ガーナの勝利、アフリカの勝利=中田徹の「南アフリカ通信」
ホームゲームにする力
ガーナはギャンのPKでセルビアを1−0で下した 【Getty Images】
観客席では至る所でガーナ人が踊り、南アフリカ人がブブゼラを上下に左右に揺らしていた。通路ではサポーターたちが人間電車を作って行進した。そしてピッチの上ではガーナがパワー、スピード、テクニック、さらに若さで、セルビアを圧倒した。
セルビアは自滅した。これまで欧州各地で十分な経験を積んできたセルビアだが、ガーナに押された試合展開の中、カウンターからチャンスを作ることもなければ、“0−0の試合”をマネージすることもできなかった。74分にはルコビッチが退場し、“アウエー”で10人になってしまった。83分にはクズマノビッチが痛恨のハンドでガーナにPKを与えてしまい、ギャンに決勝点を決められた。
タイムアップの笛と同時に、アナンがボールを高く高く蹴り上げ、控えの選手はペットボトルの水でシャンパンファイトをする。「ブォォー」とブブゼラが鳴り響く中、パントシルが国旗を持って気持ち良さそうなウイニングランを見せた。
前日、ヨハネスブルクで行われたアルゼンチン対ナイジェリアも、南アフリカ人がナイジェリアを応援する光景が見られた。しかしアルゼンチンサポーターがかなり来ていたため、応援はアルゼンチンが優勢だった。しかし、プレトリアのロフタス・ファースフェルト・スタジアムは、今大会あらかじめ予想されていた「アフリカ大陸の国を南アフリカ人が応援し、ホームゲームにしてしまう」という景色が作られたのである。
マン・オブ・ザ・マッチに選ばれたギャンは「アフリカ中の人たちが僕らを応援してくれた」と、南アフリカにとどまらずアフリカの各地からの応援に感謝していた。
試合後の喧騒は?
スタジアムに駆けつけたガーナの応援団 【Getty Images】
だが、それは杞憂(きゆう)だった。試合が終わったのが夕方6時近く。スタジアムを出たのが7時ごろ。このたった1時間でスタジアムの内外はシーンと静まり返り、ほとんど人気がなかった。
この試合、僕はレンタカーを借りていた。スタジアムのパーキングチケットはないので、“パーク・アンド・ライド”というシステムを利用した。これはスタジアムの郊外に大きな駐車場を設けて、車をそこへ集中して駐車させ、ミニバスによるピストン輸送で観客をスタジアムへ運ぶ方式だ。
僕が車を停めたのはロフタス・ファースフェルト・スタジアムの東側にある大学の施設内だった。“パーク・アンド・ライド”は有料という情報もあったが、実際には無料だった。これは現場によって違うかもしれない。この大学の施設があまりに大きいので、ミニバスが外へ出るにもだいぶ時間がかかる。結局、スタジアム近くの降車場所まで10分近くかかった。さらにここからスタジアムまでやはり10分近くかけて歩く。
しかし、スタジアム、ミニバスの乗降車場、駐車場の位置関係がたっぷり距離をとっているから、試合後のスタジアムは喧騒(けんそう)もなく、一気に人がはけたのだろう。試合が終わってわずか1時間という短い間に、ほとんどの車は駐車場から消えていた。まったく渋滞がない中、ヨハネスブルクの空港までわずか40分で着いてしまった。
これはすごいことである。これまで日本はもちろんのこと、世界各地で多くの試合を見てきたが、いつも悩まされるのは試合後の渋滞である。幸い、取材者として試合を見ているから、監督の記者会見で時間をつぶすことができるが、それでも大概、車の渋滞に頭を痛める。
せっかくガーナが勝ったんだから、町の郊外にある“パーク・アンド・ライド”の駐車場へ向かうのではなく、中心街で繰り広げられたであろう大騒ぎを見てみたかったが、それはぜいたくというものだろう。
いろいろ現場では不満もあるが、“パーク・アンド・ライド”をスムーズに運営してくれたロフタス・ファースフェルトの方々には感謝したい。
<了>
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