガーは本番直前に割り込んできた“新参者”なのに。

●仲間内でグリーンを責める声はもちろん一切なかった。しかし、ではどうして、カペッロは今大会の背番号1番をデイヴィッド・ジェイムズに与えておきながら、起用したのはグリーンだったのか。

●南アフリカ入りしてからウィルス病で練習をほぼ通しで休んでいたジェイムズ・ミルナーを先発起用したのは正しかったのか。案の定、ミルナーは俊足左サイドバックのスティーヴ・チェルンドロに走り負けするばかりで、前半途中にお役ご免になってしまった。

●日本戦逆転勝利の目覚しい火付け役となり、キャンプ地ルステンブルクの地元チームを迎えた最終調整ゲームではただ1人90分間プレーしたジョー・コールに、いっかな出番が与えられないのはなぜなのか。

●そしてたぶん、万全とは言えないはずのギャレス・バリーの体調についても。

 そんな、もやもやした心理を抱えてのアルジェリア戦が、紛れもなく“カペッロ・イングランド”史上最低の出来だったことについては、やはり“因果”を考えずにはいられない。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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