デルボスケが欧州王者に加えたエッセンス=“無敵艦隊”を率いる指揮官の決意

スペイン代表を率いるデルボスケ監督。攻撃サッカーというスタイルに自信をのぞかせる 【Photo:アフロ】

 前任者が築き上げたベースを崩すことなく、マイナーチェンジを施しチームをさらなる高みへ押し上げる。スペイン代表監督に就任して2年、デルボスケはそれだけに注力した。このアプローチはここまでのところ、大成功と言えるだろう。自己顕示欲の強い監督であれば、自らの色を出そうとするあまり、変化を求めて失敗しかねない。だが、かつてレアル・マドリーで一時代を築いた老練なデルボスケは、そんな浅はかなまねはしない。
 チームの骨格を形成するベースはいじらない。しかし、各国がスペインへの警戒を強め、さらに世代交代が進む中、デルボスケはほんの少しエッセンスを加えることで、チームの進化を促した。それによってスペインは自慢のパスワークに加え、縦への突破、つまりウイング(翼)を手に入れた。あとは状況によって臨機応変に武器を使いこなせばいい。
 指揮官は自信を持って言う。「スタイルを変えることなく、可能な限り上を目指す」。世界制覇へ向けた“無敵艦隊”の出航はもう間もなくだ。

素晴らしいチームとともにW杯に臨める

――あなたは監督として、ユーロ(欧州選手権)2008を制したルイス・アラゴネス前監督のスタイルとベースを維持し続けている点で称賛されています

 わたしはこのチームをとても気に入っている。具体的なプレースタイルを持ち、選手たちは毎試合何のためにプレーするのかを理解している。また、わたしにとって幸運なことに、すでにグループができあがっているため、改善を必要とする部分がほとんどないんだ。監督にはそれぞれ好みがある。選手たちも良い、悪いというわけではなく、常に異なる時期を過ごしている。それは受け入れるべきことではあるが、わたしはこれまで順調に歩んできたチームを変えることは、賢いやり方ではないと思ったわけだ。

――アラゴネス時代後にもたらした変化としては、サイドアタッカーの起用が挙げられます。以前スペインは4−1−4−1と4−4−2を採用していましたが、あなたが監督に就任してから、ヘスス・ナバスやディエゴ・カペルが台頭しました

 そうだ。これはただの変化ではなく、小さな世代交代を利用したものだと理解しなければならない。また、ユーロでの優勝がスペインをエリートの高みに押し上げ、恐れを抱いた対戦相手の多くが攻撃に出ず、守りを固めてくるようになった。そのようなときにサイドアタッカーを使えばピッチを広く利用し、相手の守備網を打開しやすくなる。何もすべての試合で同じように戦うと言っているわけではない。状況によってウインガーを使う試合も、1トップや2トップを試す試合もあるだろう。

――あなたがスペイン代表監督に就任したのは、監督の交代時によくある危機的状況ではなく、大成功の直後でした。ユーロ08制覇によってハードルが上がったことを理解した上で、どのように臨んだのでしょうか?

 もちろん簡単ではなかった。だが、このレベルでは進むべき方向性、グループとロッカールームのコントロールがしっかりと定まっている。さらになじみの選手も多かったので、物事が難しくならないことは分かっていたし、実際にそうだった。些細(ささい)な問題すら生じることなく、みんなが完ぺきな形で期待に応えてくれた。わたしは素晴らしいチームとともにワールドカップ(W杯)に臨めると思っている。

――23人の招集メンバーが決まって以降、メディアからはまったく批判の声が上がっていません

 それはわたしの功績なのか、スペイン代表と選手たちの質がもたらしたことなのかは分からない。

スタイルを変えることなく上を目指す

――あなたがレアル・マドリー時代にかわいがってきたラウル、グティを招集しなかったことは、間違いなく難しい決断だったでしょう

 そうだね。でも、わたしは常に平等に、選手個々の現状を理解しようと努めている。この選手たちを選んだのは、彼らが最高だと考えたからだ。

――コンフェデレーションズカップでスペインが米国に敗れ、長く続いていた無敗記録が途絶えたのは多くの人々にとって驚きでした

 あれは本当に予想外だった。だが、もしわれわれが賢く、この敗戦を教訓にできれば、決勝のことなど考えず目の前の障害を一歩一歩乗り越えていくつもりでW杯に臨むことができるだろう。良いチームは常にその良さを示さなければならないものだ。

――スペインは何を目指してW杯に挑むのですか?

 スタイルを変えることなく、チームが自らの可能性を信じてプレーしながら、可能な限り上を目指す。われわれは難しい日程となっており、その影響を受けることもある。だがその一方で、われわれは他チームにとって難しいライバルでもある。

――国内リーグは最高峰と言われますが、実際にスーパースターを擁してハイレベルな競争を繰り広げているのはレアル・マドリーとバルセロナの2チームしかいません。これはスペイン代表にとって利点となるのでしょうか?

 その点がメリットになるのかは分からない。恐らく、ならないだろう。でも、もし国外でプレーする多くの選手がうまく機能してくれたら、それはより多くの勝者、もしくは敗北を恐れない選手といった特別な個性が増えることになる。

――グループリーグをどう見ていますか?

 3試合ともしっかり戦わなければならないだろう。本命の立場は引き受けるが、スイスは簡単な相手ではないし、チリは才能あるマルセロ・ビエルサ監督のもと、南米予選で素晴らしい戦いを披露した。

――では、W杯の優勝候補は?

われわれを除けば、アルゼンチン、ブラジル、イングランド、オランダが最も強いと思っている。

<了>

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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