ドゥンガ、信念が結実する日まで=王国の希望を委ねられた監督

批判にも負けず、自らの信念を貫いてきたドゥンガ監督(右)。ブラジルに6度目のW杯優勝をもたらすか 【ロイター】

 就任当初、新米監督は嵐のような批判に見舞われた。監督初挑戦、しかもブラジルらしくない守備的なサッカーを実践したことから、ドゥンガの支持率は常に低空飛行だった。しかし、指揮官は国民の非難にもめげず、自らの信念を貫いた。すると、どうだろう。国民からの不人気をよそに、セレソン(ブラジル代表)はコパ・アメリカ、コンフェデレーションズカップを制し、ワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会では堂々の優勝候補に名乗りを挙げた。
 1994年7月、かつて“闘将”と呼ばれた男は、炎天下で繰り広げられたイタリアとの激闘を制し、黄金に輝くトロフィーを高々と突き上げた。月日は流れ、今度は指揮官としてセレソンを率い、世界の頂点を目指す。支持率は相変わらず芳しくない。だが、それも今となっては関係あるまい。王国の希望はドゥンガに委ねられたのだ。

アルゼンチンに3−0で勝って自信を得た

――ブラジル代表は6度目となるW杯優勝を期待され、その有力候補に挙げられています。しかし、あなたはファンとメディアから疑問の目を向けられ、より大胆なフットボールを要求されてきました。それはなぜでしょうか?

 すべては過程であり、一日で変わるものではない。わたしは常に、落ち着いて仕事をさせてくれ、長期的視野に立った今の仕事を批判するのは結果が出てからにしてくれ、と頼んできた。強豪国の代表監督には選手たちとともにトレーニングする時間がほとんどない。自身のスタイルを浸透させる時間があるのはコパ・アメリカ(南米選手権)、コンフェデレーションズカップ、W杯といった大きな大会前の数週間だけなんだ。

――チームが変わったのはいつからだと思いますか?

 自信を得たのは、アルゼンチンを3−0で破った2007年のコパ・アメリカ決勝からだろう。両チームのそれまでの出来からして、あの結果を予想した者は誰もいなかった。だが、われわれは正しいプランを立て、ふさしい勝利を手にしたと思っている。あのときから多くの人々はわれわれに時間を与え、仕事をさせるべきだと気付いたのではないか。この4年間ではほかにも多くの対立があったので、簡単ではなかったね。

――あなたは最終的に、ロナウジーニョ、ロナウド、アドリアーノといった特別な選手たちとの決別に立ち向かわなければなりませんでした。しかし、多くの人々が彼らは23人の招集リストに名を連ねるべきだったと考えているようですが

 当然ながら、わたしは一番に人々の望みを理解する立場にある。ブラジルが抱える大きな問題は、信じられないタレントを抱えながらも、さらに続々と新たな選手が出てくることだ。そうなると、誰を選ぶかの決断は1000もの要素に左右されることになる。もちろん、あなたが挙げた選手たちの能力は誰の目にも疑いの余地がないことは明らかだがね。

――レアル・マドリーでけが続きのシーズンを過ごしたカカは、W杯で復活し最高のプレーを見せることができるでしょうか?

 そうなることを願っている。われわれにとって彼は必要な選手だからね。彼は素晴らしいテクニックを持ち、スペースを生かすすべを知っている。われわれは彼のフィジカル、フットボール能力に絶対の信頼を置いている。

続投の有無は今大会の結果と内容次第

――幸運に恵まれてきた過去の大会と違い、今回はグループリーグから厳しい組み合わせとなりました。決勝トーナメント1回戦でスペインと対戦する可能性に危険を感じていますか?

 危険という言葉がふさわしいかは分からないが、両チームのこれまでの歩みを見る限り、事実上の決勝戦となる可能性があるのは確かだ。1年前のコンフェデ杯でも両者が対戦する可能性はあったが、彼らは準決勝でつまずいた。でも、これが多くの人々が夢見る対戦であることは分かっている。それがW杯という舞台ならなおさらだ。

――グループリーグのライバルをどう見ていますか?

 ポルトガルが難しい相手であることは分かっている。多彩な武器を持ち、長い間カルロス・ケイロス監督のもとでトレーニングを積んできたチームだ。彼らは欧州予選で苦戦したが、本大会に出てくることは分かっていた。ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドのポテンシャルとゴールだけのチームではない。コートジボワールはアフリカの強豪だ。強力な前線を擁する上、各ポジションのバランスが取れている。北朝鮮はまったくの謎だ。全員がよく走るチームだが、そのサッカーがどのように進化しているのかは分からない。

――これだけ多くのスター選手を抱えていると、チーム内の不和が心配されます。不協和音を生まないようにするには、チームをどのようにマネジメントすればいいのでしょうか?

 非常に難しいことだが、簡単に言うとこうだ。どのようなサッカーがしたいのか明確な考えを持ち、選手たちとはっきり話し合い、彼らに何を求めているのかを説明すること。選手は賢く、勘が鋭い。監督が間違っているときと、そうでないときをよく分かっているんだ。

――少し気の早い話ですが、次のW杯は2014年にブラジルで開催されます。ブラジルサッカー協会からは今大会後の続投を要請されているのですか?

 ブラジルサッカー界の性質的に、W杯を戦う前から次の大会のことを考えるのは時期尚早すぎる。わたしの続投の有無は今大会の結果と内容のレベル次第だ。

<了>

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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