ブブゼラ不評
初めてブブゼラの音を耳にしたファンは、テレビの音声部分をチェックしたに違いない。あるいはハチでも部屋に侵入してきたかと思っただろうか。試合とは無関係にずっと鳴っているあの音が、南アフリカから届けられたものだと気づくまで、どの程度の時間を要しただろう。ピッチには喜び、怒り、恐れ、退屈、狂気……いろいろな感情が渦巻いている。ところが、何が起きていようとも、あの「ブーー」という低音がやむことなく響いているのが、南アフリカのフットボールだ。テレビ桟敷のファンは音を消すか、頭痛薬を飲むぐらいしか対抗手段がない。
サポーターたちも、至る所で不満を訴えている。のべつ鳴り響いている雑音にうんざりしているだけでなく、ブブゼラが各国特有の応援や大会の彩りをかき消してしまっていると指摘している。チャント(応援歌)も叫び声も歌も聞こえない。その応援の大音量と多彩さで知られるイングランドのサポーターでさえも、ブブゼラの前では完敗だった。ブブゼラの音は、すべてのほかの音を打ち消してしまうほど強力なのだ。
さらに、ブブゼラの音はピッチ上のコミュニケーションにも影響を与えている。14日のデンマーク戦でオランダのロビン・ファン・ペルシはブブゼラのせいでホイッスルが聞こえず、オフサイドを宣告された後もプレーを続けていた。これは明確にイエローカードの対象になるのだが、主審もファン・ペルシが聞こえていないと判断してカードを出さなかった。もし出ていれば2枚目だった。
ブブゼラはどこから来たのだろう。70年代のメキシコではやっていたブリキ製のラッパがあった。南アフリカに伝わったのは90年代で、南アフリカリーグのカイザーチーフスが黄色のブブゼラを使い、オーランド・パイレーツが白黒と、チームカラーのブブゼラを使用したのが始まりと言われている。商売の目的かどうか分からないが、ブブゼラの起源が南アフリカ産のシマカモシカの角笛だと吹聴している人々もいる。しかし、実際には製造しているマシンセダ・スポーツ社は、すべてのブブゼラを中国で作っている。伝統の楽器ならば、それなりの愛好者向けのものも作るはずだが、彼らに角笛を作るつもりはないようだ。
スペイン代表のシャビ・アロンソはブブゼラの使用禁止を訴えている。昨年のコンフェデレーションズカップでプレーした彼は、ブブゼラによって選手間のコミュニケーションがとれないばかりか、集中力も低下し、スタジアムの雰囲気も台無しにすると主張している。フランス代表のゲームキャプテンであるパトリス・エブラの批判は、チームの不振を何かのせいにしている印象もあるが、試合会場を離れた場所でもブブゼラの音がうるさくて寝られないという苦情は切実である。
放送局からも苦情が相次ぎ、FIFA(国際サッカー連盟)もようやくこの問題に取り組む気配を見せている。放送局は選手やファンと違って、FIFAに直接的に大金をもたらしているから、FIFAも重い腰を上げたのだろう。だが、ブラッター会長はまだブブゼラの味方で、彼は「アフリカは独自の音楽とリズムを持っている。それを規制するつもりはない」とツイッターでコメントしている。テレビの方でも対策を進めている。フランスのTF1は開幕戦で使用した通常のマイクロフォンを変えて、サウンド・フィルターのついたものを使用している。ほかの局も、観客席の音を最小限にしか拾わないマイクに変更した。
個人的に、わたしは南アフリカからの放送には満足している。先週末の“ゲーム”は、ファンもフレンドリーで、チャントも聞こえたし、いろいろな叫び声も聞こえた。スタジアムの雰囲気は素晴らしかった。テレビの前に座っているわたしは、南アフリカからの映像を楽しんだ。ラグビーの試合を。不思議なことだが、ラグビーでブブゼラは使われていないのだ。
<了>
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