決戦前夜のブルームフォンテーンにて=宇都宮徹壱の日々是世界杯2010(6月13日@ブルームフォンテーン)
ヨハネスブルクから陸路でブルームフォンテーンへ
カメルーン戦の会場となる、ブルームフォンテーンのフリーステート・スタジアム 【宇都宮徹壱】
朝7時過ぎに宿泊地を出発。途中、空港で別の会場に向かう同業者を降ろしてから、一路ブルームフォンテーンに向かう。やがて高速道路に入ると、めっきり車の数は少なくなり、周囲は荒涼とした地平線と南南西にまっすぐに延びるハイウエーしか見えなくなる。とはいえ、日ごろからゴチャゴチャした街並みと高層ビルに遮られた小さな空ばかりを見ている身からすると、この「何もない真っすぐな風景」はむしろ新鮮な印象さえ感じられる。加えて、道路は滑らかだし、サインもきちんと表示されているし、日本と同じ左側通行なので、初めて南アフリカをドライブする日本人にも、さほど違和感がないのはありがたい。この日、ハンドルを握っていた女性同業者も「あまりアフリカを走行しているような気がしなかった」と笑顔で語っていた。
「やるべきことはやった」という言葉の重み
遠めから双眼鏡で見る限り、当初は選手たちの表情にほとんど笑顔が見られなかったのが気になった。当然、翌日の試合への重圧によるものであろう。その後、ボールを使った練習になると、ようやく選手たちの間から声が出るようになり、表情が次第に緩んでいくのが感じられた。一部報道によれば、何人かの選手が高地トレーニングがうまくいかずに「コンディション不調」と伝えられていたが、残念ながら誰がそれに該当するのかは確認できなかった。むしろ、先のコートジボワール戦で負傷した今野泰幸が、軽快なフットワークで練習に参加していたのは救いである。
「われわれはやるべきことはやったので、ピッチの上で選手たちが持てる力すべてを出し切るようにさせてやりたい。そうすれば、必ず結果はついてくると思っています」
前日会見で岡田武史監督は、このように言い切った。この人の言葉を聞くのは、10日前のスイス合宿取材以来である。その後、コートジボワール戦にも敗れ、南アのジョージにキャンプ地を移してからはジンバブエと緊急テストマッチを行い、その間に選手の顔ぶれとフォーメーションを大きく変えるなど、指揮官の迷いをにおわせる報道ばかりが目に付いた。ゆえに「やるべきことはやった」という言葉に、果たしてどれだけ明確なビジョンと裏付けがあるのかは非常に気になるところだ。いずれにせよ、岡田監督の2年半にわたるチーム作りの結果が、14日のカメルーン戦で明らかになることだけは間違いない。そして初戦での結果は、言うまでもなくグループリーグ突破の可能性を大きく左右する。
日本はセルビア? オーストラリア? それとも韓国?
フリーステート・スタジアムでは、決戦を前に両国の国旗が静かに風にたなびいていた 【宇都宮徹壱】
果たして日本は、セルビアのように接戦の末に敗れるのか、それともオーストラリアのようにあっさり敗れるのか、はたまた韓国のように一気に相手を圧倒するのか――。こればかりは対戦相手の状況も混沌(こんとん)としているので、本当にフタを開けてみるまでは分からない(少なくともカメルーンのチーム状態が、ベストから程遠いことだけは間違いなさそうだ)。ここで確実に言えることは、事ここに至って小手先の選手起用やシステム変更では「もはやどうにもならない」という、厳然たる事実である。
カメルーン戦は間違いなく、この2年半にわたる岡田政権の集大成であり、その是非が問われる一戦となる。ゆえに私たちは、しかとその行方を直視すべきであろう。
<この項、了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ