ひとつになれた日本代表=宇都宮徹壱の日々是世界杯2010(6月14日@ブルームフォンテーン)

宇都宮徹壱

裏の試合はオランダがデンマークに勝利

試合前から気勢を上げるカメルーンのサポーター。大事な初戦を前に自信満々の表情 【宇都宮徹壱】

 大会4日目。ついに日本代表の初戦の日がやってきた。天候は快晴。キックオフ3時間前の13時に、会場であるフリーステート・スタジアムに到着する。ここは昨年のコンフェデレーションズカップを含めて2度訪れているが、やはりカメルーン戦当日を迎えた今は、何とも感慨深いものを覚える。

 このスタジアムは、もともとはラグビー専用で、1995年に開催されたラグビーのワールドカップ(W杯)の会場として“ジャパン”はここで3試合を戦っている。結果は3戦全敗。特に“オールブラックス”ことニュージーランドには17対145という記録的大敗を喫したことは、ラグビーファンの間ではつとに有名である。この嫌なイメージを払しょくするようなゲームを、この日の日本代表には期待したいところ。周囲では早くもカメルーンのサポーター集団が、ブブゼラを吹き鳴らしながら気勢を上げていた。

 ひとしきりスタジアム周辺での撮影を終えてメディアセンターに到着すると、ちょうど日本が所属するグループEの裏の試合、オランダ対デンマークが始まっていた。両者とも前半は慎重な試合運び。次第にオランダがポゼッションを7割近くまで上げてくるが、デンマークも鋭いカウンターから活路を見いだすようになる。ボール保有率が、必ずしも力の優劣ではないことを示す好例のような展開。だが、両者スコアレスのまま迎えた後半開始早々、ファン・ペルシのクロスがシモン・ポウルセンのオウンゴールを誘い、オランダが先制点を挙げる。さらに後半40分にも、ディルク・カイトが鮮やかに追加点を決めて、オランダが格の違いを見せつけて2−0で勝利した。

 オランダのスピードとテクニック、そして巧みな試合運びは、やはりこのグループでは別格であった。まして日本との彼我の差は明らかであり、それを考えると何とも絶望的な気分にさせられる。とはいえ今の日本が、まず集中すべきは目の前の相手である。ありがたいことに、この日は遠く日本から少なからずの日本サポーターが駆け付けてくれた。それぞれの人が、さまざまな不安を胸にしながら多額の旅費を捻出(ねんしゅつ)し、さらには職場や家族への説得にかつてない労力を割いて、ようやくここまでたどり着いたのであろう。それだけに日本代表には、これまで以上に精いっぱいの戦いを見せてほしいところだ。

岡田監督が決断した俊輔外しとゼロトップ

試合開始直前のフリーステート・スタジアム。15年前のラグビーW杯の会場でもある 【宇都宮徹壱】

 そんなわけで日本代表である。
 スイスのザースフェーでのキャンプと2試合の親善試合を取材してから、すでに10日が過ぎた。あいにく私自身は、南アフリカのベースキャンプであるジョージには足を運ぶことはなかったが、現地から伝わってくる情報は決して芳しくないものばかりであった。とりわけ注目されたのが、10日に現地で行われたジンバブエ代表との練習試合である。当初、モザンビーク代表との対戦がアナウンスされていたのが、一転ジンバブエに変わり、30分3本の変則マッチの結果0−0に終わったこの試合は、4日にスイスで行われたコートジボワール戦の修正と自信回復のために急きょ組まれたものであった。その目的がどこまで達成されたのかは、現地で見ていないために断定はできない。だが少なくとも、初戦に向けたチームのアウトラインは明確になったと言えるだろう。

 ベースはイングランド戦の11人で、守備陣についてはほとんど変更はないはずだ。右サイドバックで起用された今野泰幸は、コートジボワール戦で負傷したものの、幸い順調に回復に向かっているという。ただし、初戦では駒野友一が入ることが有力視されている。問題は、なかなか得点できない攻撃陣。ここに来て岡田武史監督は、就任以来ずっと「攻撃の中心」と位置づけてきた中村俊輔、そして最前線で起用し続けてきた岡崎慎司を、とうとうスタメンから外す決断を下したようである(イングランド戦での中村俊外しは、あくまでも「コンディションが戻っていないこと」が理由だった)。

 中村俊については、コンディション不良に加えて「堅守速攻」の戦術にそぐわないこと、そして岡崎についてはワールドクラスの相手に機能しなかったことが原因と見られる。代わって浮上してきたのが、コンディションの良い松井大輔であり、そして最もゴールの可能性が感じられる本田圭佑であった。特に本田に関しては、指揮官は1トップでの起用を考えているようだ。もっとも本田という選手は、ペナルティーエリア付近で効果的な仕事をする選手ではあるが、ポストプレーが得意なわけでも、裏に抜けるスピードに長けているわけでもない。むしろこの布陣は「ゼロトップ」と見るべきであろう。

 かくして、注目の一戦のスタメンは以下の通りとなった。
 GK川島永嗣、DFは右から駒野、中澤佑二、田中マルクス闘莉王、長友佑都。アンカーに阿部勇樹。中盤は松井、長谷部誠、遠藤保仁、大久保嘉人。そして1トップに本田。やはりジンバブエ戦の1本目と同じメンバーである。それにしても「救世主」として祭り上げられた上に、ゴールの期待まで担うこととなった本田にかかる重圧はいかばかりのものであろうか。つい忘れられがちなことではあるが、彼自身にとっても、実は今回が初めてのW杯なのである。

1/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント