“成功へ導く選手”本田のゴールは必然=中田徹の「南アフリカ通信」

中田徹

運良く結果を残す人、運悪くミスを犯す人

決勝点の場面、本田のトラップは「運良く」シュートを打ちやすい位置に収まった。だが、これは立派な必然だ 【Photo:ロイター/アフロ】

 今大会のダークホースと見られるオランダが2−0でデンマークを下し、好スタートを切った。試合が終わると、オランダの航空券販売会社から「Denemarken, Bedankt...」という件名のダイレクトメールが届いていた。普段なら即ゴミ箱行きのメールだが、一応読んでみると、「デンマークのプレゼントをもらった後、カイトが素晴らしいゴールを決めた。これは喜ぶっきゃない」ということで、アムステルダム−コペンハーゲン間の往復チケットが20ユーロ(約2200円)引きの132ユーロ(約1万5000円)、アムステルダム−ヨハネスブルク間の往復チケットがやはり20ユーロ引きの875ユーロ(約9万8000円)で販売されている。
 きっと2−0だから20ユーロ引きなのだろう。2−1だったら21ユーロ(約2400円)引きになっていたかもしれない。

“デンマークからのプレゼント”とは、後半開始早々のシモン・ポウルセンのクリアミスから生まれたオウンゴールだった。ファン・ペルシのクロスに対し、S・ポウルセンはヘディングでクリアしようとしたが、ボールは意図した方向と逆へ飛んでしまい、近くにいたアッゲルの背中に当たって失点してしまったのだ。オルセン監督は「『わたしも現役時代、一度オウンゴールをしたことがある。早く忘れろ』とS・ポウルセンにアドバイスした」という。しかし、AZでプレーするS・ポウルセンは、トゥエンテとの大事な試合で不必要なハンドを犯したこともある。幸い、これはレフェリーが見逃しPKとならなかったが、かわいそうなことにこのレフェリーは出場停止処分を食らった。
 大事な試合で運よく結果を残す人、運悪くミスを犯す人。これが一流の選手になれるか、なれないかの分岐点である。「運」という言葉には偶然性が含まれるが、サッカーの世界では必然性を備えている。こうした矛盾が許されるから、サッカーの世界は劇的に面白く、厳しいのだ。

デンマーク戦のベストプレーヤーはファン・ボメル

 それにしてもオランダの選手は硬かった。前半のチャンスの数ならデンマークの方が上だった。しかし後半開始38秒、オウンゴールで先制すると、オランダは意図して手堅いサッカーを展開し、チャンスは作れなかったが、ピンチもなかった。
 最近のオランダは後半途中から投入される選手が、試合を活性化させることが多い。デンマーク戦でもそうだった。67分、ファン・デル・ファールトに代わって左サイドに入ったエリアがボールを持つたびに、観客は歓声を上げた。85分、カイトのダメ押しゴールは、エリアのシュートが右ポストに当たったことから生まれている。もう1つ、忘れてならないのは、このゴールの起点がファン・ボメルであったことだ。

「ファン・ボメルは素晴らしいプレーをした」
 試合後、ファン・マルワイク監督はこう語った。前半の苦しい時間帯から、ファン・ボメルは相手の攻撃の芽を摘む働き、チームを落ち着かせる働き、前線にボールを供給する働き、チームメートを鼓舞する働きという彼のルーティンワークを果たしながら、何とか攻撃の歯車を回らせようとスナイデルと頻繁にポジションチェンジしながら、スペースへ上がっていた。
 後半に入って先制すると、今度はテンポを落とし、エリアが入った後はデンマークに止めを刺すため2点目を奪いに行くよう、タクトを振るった。前半のベストプレーヤーがGKステケレンブルフ、後半のベストプレーヤーがエリアなら、試合全体のベストプレーヤーはファン・ボメルだったと思う。

 この日はステケレンブルフのロングキックが素晴らしかった。先日、アルゼンチンのGKロメロもエリスパークで超ロングキックを見せていたが、やはり海抜1700メートルにあるヨハネスブルクはGKのキックがよく伸びるのだろう。これをまた、カイトがうまく処理するのだ。
 さすがにカイトのすごさは多くの日本人も認めるだろうが、かつてフェイエノールトに入団したころは、「中田さんはユトレヒトサポーターだから、『カイトはいい』と言うが、あんな下手な選手じゃシンジ(小野伸二)がかわいそう。トラップも大きいし」と指摘されたこともある。

 この見方は仕方なかっただろう。僕も初めてユトレヒトでデビューしたカイトを見たとき、「下手だな」と思ったものだ。確かにカイトには、ボールを柔らかく止める日本人好みのテクニックがない。だが、試合を何度も見ていくと、下手そうに見えるトラップでも決してボールを相手に奪われないのだ。カイトはこれまでの経験で、絶対にボールを奪われない感覚を若くして極めていたのだ。これをオランダでは“ファンクショナル・テクニック”、つまり機能的な技術と言う。
 こういう才能を発見するのはとても大事なことだ。カイトはオランダの名門アマチュアチームのカットワイクからユトレヒトへ行き、そこでクラブをUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)出場へ導き、KNVB(オランダサッカー協会)カップの優勝にも貢献した。移籍先のフェイエノールトは不振だったものの、献身的な働きと感動的なゴールの連続で、クラブの象徴となった。今はリバプール、オランダ代表の中心選手だ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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